警備は意外と手薄だった。セイの腕がいいのか、はたまた手薄にしているのか分からないが、 トゥールとセイは、セイの導きにより、あっさりと城の中へと入る事ができた。
「…俺は、ここの構造はなんにも分からないぜ。その場所はどこなんだ?」
 セイの言葉に、トゥールがぽかんと口を開ける。そう言えば、場所を知らなかった。その事を 察したセイが、袖を引っ張る。
「まぁ、女王さんなら上の方の部屋だろうな。それも一番上等の部屋だ。とりあえず上にあがるぜ。」
 セイの言葉に小さく頷く。セイは手近な階段を探して、頭をめぐらせた。
「…もし…勇者様…」
 そこに小さく声がかかる。赤い髪の下働きの女だった。
「はい…」
「こちらです、どうぞ…」
 トゥールをそっと手招きして、階段を登って行く。トゥールとセイは顔を見合わせて、その後を追った。
 おそらく最上階だろう。扉の前で女は立ち止まる。
「こちらです…くれぐれも長居なさいませんように…あらぬ噂がたっては困りますゆえ…」
 ぎろりとにらまれ、トゥールは少しおびえながらも扉へと入る。セイもその後に続いた。

 天井から垂れ下がる布。ベッドの敷き詰められた薔薇の花が、部屋中に匂いを行きわたらせていた。
 ベッドの周りでは、絶えず女が大きな羽で扇ぎ、風を生み出している。部屋の周りにある水のせいか、 不思議なほど涼しかった。
 そして、そのベッドには、女王が座っていた。おそらく寝衣だろう。薄絹をゆったりとまとっていて、驚くほど 妖艶だった。
「…なんか、嫌な感じだな。」
 セイはトゥールの耳元でそうささやく。その声が聞こえたのか、女王は口の端をあげた。
「ここまで来てくださったこと、感謝しております。どうか、もう少し近くへ…」
「はい…女王様…あの、一体なんの御用でしょうか?」
 トゥールは警戒しながらも、ベッドの側に寄る。セイは、退路を確保する意味で、扉の前を動かなかった。
「…貴方のお父様にお会いした時、私はまだ、幼く、女王になったばかりでした。貴方のお父様に特別なものを 感じてはおりましたが、それでも魔法の鍵は渡せない…私はそう言って貴方のお父様を追い返しました。 魔法の鍵を渡すと言う事は、その者に国の加護を与えるも同然だからです。他国の者にそれはできないと…今思っても 女王としては正しい判断だったと…そう思います。」
「はい…」
 女王は起き上がり、トゥールの頬に触れる。
「ですが、貴方のお父様が亡くなったと知った時…私の胸に寂しさと、後悔が湧き上がったのです。もしあの時、 魔法の鍵を渡していれば、お父様は死ななかったかもしれない…たとえ、結果は同じでも、あの人と共に、私の 思い出は旅に出られたのかもしれない…。思えば、初恋だったのかも知れませんね。」
 女王の言葉に、トゥールは苦笑した。正直なところ、そんなこと自分に言われても困る。
「…僕は、父さんじゃありませんよ。」
「分かってはいます。ですが、同じ後悔を繰り返したくありません。ですが、女王としてピラミッドに兵を入れ、 魔法の鍵を渡すわけにも行きません。…魔法の鍵は、ピラミッドの最奥にあります。途中、盗賊避けの罠があるでしょう。 呪いが振りかかるという噂もあります。…それでもと言うのならば、どうぞお持ちください。」
「いいんですか?」
 トゥールの言葉に、女王は笑う。
「私は、何も関知いたしません。勝手に取っていく分には私は最初から 最後まで知る事ができません。私はただ…少し思い出話をしただけです。」
 そっと女王は、トゥールから手を離した。
「私はこの国を守ることしかできません。ですが、貴方も貴方のお父様もこの世界を守ろうとしていらっしゃいます。 どうぞ、そのゆく手に幸いがあることをお祈りしております。」
 言った言葉は、謁見の間の時と変わらなかった。だが、その笑みはおそらく他人に見せる事のない、 私人としての笑みだった。


 城の外に出て、セイは息をつく。
「結局なんだ、ピラミッド行って取って来いってことかよ。面倒くせーな。」
「でも、一応認めてくれたんだから。それがあると便利なんだよね?」
「まぁな。ポルトガに出入りできるようになる。あそこは有名な船の生産地だからな。そっから この大陸を抜け出すのが一番いいだろうな。アッサラームの横の山脈を登ってたんじゃ、命がいくつあっても 足りないだろうしな。」
 もらった地図を思いだす。確かにアッサラームから東に行くには、巨大な山脈がある。
「……ところでセイ、…サーシャとなにかあった?」
 唐突なトゥールの言葉に、セイは息を飲み込む。
「なんだよ、いきなり…別に、何もねーよ。」
「ならいいんだけど、昨日の夜、ちょっと変だったし。」
 トゥールはセイの顔を覗きこむ。それを阻止するように、セイはトゥールの頭を押さえた。
「いいからとっとと帰って寝るぞ!サーシャとリュシアが今頃やきもきしてながら待ってるはずだぜ。お前が 女王と一夜を共にしてないかってな。」


 ピラミッドを終わらせるはずだったのに…おかしいな。という牛歩の歩みのお話です。 ダンジョンは苦手なので、次は一気に行きます。はい。
 女王様は一回限りのご登場なので、この先は出て来ません。オルテガさんへの思いもこの先からんで 来ませんのでご安心を。…しかしオルテガさん、一体どんな色男だったんでしょうねぇ(この話の 設定ではカンダタの色違いではありません)

 セイとサーシャのいざこざは、もうちょっとかかりそうです。気長に見てやってくださいね。

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