少し小さなポルトガの城は、舶来の高級品で飾り付けられている。歴史を感じさせたロマリアの城とは対照的でありながら、 実に良く似た印象を与えた。
 兵士に何度も話を通しながら、トゥールたちは謁見の間へとたどり着いた。
「そなたがアリアハンの認めた勇者か。」
 トゥールたちを見るなり、ポルトガの王は尊大にこちらをにらむ。
「はい。トゥール=ガヴァデールと申します。」
「話は聞いておるぞ。火山に落ちて死んだへなちょこ勇者の息子じゃろ。」
 その言葉に、横に控えていた大臣が顔色を変える。
「王!なんということを!勇者オルテガと言えば世界に名を知らしめ、人々に希望を与えた勇者でございますぞ!」
「ふん、事実ではないか。」
 言い放つ横で、サーシャが顔色を変えている。怒鳴り付けたいのを必死で押さえているのだ。
「…父の果たせなかった使命を果たすため、旅に出ました。どうかそのために船を購入する許可をお与え下さいますでしょうか?」
 トゥールは淡々とそう言った。その表情からは何も読み取れない。王はトゥールをしばらくにらみ、顔を背けた。
「ふん。アリアハンと言えばあのロマリアの同盟国ではないか。そんな人間に世界一のポルトガの船など与えられる ものか。帰れ帰れ。」
「王様!お言葉ですが、それはあんまりのなさりよう。ポルトガは造船によって栄えた国。そのような私事で許可を 断るようでは、評判に関わりますぞ!」
 大臣の言葉に、王はますます機嫌を損ねた様子だった。
「ふん。知らぬ。わしはこの国の王じゃ。この国の事はわしが決めるんじゃ。勇者とも認められんような、 ちっぽけな子供ではないか、こんなのを勇者と認めるなぞ、アリアハンもどうかしとるわ。」
「はー…ポルトガの王って言うのはロマリア王に比べて、器が小さいねぇ…」

 全員が発言者を見た。セイが心底呆れた様子で笑う。
「ロマリア王は、かのカンダタを退治した暁には快く褒美を約束して下さったって言うのに、 こっちの王は船の許可すらくれねぇんだもんな。けちくさいよな、さすが成り上がりだ。さぞ貧乏してるんだろうぜ。」
「な、なんじゃと!そんなことはないぞ!古臭いだけのロマリアに比べて、こちらの方が財政も潤っておるわ!!」
 王はわなわなと言い返す。だが、それをあっさりとセイは受け流す。
「なんてったってロマリア王は、この勇者様に国ごと下さろうとしたんだぜ?豪気なことだよな。な、トゥール?」
「あ、うん。確かに国ごと僕にくれるって言ってくださったけど…」
 うろたえながらトゥールがそう言うと、セイは笑う。
「それに比べてこっちは肝っ玉が小さいもんだ。船の購入許可すらくれねぇんだもんな。もういいか、ロマリアに 行けば、豪華客船の1隻や2隻、ぽーんと下さるはずだぜ。こっちのせこい国と違ってな。」
「まままま、待て!ロマリアの古臭い船なぞ、すぐ壊れてしまうに決まっておるぞ!そ、それならばわしにも考えがある! わしの頼みを聞いた暁には、そなた等が望む世界一の船を与えようぞ!!」

 焦った様子に王を見て、セイはひっそりとほくそえむ。トゥールは真面目な顔で王に問いかけた。
「ではポルトガ王。僕に何をお望みでしょうか?」
「…そうじゃなー…わし、黒こしょうが食べたいぞ。うん、黒こしょうじゃ!東の国、バハラタで売ってるんじゃがの。 海の魔物のせいで、今は手に入らんのじゃ。黒こしょう黒こしょう。それを取って来い、な?」
 王の言葉に、大臣は顔をしかめる。
「しかし王、お言葉ですが、バハラタにつながる山脈は人にはとても越えられるものではありません。船でも 使わぬ限りは、無理なのではないでしょうか?」
「ふん、船など渡しては、そのまま持ち逃げされるではないか。」
「そんなことは決して…」
 トゥールの言葉をさえぎって、王は紙を取り出してさらさらと何やら書き綴って差し出した。
「これは東への抜け道を管理しとる者への手紙じゃ。アッサラームの近くに抜け道があるぞい。 それを持って行けば道を通してくれるじゃろ。必ず黒こしょう、もってこい、わかったな。」
「王!それはこの国代々の極秘の抜け道で…!!」
 ガミガミと声をあげる大臣の横で、トゥールはその手紙を受けとって頷いた。
「必ず、黒こしょうを持ってくるとお約束いたしましょう。」


