終わらないお伽話を
 〜 夜空に咲いた 〜



 女王の住む城は、町を見下ろす高台にあった。
 オアシスのすぐ横にあり、少し砂にそまった城が朝日と共に、青々としたオアシスに映りこんでいる。
 早朝の町の風は爽やかで、人が忙しそうに動き回っていた。おそらく涼しいうちに面倒な仕事を終えて しまうつもりなのだろう。
「あんたら、早いね。どこにいくんだい?」
 町の男が、気さくに声をかけてくる。
「はい、女王に謁見をお願いしたいんですが…僕達でも会ってくれるでしょうか?」
「あんたら旅人だろ?なら大丈夫さ。女王様は旅人にあって、他の国の話をお聞きになるのが お好きだから。期待しておきな。女王様は美人だからな。腰抜かすんじゃないぞ。」
 にやりと男が笑う。セイは身を乗り出した。
「へぇ、そりゃすごいな。どんな感じの美人なんだい?」
「そりゃぁもう、肌は真珠のようにすべらかで、黒曜石のような瞳と髪が、まるで彫刻のようなんだよ。 あの美しささえあれば、魔王だって一目で惚れるに違いないね。」
 自信満々で言う男に、セイは手を振ってからため息をついた。
「…なんだ、女王って黒髪の女かよ。俺やめた。」
 あっさりと身を翻す。トゥールが焦ったように声を上げる。
「え、セイ?」
「別に今回は俺が行く必要ないだろ。俺、黒髪の女は嫌いだからな。城なんかにも 興味ないし、そのあたりで暇をつぶしてくるぜ。」
 ひらりと手をあげ、去って行く。トゥールは頭をかしげた。
「…なんかセイ、ちょっと変じゃない?」
「そうかしら。黒髪が嫌いっていうのは、ずっと言ってた気がしたけど?」
「…はじめリュシアも言われたの。」
 サーシャの横で、リュシアは自分の黒髪を引っ張って少しため息をついた。
「城に行きたくないっていうのは前にも言っていたし、いつものことじゃない?」
「うーん、なんとなくなんだけど。まぁサーシャがそう言うならいいか。」
 そう言ってトゥールは歩き始めた。その言葉に目を丸くする。
「何よそれ、どういう意味?」
「へ?別になんでもないよ。リュシア、行こう。」
 まだ髪の毛を見ていたリュシアを促して、トゥールは城へと向かった。


 白い砂の中に作られた城は美しい彫像が並べられた奥にあった。
 そしてその中は表の暑さが嘘のように涼しかった。城に贅沢にも流れている水のせいだろうか。それとも 大きく空いた窓のせいだろうか。
 何故か猫が多く、女王の国らしく女の姿が良く見られた。こうして明るい場所で見てみると、この国の 女性は薄絹をまとっていて、トゥールを少しどきまぎさせる。
「…セイが来たら喜んだかもね。」
 その視線の先を正確に読み取り、サーシャはぼそりと口にする。
「え、あ、でもどうだろうね。早く女王様の元へ行って、早くセイを迎えに行こう。」
 トゥールが歩き出すと、二人の兵士に捕まった。
「お前たちは何者だ!」
「私達は女王を守るための親衛隊。この先は謁見の間へとつながる廊下。そなたたちは何用だ。」
 威圧感のある目だったが、かつて会ったエルフの兵隊のような侮蔑の目ではない。それはなじみの ある、アリアハンの兵士と同じ目をしていた。
「僕はアリアハンから来ました。トゥール=ガヴァディールと言います。女王様にこの 国の事をいろいろ聞きたくて参りました。」
「いろいろとは何だ?」
「それは…」
 トゥールは少し迷う。話してしまっても良かったが、昨日あった老人の話を思いだすと、そのまま 話すのはまずそうだった。
 すっと横からサーシャが出てきた。
「かつて、この国にはアリアハンの勇者が訪れたとお聞きしております。その勇者は女王と 面会なさったともお聞きしております。その時のお話が聞きたいのです。どうか、お願いいたします。」
「…………」
「…………」
 兵士の二人がサーシャの顔を見て、あっけに取られた。首を振る。
「いや、私は女王の親衛隊!女王の為に生き、女王の為に死ねる幸せものだ…」
「いやしかし、女王ほどに美しい人がいるなど…」
 妙にうろたえている兵士だが、サーシャはすでに慣れきっていた。他の二人もだ。トゥールは その動揺を断ち切るように声をかける。
「あの、それで謁見させてもらってもいいですか?」
「あ、ああ、確かに10年ほど前、ここにアリアハンの勇者が来たと伝えられている。行くがいい。」


 謁見の間は大勢の人で溢れていた。特に男性が多い。それも非常に身なりのよい人間が多かった。
「そのためならば、私は何もかも捨てて、貴方に忠誠を誓いましょう。貴方のその美しさは 万物にも勝るものなのですから…」
 どこかで聞いたような台詞が、男から紡がれる。顔を真っ赤にしている男は、どうやら女王を 口説いているらしかった。
「…皆が私の美しさを褒め称えます。ですが、一時の美しさがなんになりましょう…?」
 そう答えた女王は、美しい女性だった。サーシャが女神像だというのなら、女王は壁画。 サーシャが花だというのなら、女王は雫にぬれた果物。サーシャが完成された芸術品ならば、 女王は壊れてしまいそうな一瞬の中にある美しさだった。
 女王は常にたおやかに男に話しかける。だが、それは風に揺れる柳のように折れるものではなく ただ揺れ、そして受け流す。そんな緩やかな強さの口調だった。

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