『…なぁ、トゥール、ちょっといいか?』 『いいよ、何?』 『…俺が転職するって言ったら、反対するか?』 『セイがしたいなら、僕が反対する理由はないけど…いいの?』 『別に俺、やりたくてやってたわけじゃねぇしな、盗賊。…気がついたらなってただけだ。』 『それで、なんになるのさ?』 『このパーティーで力で敵を倒せるのは、トゥールだけだろ?もう一人くらい居たほうが、この先いいだろうと思うんだが。』 『…ありがとう。』 このまま付いていくのかいかないのか。…ただの惰性で旅をするのも、そろそろ潮時だと感じていた。 決めなければならないと。…ずっと迷っていた。 迷いを押したのは、カンダタの言葉。 ”ちょっとすばやいだけの盗賊風情” そう、自分はただの盗賊風情だ。ずっと。 ただ生きていた。生きるために生きていて…気がつけば盗賊になっていた。生きるために盗んだ。 …けれど、盗むために生きていたわけではない。…ではなんのために生きるのか。 ”セイは、いい奴だからね。” そんな言葉に、惑わされるつもりは今でもない。そのために死ぬつもりは今もない。 …けれど、そのために人生を費やして見るのも、悪くないと思った。それは…そのために生きるということだ。 「おーい、サーシャ、鉄の爪持ってなかったか?俺にくれないか?」 セイは何事もなかったかのように、サーシャにそう話しかけた。 「い、いいけど…はい。」 サーシャはセイに鉄の爪を渡す。それを装備したセイは、立派な武闘家になっていた。 「似合うよ、セイ。」 トゥールがにこにことそう言った。リュシアも、横で小さく頷く。 「おお、さんきゅ。」 「確かに似合うし、身軽なセイには良くあった職業だと思うけど…いきなりどうしたの?」 「別にー。そろそろ潮時だなって思っただけだ。それよりサーシャ、お前も行ってこいよ。」 へらへらとはぐらかし、セイは祭壇を指し示した。 「…賢者になるには、祭壇に登るだけじゃ駄目なのよ。まず…悟りの書を探さないと…。」 「どこにあるんだ?悟りの書って言うのは…」 「それを聞かないとね。」 高く足音を立てて、ゆっくりとサーシャは奥へ向かう。トゥール達が後を追った。 祭壇に登り、そこにいた神官にサーシャが問いかける。 「ここは、己の生き方を見直し改める、転職の神殿ダーマ。転職をご希望か?」 「真理の一端を求めに参りました。どうか神官様、私に賢者への道をお示し下さい。」 「北の地に、問答がある。それを求めよ。自らの精神を研ぎ澄ました時、それが手に入る。」 そう言って、神官はサーシャの後ろにいた、トゥールたちを見た。 「機会は一度。一つのパーティーにつき、一つしか与えられぬ。考えよ。」 「…ありがとうございます。」 サーシャは頭を下げて、祭壇を降りた。 「確か、北に塔があったな…」 セイの言葉に、サーシャが頷く。 「ええ…おそらくそこだと思うわ…。あの、もし良かったら、一緒に来てくれる?」 「当たり前だよ。一人じゃ危ないと思うよ。」 トゥールの言葉の横で、リュシアも大きく頷く。セイはサーシャの肩に手を置いた。 「ま、俺は今まだ素人みたいなもんだしな。ついでに腕をあげておくべきだろうし、付き合うぜ。」 「そうだね、サーシャの悟りの書と、セイの肩慣らしのためにも、行こう。北の塔へ。」 |
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