終わらないお伽話を
 〜 清きに水も 〜



 ”そんなある日の事です。国中にこんなお触れが回りました。
 泉の水で自分自身の花嫁衣裳を作った女を王子の花嫁にする、というものです。

 ですが、そんな事は誰にもできませんでした。どうしても王子の花嫁になりたい国中の 女たちは、諦めきれず美しいドレスを織りました。”



 アッサラームからすぐ北の森。森林の隙間に隠れるように、山脈の手前の岩肌に、小さな小さな洞窟があった。
「…ここか。確かにいい抜け道だな。」
「けど、ここからバハラタに抜けられるなら便利だと思うのに、どうして知られてないのかな…?」
 首をかしげるトゥール。ぬめる床を注意しながら、サーシャはそれに答える。
「道を通してくれるとかって言っていたから、国の見張りがいるんじゃないかしら…?」
「扉。」
 リュシアが指で示した先には、小さな洞窟にふさわしくない頑丈な扉があった。セイは少し探って、盗賊の鍵を 使ってこれを開けた。
「どうやら、ポルトガ独占の道みたいだな。魔法の鍵じゃねぇし。結構古いな。」
「…通すってこれのことなのかしら…?」
 きょろきょろと歩きながら、狭くて暗い一本道をひたすら歩いていく。そしてすぐ、行き止まりについた。
「行き止まりか…?」
 セイが壁を叩くと、にぶい音が響いた。岩壁は硬く、どこにも隠し扉などはなさそうだった。
「あっちに、横道があるよ。」
 ちょうど影になって見えづらいところに、小さな横道を見つける。そしてそこをくぐると、小さな灯りのゆらめきと、 人の気配を感じた。

 井戸があり、灯りがある。そしてそこにはわずかながらも生活観があった。
「…あのー、すみません…」
 トゥールがためらいがちに声をかける。すると横道の奥から不機嫌そうなダミ声が帰って来た。
「…なんだね?あんたら人ん家にずけずけと…ここはわし、ホビットのノルドの家だ。出ていきなされ!」
「…ここは抜け道じゃないのか?」
 セイたちは目を丸くする。声を主を探して奥に進むと、粗末ながらも人が生活するための道具が整えられた、 小さな部屋に、小さな男が立っていた。
「抜け道…なんのことだね?」
 いぶかしがる男に、トゥールは手紙を取り出した。その表書きには『ノルド』と書かれていることを 確認して、トゥールは手紙を差し出した。
「…ノルドさんなんですよね?ポルトガ王からお手紙です。」
 ノルドは手紙を受け取って、黙って読み始める。そしてため息をついた。
「まったくあの王は…仕方ないのう、おまえさんら、東へ行きたいんじゃな?」
 トゥールが頷いたのを確認すると、ノルドは立ち上がり、今来た道を歩き出した。
「それじゃ、着いて来なされ。」
 そう言い残して、通路の奥へと消えて行く。
「…隠し扉はなかったと思うんだけどな。」
「仮にも王国の隠し通路なんだから、特別な仕掛けなんじゃない?」
 そんな事を言いながら追いかけて行った先は、本当になんの変哲もない壁だった。
「そこに立っていなされ。」
 ノルドはそう言うと、勢い良く壁に体当たりを始めた。
「え?」
 力強く三回、硬かった岩肌に体をぶつけると、あっさりとそこに新しい通路が開いた。
「さ、ここは入り口じゃ。お通りなされ。」
 あっさりと道を開けるノルド。四人は一様に口をあけた。
「あ、ありがとうございます…」
 なんとか立ち直ったトゥールが、頭を下げてその道をくぐる。どうやら向こう側は変わらない通路が 続いているようだった。


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