 サーシャは怒りに打ち震えていた。リュシアもなんとも不機嫌な顔をしている。
「な、なんなのあの王様…。トゥールの事を非難するのはいいとしても、アリアハン王やオルテガのおじ様のことまであんなふうに 言うなんて…トゥールももっと怒りなさいよ!!」
「でもサーシャ。父さんが消息を絶ってしまったのは確かなんだよ。…世間がどう言おうと、僕は父さんがとても すごい人だったって知ってる。だから気にしないよ。」
 リュシアはその言葉に感心したように大きく頷いた。
「…トゥールがすごいの、リュシア知ってる。」
「それは…、まぁ、そうだけど…」
 サーシャも少し怒りが収まったようだったが、それでもどこか煮え切らない様子だった。だが、 トゥールは笑顔でセイに向き直る。
「それに、セイのおかげでこうやって船を手に入れる算段がついたんだから。ありがとう、セイ。」
「…どこの権力者も馬鹿ばっかりだよな。言っちゃ何だがロマリア王と言う事が良く似てるぜ。」
「…まぁ、結局ポルトガ王家にもロマリアの血が流れてるわけだし…大臣さんがしっかりしてるからきっと大丈夫だよ。 って、ロマリアの時もサーシャがそんなこと言ってたよね。」
 少し苦笑しながらトゥールがそんな事を言った。


 すでに夕暮れ近くなっていたため、四人はポルトガに宿を求めた。ルーラでアッサラームに向かうことも考えたが、 女性陣がそれを拒否したのだった。
 セイは珍しく飲みに行かず、道具を手入れするために荷物を広げていた。ポルトガと言えばワインなのだが、 セイはあまりワインは好みではないのだ。
 それに長年旅をする経験で、道具の手入れを怠ると命に関わることも知っていた。
(…俺は、どうしたいんだろうな…)
 道具を一つ一つ広げながら、そんなことを考えていた。
”どうしてセイが、この旅に一緒にいてくれているのか。”
 サーシャの問いは、そのまま自分への問いだった。
 サーシャのためじゃないことは、自分の中ではっきりしている。けれど、ただの暇つぶしじゃない。 ただの暇つぶしで命をかけるほど、酔狂じゃない。
 …ただ生きるために生きてきた。誰かに支配されるのが嫌で、一人で生き抜いて来た。
 ただ、なんとなく居心地がいいのだ。この旅が。そして多分、トゥールが。そう考えて セイは苦笑する。
 裏切られて当たり前の盗賊の世界と違い、トゥールは自分をただ必要としていることが居心地がいいのだろうと、 誰かを疑って疑われて生きてきた自分が、信じられる事に飢えていたのだと、自分の幼さに苦笑した。
 いつか、ちゃんと答えを出さなければならない。どこまで一緒に旅をするのか。もしも 最後まで付き合うならば、それ相当の覚悟を決めなければならないことも知っていた。
(サーシャにも、ちゃんと話さないといけねーしな…)
 サーシャにそう言われて、口説くのをやめていた。サーシャを口説いていた目的は、自分の中ではっきりしていたからだった。
 セイの足元で、乾いた音がする。考え事に夢中で、手の中にあった砥石が床に落ちて割れた音だった。
「…やべ…もう店空いてねーよな…」
 ナイフを見ると、刃がぼろぼろだった。早急に研いだ方がいいだろう。セイは立ち上がって部屋を出た。


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