終わらないお伽話を
 〜 新たな旅立ち 〜



 朝日が妙に黄色く見える。黄色い光が波間に反射して、うろこのように光っている。
 よりかかった船のへりが寝不足の頭と一緒に揺れている。セイはぼんやりと空を見上げた。
(まぶしいよな…太陽が…)
 船には何度か乗ったことがあるセイだが、この小型船が立派であることが分かる。大臣が ためらっていただけあって、たっぷりと金をかけた最新型だ。これなら四人での長旅にも耐えられるだろう。
 トゥールは基本的な乗り方を、親方から教わっている。リュシアは船に乗るのも初めてなのだろう、 ものめずらしげに色々と見て回っている。
 そしてサーシャはいまだに船に乗り込んではいなかった。

「…行ってしまうんだな…」
「うう、貴女が来てから、俺たちは本当にやる気が出た…あんな国王の下で働いているのが嫌だったのに、 貴女はそれを乗り越えて、俺たちに希望を与えてくれた!!」
「あんたはまさに海の…いや、俺たちの女神!…どうかあんただけでも残ってくれないか?あんたのためなら… 俺…」
「何抜け駆けしてるんだ!!俺は…俺は最初に会った時から…ずっと貴女のこと…。」
「君と一緒になれるなら、妻とは別れる!どうか俺と一緒になってくれ!!」
 男たちが十重二十重と囲んだその中心にいた。男達は、サーシャの手にすがりつき涙をこぼしている。 抱きつく者こそいないが、手放したくないとばかりに、夢中に話を進めている。
 サーシャは慣れた様子で、その一人一人をなだめ、感謝の言葉を言っている。だが、その 会話は尽きることなく続き、サーシャの顔にも疲れが見え始めた。
「…サーシャ…」
 つぶやかれた声に横を見ると、リュシアが心配そうにサーシャを見下ろしていた。
 その声に気がついたサーシャは、リュシアの方を見て、申し訳なさそうに小さく手を上げた。
「止めたほうがいいのか?」
 セイがそう言うと、リュシアは少し考える。
「サーシャ慣れっこ。でもあれだけたくさん、リュシアなら怖いの、きっと。」
「そーか。」
 その言葉に、セイが体を起こす。船から降りてサーシャを助けようとしたその時、セイの横に 黒い影が飛んだ。
「サーシャ。そろそろ行こう。」
 トゥールが男たちの塊の近くに軽い音を立てて降りたった。どうやら縄をつかんで振り子の要領で飛び降りたらしい。

 セイは目を丸くした。身が軽いセイならおそらく同じ事ができるだろうが、あえてそんなことをやろうとは思わない。 リュシアは横で、トゥールの身のこなしに見とれていた。
 男達は相当驚いた様子で固まっている。サーシャも目を丸くしたようだが、微笑した。
「準備ができたのね?」
「うん、もう出発できるよ。」
「そう、ごめんね、待たせて。…それでは皆さんお元気で。皆様の上に、神の祝福があるよう、 心よりお祈り申し上げます。」
 サーシャはにっこりとそう言って、固まっていた男たちの輪から出て、搭乗口へと向かう。我に帰った男たちが、 サーシャにつめかけようとするのを、トゥールが手で制した。
「…すみません。でも、サーシャは僕の仲間です。ここに残して行く事はできません。」
 まっすぐに男たちを見据える。その気迫に押されてか、男達は何も言わなかった。
「親切にしていただいて、ありがとうございました。おかげで僕達はこうして船出することができます。」
 トゥールはそう頭を下げて、サーシャと共に船へとあがった。親方と呼ばれていた男が、トゥールと入れ違いに船を降りた。
「そら!お前たち、仕事だ仕事!!阿呆なこと言ってるんじゃねーぞ!!」
 手を叩きながら、男達を散らす。男達はサーシャに未練を残しながらも、それぞれの配置へと戻って行った。


 トゥールはぎこちない動きで、操舵輪をにぎる。
 そして、ゆっくりと船は動き出した。


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