終わらないお伽話を
 〜 真意 〜



 ”そんな中、妹だけは泉の水で美しいドレスを織り上げることができました。両親は娘が お姫様になればもっと楽して暮らせると大喜びです。
 ですが、意地悪な姉だけはどうしてもそれが気に入りませんでした。
 姉は自分で織ろうとしましたが、織り機は動こうともしませんでした。”



 バハラタに帰って来たトゥールたちを待っていたのは、狂喜乱舞したグプタとタニア、そしてタニアの祖父だった。
 ほとんど言葉にならない言葉で礼を言われ、抱きしめられ、握手をもとめられた。
 そして黒こしょうを買おうとすると、ものすごい勢いで首を振りながら押し付けられ、結果 その勢いに負ける形で、無料で黒こしょうを手に入れた。
「本当にいいのかしら…?」
 サーシャの手にある皮の袋の中には、黒い塊がずっしりと入っていた。不思議な匂いは、確かに 食欲をそそる匂いと言えるかもしれない。
「うーん…船と交換する!っていうくらい高級品…なんだよね…」
「…たくさんあるの。」
 その重さに戸惑うトゥールとリュシアに、セイが軽く答える。
「まぁ、娘と婿に比べりゃ安いもんだろ、気にする事はないぜ。…カンダタと戦うには安すぎるしな。」
 心底疲れた表情だった。サーシャがセイの顔を覗きこむ。
「…一度、ポルトガに戻りましょうか?」
「え?だってサーシャ、ダーマに…」
 驚いたトゥールに、サーシャが笑う。
「悟りの書もダーマも逃げないもの。それに船がちょうどあればいいけど、もしこしょうを渡してから建設するなら、 その時間がもったいないでしょう?どうせ魔法でここまですぐ来られるし、一度ポルトガに帰って休んだほうがいいわ。」
「…わりぃ。」
 セイが、前髪を掻きあげて短くそう言った。
「セイのせいじゃないわよ。トゥール、どう思う?」
「うん、かまわない。元々はその予定だったんだし。こしょうが腐ったり痛んだりしたら嫌だしね。リュシアもいい?」
 屈託なく言うトゥールに、リュシアは頷いた。
「サーシャが良いなら…良いと思う。」
「まぁ、こしょうはそう簡単には腐ったりしねぇけどな。んじゃ、とっとと戻るか。」
 セイの言葉に、リュシアは呪文を唱え、四人は空へと消えた。


 ポルトガについた時には夕暮れが迫っていたが、幸いあっさりと入城を許可され、四人は黒こしょうを持って国王に 謁見した。
 国王は身を乗り出し、挨拶もせずに尋ねてくる。
「待ちわびておったぞ。黒こしょうは持ってきたんじゃろうな?」
「はい、ここに。」
 トゥールが皮の袋を開けると、独特の匂いが謁見の間に広がった。
「おうおう、確かに。さ、ささ、それをこちらに渡せ。」
「はい。」
 トゥールは立ち上がる。それをセイがとどめた。
「それで王様。お約束の船は、すでに用意してあるのでしょうか?それともこれから建造して いただけるのでしょうか?」
「船?そんなもん知らん。ささ、早く黒こしょうを。」
 あっさりと約束を反故する発言に、リュシアは顔をゆがめ、セイはため息をつき、サーシャは思わず立ち上がる。
「神の下で口にされた約束を守らぬ王が治める、このポルトガが滅びないことを、心からお祈り申し上げます。…行きましょう。」
「ああ、そうだな。これはロマリア王にでも献上するか。」
 セイはトゥールから皮袋を取り上げ、背を向けた。王が怒り顔で立ち上がる。
「待て、冗談じゃ!まったく高貴なるものの心の余裕も分からんとは!!だ、大臣!!ほれ、紙をよこせ!! この間作った、ほれ、遥かなる葡萄酒の香り号をこの者たちに譲れ!!」
「王!あの船は国家予算の…」
「うるさい!ロマリア王に負けるなど認められん!!ほら、書類を渡せ!!」
 無理やり書類を剥ぎ取り、なにやら書き込んでトゥールに荒々しく手渡した。
「まったく高貴なる者へ貢ぐならばともかく、物をねだるなど下賎な者たちめ!これで満足じゃろう?! さ、黒こしょうをよこせ!!」
 トゥールは無言で黒こしょうをセイから取り戻し、王の手に置いた。
「…ポルトガ王のご好意、感謝いたします。」
 そう言って、トゥールは深く礼をして立ち上がった。


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