旅の扉をくぐり、階段をひたすら登り…目の前に横たわっていたのは…ロープ。
「…まさか本当に次があるとはな…。」
 セイが頭を抱える。ここは5F。そしておそらく構造から考えて、下にかすんで見える場所は…2F。
「…さすがに死ぬかな…落ちたら。」
 トゥールは苦笑しながらそうつぶやいた。ただ向こう側に行くだけならば、たいした問題ではない。命綱を 付けて渡ればいいのだ。だが、この塔にもモンスターが出る。それもかなり手ごわいモンスターだ。
「私が一人で行くわ。多分…この次がたどり着く場所よ。」
 毅然として言ったサーシャに、トゥールが猛然と反対した。
「サーシャ!危ないよ!」
「私のわがままだもの。私が行かないと。セイは周りを見て、モンスターが来てないか警戒して。トゥールと リュシアはもしモンスターが来たら、呪文で撃退してくれる?」
 一歩も引くつもりがなさそうなサーシャに、トゥールは少しため息をついた。セイは荷物から縄を取り出し、 片割れをサーシャに手渡す。そしてもう片方を輪にしながらくくりつけた。これなら縄の間を自由に行き来できる命綱となる。
 サーシャは自分の腰にしっかりと縄をくくりつけた。
「行って来るわね。」
「おう、気を付けろ。」
 セイが鉄の爪をあげて軽く応じた。トゥールとリュシアは心配げにサーシャを見つめた。


 一歩、二歩と足を進める。
 さすがにその高さに足がすくみそうになる。この高さで落ちれば、ただではすまないだろう。
(…前を…)
 母もおそらくこれを渡ったはず。渡りきったはずなのだ。
 おそらくこの縄は、精神を統一させること。心を落ち着け、集中して物事を取り組むことを試されているのだろうと サーシャは思っていた。
 だからこそ、自分が行かなければならない。精霊に認めてもらうのだ、自分を。それが自分の望みなのだから。
「ん、足は安定してるな。」
「落ち着いてるみたいだ。…これなら大丈夫かな。」
 セイとトゥールが言う通り、サーシャの足取りは遅いけれど、しっかりとしたものだった。ぐらつくこともなく、 集中しているのが良く分かる。
 その時、リュシアが歌い始めた。
「…リュシア?」
 一瞬聞き惚れた二人だったが、それが呪文だと気がつき、前を見た。
 サーシャの向こう側の空に、長くうごめく竜が浮いていた。


「メラミ!」
 リュシアの放った呪文が、スカイドラゴンに直撃する。だが、スカイドラゴンにダメージはないようだった。
「効いてない!」
 セイの焦った叫びに、サーシャがスカイドラゴンに気づく。
 不幸にも、スカイドラゴンはトゥールたちを見ることがなく、サーシャへと迫る。
 サーシャはなんとかバランスを取りながらも、武器を手に持った。理力の杖。魔力を攻撃力に変える、刃のある 杖だ。これで刺せば、モンスターにもなんとかダメージが与えられるだろう。だが、その不安定な状況ではどうにもならない。
 サーシャは大きくバランスを崩し…そして、スカイドラゴンがサーシャに炎を吐いた。
 そして、腰にまいていたサーシャの命綱が…燃えちぎれ、サーシャはふわりと高く、空中に浮いた。

「サーシャ!!」
 トゥールは一瞬も迷わなかった。綱を走り、サーシャに向かって綱を蹴って勢い良く跳んだ。
「トゥール!」
 リュシアの悲鳴が聞こえるが、トゥールの耳には入らない。片手でサーシャに手を伸ばし、もう片手にサーシャの 命綱をしっかりとつかむ。
 力いっぱい手を伸ばす。落ちてきたサーシャの体を、トゥールはしっかりと抱きかかえた。

「ヒャダルコ!」
 リュシアの氷の呪文で、ようやくスカイドラゴンのターゲットがセイとリュシアに移ったらしい。
 運良く真上に来たドラゴンを、叩き落すようにセイは高く飛び、ドラゴンの目に爪を深く突き立てる。
「ヒャダルコ!!」
 もう一度唱えたリュシアの氷の呪文で、スカイドラゴンは粉々に砕け散った。

 両手がぎしりと痛む。トゥールは片手一本で縄に捕まり、もう片手でサーシャを抱きかかえているのだ。
「このまま降りたほうが早いかな…。」
 登るのは不可能だった。幸い縄は長く、なんとか下に降りられそうだった。
「サーシャ…下に…。」
「あ…ああ…。」
 サーシャの右手が振りあがる。理力の杖が、トゥールの胸へ刺さった。


 転職編前編。嫌なところで終えました。終えましたとも。塔とくれば落ちる!ということで、 あの日の謎、リメンバー(違)はたしてトゥールは無事なのか?ってことで…
 次回は転職までいけると思います。お得意の夜のお話を挟んで…

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