「人生は悟りと救いを求める巡礼の旅。…ガルナの塔へようこそ。」
 ダーマの神殿のすぐ北。ガルナの塔と呼ばれるその塔は、外見の古さのわりに、中は暖かな 光に満ちていた。
 どうやらそこは、独自に悟りを開く人間に対しての、修行場にもなっているようで、瞑想を している人間があちこちにいた。
 その中で、入り口近くにいた修道女が、サーシャに話しかけてきたのだった。
「この塔のどこかに、悟りの書と呼ばれる書が眠っています。賢者になるには、その悟りの書をもち、 悟りを開かねばなりません。」
「はい…頑張ります。」
 サーシャは頷く。修道女は微笑んだ。
「…なつかしいですね…もう、何年前でしょうか…最後に悟りの書を取っていった方に、貴方は良く似ています。」
「へ?」
 その修道女の視線がこちらを見ているような気がして、トゥールは自分を指差した。
「ええ……雰囲気がとても似ています。共に来て賢者になった女性は…そちらの女性と同じく、とても 美しい女性でしたよ。ですから…きっと貴方たちも取れるでしょう。頑張ってください。」
 修道女はにっこりと微笑んだ。


「…トゥールのどこがオルテガ様に似ているのかしら…。」
 不満げにサーシャがもらす。セイがなだめるように、話題を変える。
「でも前にも誰かがそんな事言ってたよな。それにしても話にゃ聞いてたが、サーシャの母親も綺麗な人だったんだな。もう ずいぶん前なんだろ?覚えてるくらいだもんなぁ。」
「…そうね。私はあんまり似てないけど。」
「違ったタイプの美人がいるなんて、さぞ繁盛しただろうなぁ、アリアハンの教会は。」
 セイがそう笑った。それを聞いて、トゥールも思いだし笑いをした。
「そうだね。一時期は本当に凄かったよ。教会の周りに、男の人たちが群がって。」
「いっぱい人、夜はママの所で泣いてた。」
 リュシアは少し複雑そうな顔をしてそう言った。
「…そうね、あの時は大変だったわ。…さぁ、行きましょう。この塔のどこかに母さんが手に入れた悟りの書がある…。」
 感慨深い表情で、サーシャはゆっくりと歩き出した。


「…なんだこりゃ。」
 修行場になっているせいか、行き止まりが多いこの塔の一番はずれ…離れとも言える別部屋の階段を 登った四人を待ちうけていたのは、一本のロープだった。
 部屋の壁が切り取ったように開けられ、ローブが向こう側に見える部屋へ張られている。
「渡れってことでしょうね。…まぁ、大丈夫よ、これくらいじゃ落ちたって死にはしないわ。よほど 鍛えていなければ別でしょうけれど。」
「そうだね。モンスターが来る前に、さっさと渡ってしまおうよ。危ないよ。…リュシアも大丈夫だよね?」
 リュシアが頷いたのを合図に、セイがゆっくりとロープを渡り始める。危なげない足取りの セイの後から、トゥールがよたよたと歩き始めた。
「…見てて怖いな、おい。」
 だが、中ごろまで来たトゥールは、突然前を見てつぶやく。
「…コツはつかんだかな。」
 そう言うと、まっすぐ前を見て、セイほどではないがしっかりとした足取りで残りを渡り終えた。
「うん…サーシャ、リュシア。足元は見ないほうがいいよ。大丈夫、最初にゆっくり歩いてたらそのうち慣れるよ!」
 トゥールがそう怒鳴ると、サーシャは頷く。ロープへ足を踏み出す。
 置いた足場がたわむのを見て息を飲んだ。だが、ゆっくりと前へ歩き出した。

 リュシアの足がロープから降りた時、全員が息を吐いた。
「…リュシア、大丈夫?」
「ごめんなさい…」
 他の三人はそこそこコツがつかめたのに対し、リュシアはあまりにも遅い歩みだった。それでも 落ちそうにならなかっただけ、慎重だと言う事なのだろう。
 それでも緊張で足をこわばらせていたせいか、リュシアの足が震えていた。
「怖かった?でも大丈夫、ちゃんと渡れてたね。」
 トゥールがそう言ってリュシアの頭を撫でると、リュシアは嬉しそうに微笑んだ。
「次は頑張る。」
 そう言ってリュシアは小さくこぶしを握った。


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