外は降るような星空だった。空気が乾いているせいだろうか。星がくっきりと見えて美しい。
 アッサラームほどではないが、外には人がたくさんいた。涼気を楽しんでいるようだった。
「夜は少し寒いけれど、すごしやすいわね。」
「水も近いからな。昼は逆にあんまり外に出ないみたいだな。」
「本当に厳しかったわ。セイは、本当に砂漠に来た事がなかったの?」
 サーシャはセイからもらった布を肩にまとった。緑の布の上に、青の髪が幻影のように落ちる様が 美しかった。
「暑いのは嫌いだからな。俺は夜か洞窟専門なんだよ。」
「でも、私たちの旅に、付き合ってくれてるじゃない。…どうして?」
「どうしてって…俺はサーシャを愛しているからな。」
 その言葉に、サーシャはふっと笑った。

 サーシャは空を見上げる。月のない空の星は本当に綺麗だった。
「…私、初めて人に愛の告白をされたのは9歳の時だったわ。」
「ほー、相手はあの商人か?」
 ギーツの事を思いだし、サーシャは首を振る。
「いいえ、名前は覚えて居ないけれど、セイと同じ位の年の旅人だった。」
「…そりゃ、ずいぶんと…幼女趣味だな…。」
 さすがに9歳にそう言う感情はもてない。セイは顔を引きつらせる。 それに反して、サーシャはくすくすと笑う。
「本当にね。それまで、同じ年頃に好きだとか言われたり、大人から 養女にしたいって言われた事はあったけれど、『君を一人の人間として愛している』 なんて大人に言われた時は、さすがに面食らったわ。」
「それでどうしたんだ?」
「母さんもとても綺麗な人でね…私とはあまり似ていなかったのだけれど、飛びぬけて優雅な人だったから。 人妻だっていうのに、よくプロポーズされていて。その様子を思いだして断ったの。」
 そう言えば聞いた話だと、セイは思いだす。
「ほー、人妻に手を出す趣味ってのは俺にはわからんがなぁ…」
「…自分で言うのもなんだけれど、私も、顔は綺麗な方だと思っているわ。」
 無表情で言うサーシャの横顔は、本当に女神のように華やかで麗しかった。
「謙遜することはないぜ。俺が見た人間の中でサーシャほど綺麗な人間はいないからな。…まぁ、 ここの人間曰く、ここの女王様も魔王が惚れるくらい綺麗らしいがな。」
「そのせいね、それからもう、数え切れないくらい愛の告白だのプロポーズだのを受けてきたの。」
 他の女が同じ事を言ったなら、駆け引きだと思っただろう。自分の価値をあげて、相手を夢中にさせる。 それはずっとセイがやってきたラブゲームの手段の一つだ。
 だが、サーシャはそういうタイプではないことは分かっていた。少し考えて口にする。
「つまりサーシャは俺には高嶺の花だから諦めろってことなのか?」
「そうじゃないわ。いくら顔が綺麗でも、いくら求婚者が多くても、それが人間の価値とは 繋がらないでしょう?」
 さらりとサーシャは否定した。サーシャならそう言うだろうと思って、セイは納得する。 そっと目を合わせ、にっこりと笑う。
「そうだな。俺はサーシャの顔だけに惚れてるわけじゃないからな。」
「…私、沢山の求愛をもらってきたつもり。だから分かるのだけれど…」
 サーシャの青い目がセイを射抜いた。
「セイは、私の事愛しているわけではないわ。…だから不思議なの。どうしてセイが、この旅に 一緒にいてくれているのか。」


 セイの心臓が跳ね上がった。冷水が浴びせられたように、頭が冷える。出てきた声は確実に上ずっていた。
「ど…うして、そう思うんだ?」
「セイが、好意を持ってくれているのはわかるわ。でもそれは、特別な物じゃない。少なくとも ここまで着いてきてくれるほどの想いじゃない…そうでしょう?」
 サーシャは確信めいたことを言う。
「そんなことは…」
「セイには執着心がないもの。好きになったら心まで手に入れたいと思う。…でもセイは違う。でしょう?」
 セイは言葉を詰まらせる。
「私は聖職者だもの。人の心を見る目は、あるつもりよ。落とせない女を意地で口説く人間もいるけれど …セイはそれに命をかけるほど、愚かではないと思っているの。セイは…私を喜ばせたいと思ってくれている。 …でもそれは『セイ自身が』『私だけを』というわけではないでしょう?」
「…そう見せかけているだけかもしれないぜ。」
「かもしれないわね。でも、それならもう少し熱を感じても良いと思うの。セイはいつも表面を かすっていくだけだわ。…どうして?」
 サーシャの羽織っていた緑の布が、ふわりと風をはらんだ。
「…それは…」
「あれ?二人ともこんな時間に何してるの?」
 声が割り込んだ。トゥールだった。両手には荷物を抱えていた。

「なんだよ、いい雰囲気だったのに邪魔するなよ。」
 セイが顔を崩してトゥールに笑う。トゥールは少し口を尖らせる。
「そんなこと言われても知らないよ。」
 サーシャも先ほどまでの空気をなかったように、いつもどおり笑う。
「別に、ちょっと話していただけよ。夜はすごしやすいわねって。」
「ああ、そうだね。サーシャはもう大丈夫?」
「平気よ。迷惑かけたわね。」
 いつもどおり話しながら、三人は宿屋へと入っていく。
 そうして、ゆっくりと砂漠の夜は更けていった。


 女王出てこなかったーーーーー。なんかサーシャとセイって相性がいいのか悪いのか。蒼夢は なんとなく同類なのだなーと考えております。お互いぐりぐりとえぐりまくり。
 リュシアの出番がない。もうちょっと増やしてやらねばなぁと思っている所でございます…
 次はピラミッドに行けると良いなと思っておりますです。頑張ろう。

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