終わらないお伽話を
 〜 真理への道(前編) 〜



『…なぁ、トゥール、ちょっといいか?』
『いいよ、何?』
『…俺が転職するって言ったら、反対するか?』
『セイがしたいなら、僕が反対する理由はないけど…いいの?』
『別に俺、やりたくてやってたわけじゃねぇしな、盗賊。…気がついたらなってただけだ。』
『それで、なんになるのさ?』
『このパーティーで力で敵を倒せるのは、トゥールだけだろ?もう一人くらい居たほうが、この先いいだろうと思うんだが。』
『…ありがとう。』


 このまま付いていくのかいかないのか。…ただの惰性で旅をするのも、そろそろ潮時だと感じていた。
 決めなければならないと。…ずっと迷っていた。
 迷いを押したのは、カンダタの言葉。
 ”ちょっとすばやいだけの盗賊風情”
 そう、自分はただの盗賊風情だ。ずっと。
 ただ生きていた。生きるために生きていて…気がつけば盗賊になっていた。生きるために盗んだ。 …けれど、盗むために生きていたわけではない。…ではなんのために生きるのか。
 ”セイは、いい奴だからね。”
 そんな言葉に、惑わされるつもりは今でもない。そのために死ぬつもりは今もない。
 …けれど、そのために人生を費やして見るのも、悪くないと思った。それは…そのために生きるということだ。

「おーい、サーシャ、鉄の爪持ってなかったか?俺にくれないか?」
 セイは何事もなかったかのように、サーシャにそう話しかけた。
「い、いいけど…はい。」
 サーシャはセイに鉄の爪を渡す。それを装備したセイは、立派な武闘家になっていた。
「似合うよ、セイ。」
 トゥールがにこにことそう言った。リュシアも、横で小さく頷く。
「おお、さんきゅ。」
「確かに似合うし、身軽なセイには良くあった職業だと思うけど…いきなりどうしたの?」
「別にー。そろそろ潮時だなって思っただけだ。それよりサーシャ、お前も行ってこいよ。」
 へらへらとはぐらかし、セイは祭壇を指し示した。
「…賢者になるには、祭壇に登るだけじゃ駄目なのよ。まず…悟りの書を探さないと…。」
「どこにあるんだ?悟りの書って言うのは…」
「それを聞かないとね。」
 高く足音を立てて、ゆっくりとサーシャは奥へ向かう。トゥール達が後を追った。
 祭壇に登り、そこにいた神官にサーシャが問いかける。
「ここは、己の生き方を見直し改める、転職の神殿ダーマ。転職をご希望か?」
「真理の一端を求めに参りました。どうか神官様、私に賢者への道をお示し下さい。」
「北の地に、問答がある。それを求めよ。自らの精神を研ぎ澄ました時、それが手に入る。」
 そう言って、神官はサーシャの後ろにいた、トゥールたちを見た。
「機会は一度。一つのパーティーにつき、一つしか与えられぬ。考えよ。」
「…ありがとうございます。」
 サーシャは頭を下げて、祭壇を降りた。

「確か、北に塔があったな…」
 セイの言葉に、サーシャが頷く。
「ええ…おそらくそこだと思うわ…。あの、もし良かったら、一緒に来てくれる?」
「当たり前だよ。一人じゃ危ないと思うよ。」
 トゥールの言葉の横で、リュシアも大きく頷く。セイはサーシャの肩に手を置いた。
「ま、俺は今まだ素人みたいなもんだしな。ついでに腕をあげておくべきだろうし、付き合うぜ。」
「そうだね、サーシャの悟りの書と、セイの肩慣らしのためにも、行こう。北の塔へ。」


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