終わらないお伽話を
 〜 そして再戦 〜



 四人は無言で北東へと向かっていた。おそらくグプタがその場所を知っているのだろう。足跡が 残っている。
 そして、その先頭に歩いているのはセイだった。顔をこわばらせて、ひたすらに洞窟を目指している。
「…セイ、どうしたのかしら…。なんだか怖い顔をしているわ。」
 サーシャは小声でトゥールにささやく。人助けに異論はないが、本来なら真っ先に嫌がりそうなだけに 意外だったのだ。
「セイはいい奴だからね。」
 トゥールはただそう言って笑う。
「そうね、それは否定はしないわ。ただやっぱり、様子がおかしいと思うんだけど…一言も 話さないし…。」
「…心配。」
 サーシャとリュシアが不安そうな目を向けるも、セイはただひたすら早足で山奥へと進む。
「きっと大丈夫だよ。行こう。」
 トゥールは笑って、セイに追いつくために足を速めた。

 その洞窟は、案外人里離れてはいない、森の入り口近くにあった。
 だが、木がうっそうと茂り、岩山がさりげなくその洞窟を隠していて、盗賊の根城にはぴったりの 場所だった。
 その入り口に、新しい足跡がはっきりと残っている。どうやら追い付けなかったらしい。
「追い付けなかったわね。…それにしてもグプタさん、良くモンスターに遭わなかったわね。」
「それにしても、立派な洞窟だね。」
 トゥールの言葉に、セイがつぶやく。
「なかなか立派な盗賊団なんだろうな。しっかり手入れされてるぜ。」
「セイが知っている所じゃないんだよね?」
 トゥールがセイを覗きこみながら聞いた。セイは頷く。
「ああ、俺はこの当たりは良く知らねぇな。来た事ないからな。」
 サーシャは少しだけ試すつもりで、わざと言った。
「…でも大きい盗賊団なら結構危ないのかしら?」
「まぁな、でも女が泣いてるんだろうからな。仕方ねーだろ。」
 セイは、そう言うと洞窟の中へと入っていった。三人は顔を見合わせて、中へと続いた。


 それは、解放された頃の出来事。
 その女は失恋したと言って泣いていた。
 女の高く響く声が嫌いだった。ただ、それだけだった。

「セイ、ちょっと待って!!」
 鏡あわせのように同じような部屋が連なる洞窟に、小さな乾いた音が響き渡る。
「なんだ?」
 腕をつかまれたセイが不思議に思い覗きこむ。トゥールがセイを引き止めて、隣の部屋に石を投げ込んだのだ。
「こういう同じ部屋が並んでるって言うのは何か罠がありそうな気がしない?」
「あ…わりぃ…俺の役目だよな。」
 我に返った様に頭を掻いたセイにトゥールは笑う。
「気がせくのは僕も一緒だよ。みんながひどい目に合わされないうちに早く助けたいね。」
「トゥール…えらいの。」
 うっとりとするリュシアの横で、サーシャはセイをなだめるように背中を軽く叩いた。
「そうね…そのためには私たちが無事じゃなくちゃね。…でも、そうするとグプタさん、無事かしら…。」
 サーシャの言葉にセイが笑う。
「逆に言えば、罠があればグプタがひっかかってくれてるだろうから、何にも作動してなきゃ安心かもな。」
「それひどいよ…でもまぁ、一応罠と、グプタさんが罠にひっかかってないか注意して進もう。」
 トゥールは少し苦笑して、ゆっくりと進み始めた。


 幸い罠が解除されていたのか、罠に遭う事もなく、罠にかかったグプタを見ることもなかった。数匹の モンスターを倒した意外は、変わった所はない。
 だが、どれだけ進んでも同じ部屋と言うのは、方向感覚が狂いそうになり、何度も同じ部屋を行ききする羽目になった。

 ほぼ入り口から一直線のところに、下に続く階段を発見した。おそらくそこまで行くには 一直線に進んでは入れない配置をしているあたりに、意地の悪さを感じる。
「…うん、下から人の気配がするね。」
 洞窟に入ってからはすっかり消えてしまったグプタの足跡を探しながら、セイは感心したように言う。
「しかしグプタ、意外とすばやいな。途中でモンスターに襲われたりもしてねーみたいだし…。」
「きっと神様のお導きね。もしかしたら、とっくにグプタさんが助けだしているかもしれないわね。」
 蝋燭の灯りとそれに照らされた人の影が、階段を降りた四人の前に現れた。
 鎧を付けた男たちが、トゥールたちの前に立ちふさがった。
「なんだおめえらは?!」
「よぉ。」
 セイが手をあげる。それを見て、そこにいた男達が武器を下げる。
「なんだ、白刃か。めずらしいな。仕事もらいに来たのか?残念だけどな、お頭でかけてるぜ?」
「…ん?お前等見張りか?」
 セイが顔をしかめる。その様子を不思議に思いながら、男達は頷いた。
「ああ、さっき町の男がきやがったしな。…馬鹿だよなぁ。」
「…本当に馬鹿だな。」
 セイはそう言うと、大笑いしていた見張りの男の頭を、鞭の柄で殴りつけた。
「なにしやがる!」
「ルカナン!!」
 殴り返そうとした男たちに、サーシャは防御力低下の呪文をかけた。それを見て、セイはにやりと笑った。
「馬鹿になりに来たんだよ、俺はな!」


 ひとふりしたトゥールの剣が、盗賊の男の鎧をやすやすと切りさく。サーシャの呪文の成果だろう。
 サーシャに殴りかかろうとした男に、セイは鞭をふるった。勢いよく振るわれた鞭が男の胸元に当たる。男はたたらを踏んで 後ろに下がった。そのままの勢いで、残っていた男たちの目をめがけて鞭を振るう。目を
「ベギラマ!」
「バギ!」
 リュシアとサーシャがとどめに呪文をぶつける。見張りの男達は反撃する暇なく、昏倒した。


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