「…やばいな。助けてとっとと逃げるぜ。」
 倒れた男たちを見ながらセイがそう宣言する。サーシャが目を見張る。
「ずいぶんと今更ね。どうして?」
「こいつら、多分カンダタの子分だ。やばいな、まさか金腕がひとさらいなんてすると思ってなかったからな…。どっかの 新規のやつらだと思ってたんだけどな…。」
 白く光る頭を掻いて、セイは奥へと進む。トゥールは頷いた。
「うん、僕ももう一度は会いたくないな。早く行こう。」
 男たちを起こさないように、四人は早足で奥へと進む。
 奥は盗賊たちの移住区になっていたようで、居心地がよさそうな椅子などが並んでいた。そしてその奥には、 かなり頑丈な鉄格子があった。
「…あ…ど、どこの誰かは存じませんけど、助けてください!私はタニア。バハラタの町に住む者です。!」
 そう叫んだのは、中に閉じ込められていた女性だった。セイはかけよる。
「…怪我はないか?」
「ええ。何も…ありがとうございます。ですが、グプタが…。」
 グプタはその牢にはいないようだった。セイが盗賊の鍵を試して見るが、さすがに盗賊の鍵では開きそうになかった。
「魔法の鍵でも駄目かしら?」
「多分駄目だろうな。」
 セイにそう言われたが、サーシャは一応試してみる。だが、やはり開ける事はできなかった。
「駄目ね。どうしたら開けられるのかしら…」
「…あの…」
 そこにかすれた声がした。
「グプタ!?」
 女性が声をあげる。トゥールとリュシアが声をした方へとかけよる。隣の牢屋には傷だらけになった男がひとり、転がっていた。 手当てされている様子はなく、辛そうだった。
「大丈夫ですか?」
「…僕は…平気です…。情けないです…。それより突き当たりの壁にレバーがありませんか…?多分…それが…はやくタニアを 解放して…」
 口元から血がたれる。おそらく相当殴られたのだろう。リュシアは急いで走り、レバーを力いっぱい引いた。
 そのとたん扉が開き、タニアが牢から飛び出してきた。グプタの元へと駆けよる。
「グプタ!ああ、グプタ…私の為に…。」
「ごめんよ…僕、助けてあげられなかった…。」
「いいの!いいの…貴方が来てくれて嬉しかった…でも…私のせいで…」
 睦みあう二人に、サーシャは申し分けなさそうに割り込む。
「ごめんなさい…治療させてもらってもいいかしら…?」
「はい!お願いします!」
 少し顔を赤くしながら、タニアは頭をさげる。それでもしっかりと手をグプタの握り締めていた。

 サーシャが呪文を唱え、グプタの体を癒していく。ゆっくりだが確実に傷が消えていく。
「ありがとうございます…本当に僕、情けなくて…。」
「いや、自分で自分の女を助けようとするってのは、いい根性じゃねぇの?」
「まったくだな…だが、結局力がなきゃ、なんの意味もねぇよな!!」
 最後に割り込んだ声に振り返る。そこには、子分を連れたカンダタがにやりと笑って立っていた。


 トゥールとセイは、とっさに治療中のサーシャたちをかばった。リュシアはトゥールの後ろで小さく隠れた。
「よぉ、落ちぶれたもんだな。ひとさらいなんてもんに手を出すとは、金腕の名もすたるぜ。」
 セイがわざとそう軽口を叩く。カンダタはさも友好的な態度で笑う。
「まぁそういうなって。あんまり俺の好みでもないんだがよ。子分たちだって飢えてるんだよ。このあたりは あんまり女売ってないからな。それに俺は、その名前なんてどうでもいいしな。なぁ、白刃?」
「なんだよ?」
 カンダタは手を伸ばした。握手を求めるように伸びたその手は、まるで金の塊のように硬く鍛えられていた。
「今までの付き合いだ。最後にチャンスをやろう。勇者を切って、その女二人を捕らえろ。それなら 殺さずにいてやるぜ。お前も盗賊らしく人生派手にやろうぜ。」
 セイは手を伸ばす。
「知ってるだろ?俺は、仁義を守る主義なんだよ。それに…女を泣かすような非道な真似なんてまっぴらごめんだ。」
 真顔になって、手を跳ね除けた。同時にトゥールとセイが左右に飛びのいた。


「リュシア!!」
 トゥールが叫ぶ。それに答えてリュシアが頷く。
「ベギラマ!!」
 隠れながら唱えていた呪文を放つ。だが、カンダタはそれを予想していたようだった。両腕で顔をかばい、火を 強引に払いのけた。
 だが、すでに一度ダメージを受けていた子分はそうはいかなかった。左右から回り込んだトゥールとセイが力いっぱい頭を 殴りつけると、子分たちはくたりと地に倒れた。
「まったくなっさけねーな…。ちったぁ鍛えとけよ!」
 そう言いながらもカンダタは余裕を持っているようだった。
「お前が鍛えすぎなんだよ、金腕。」
 呆れながら笑うセイの横で、トゥールが剣を構える。
「四対一だけど、まだやる?悪いけど僕は一対一で正々堂々なんて考えてないけど。」
「はっはっは、勇者よ、お前のそういうとこ、結構好きだぜ。だがな、たかが勇者風情が何人集まろうと、 このカンダタ様に勝てると思うなよ!!」

 カンダタは、壁にかかっていた斧を力一杯ふり回す。セイはそれを避けたが、トゥールは避けきれず柄で頭を叩かれ壁に 打ち付けられた。
「メラミ!!」
 リュシアがカンダタをにらみ、大きな火の玉をカンダタに投げる。だが、カンダタは斧でその火の玉を切り裂いた。
「お前、まともじゃないぜ!!」
 セイはそう言いながら、斧をからめ取ろうと鞭を振るう。だが、すばやく斧で薙ぎ、鞭をそのまま切る。
 そのセイの横を、黒い影がすり抜ける。
「この!」
 黒い影はグプタだった。傷が治ったグプタが、カンダタに体当たりしたのだった。だが、カンダタはびくともせず、 グプタの襟元に手を伸ばす。
「グプタ!!」
「バギ!」
 タニアの悲鳴に合わせる様に、サーシャの呪文が伸ばしかけた手を切りさく。さすがにこらえきれず、 カンダタの手の甲に赤い筋が入った。
「タニアさんを守って逃げて!!」
 サーシャの言葉に難を逃れたグプタに、サーシャは叫ぶ。グプタは頷いてタニアの手をとって駆けだした。 そして後追いできないように、サーシャが道をふさいだ。


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