四人はようやく塔の外で再会した。リュシアがトゥールに駆け寄る。
「トゥール、無事?」
「うん、もう大丈夫。サーシャも治してくれたし、あれくらいなんともないよ。」
「…やれやれ…魔法の使い手が二人に分かれてたのは幸いだったな。トゥール、お前もちっとは考えろ。大変 だったんだぞ。」
 あのあとリュシアは、暴れこそしなかったものの、ひたすら下に向かって叫び続けたのだ。そして その声に寄せられるようにモンスターが集まり、それをひたすら叩いていたのだ。
「…ごめんなさい…。」
 リュシアがしゅんと頭を下げる。サーシャはそんなリュシアを慰めるように言った。
「リュシアが悪いんじゃないわ。私がわがまま言って無茶したから…。リュシア、ごめんなさい。セイにも迷惑をかけたわね。」
「…まぁ、その結果悟りの書が手に入ったならもうけもんだな。まさかあんな下にあるとは思わなかったしな。」
「おそらく、一度失敗した人間しか悟りを開くことは出来ないという意味でしょうね。賢者ってエリートが なるものかと思っていたけれど、失敗を知って…そこから立ち上がろうとする人間にしかなれないのよ、きっと。」
 サーシャの言葉が妙に悟りを開いているように見えて、セイは一瞬戸惑った。
「理解出来たのか?悟りの書?」
「…ちらっと見ただけだから…とりあえず頑張ってみるわ。…転職の神官さんに、そう伝えておかないと…賢者の 転職は特殊らしいから。」
 リュシアが、サーシャの袖をつかむ。ほのかに笑いながら、控えめに口にする。
「…おめでと、サーシャ。」
「ありがとう、リュシア。」
 サーシャはいつものように、華やかに笑った。


 星がまたたいた綺麗な夜だった。あまりにも煮つまり過ぎて、部屋の中で息をするのが苦しくなって、サーシャは外に出た。
 明日、神と精霊を納得させて、双方の力を手に入れなければならない。それが…ずっとずっと前からの望みだった。
「あれ、サーシャ?」
 トゥールが汗をかきながらこちらを見ていた。どうやら訓練をしていたのだろう。正直なところ、一番 会いたくない人物だったが、一番話してみたい人物だった。
「…トゥール、訓練?お疲れ様?」
「サーシャこそ、息抜き?」
「そう…少し疲れちゃって。」
 サーシャは苦笑しながら適当な場所に腰掛ける。トゥールもその隣に座った。
「何が書いてあるの?悟りの書って?」
「駄目、それは言えないの。少しでも事前に聞いてしまっては、二度とその人は賢者への道は閉ざされるの。 …自分の夢の為に、他の人の未来を制限するわけにいかないものね。たった一人でやりとげなくちゃ。」
 少しだけ寂しそうに言うサーシャに、トゥールは笑う。
「じゃあ僕なら大丈夫。勇者だから転職できないし。なんて書いてあった?」
 トゥールのその言葉に、サーシャは目を丸くする。その屈託のない言葉に、サーシャはおそるおそる 口を開く。
「ねぇ、トゥールはこの旅が終わったらどうするの?」

「ん?」
 サーシャは真剣な表情をしていた。
「だってトゥールは勇者でしょう?この旅が終わるって事は…勇者が必要となくなるということよ?」
”勇者だから転職できない。”それは二度と道を変える事が許されないと言う事。どんなに辛くても、血を 吐いても向いていないと思っても、やり遂げる事。…そして、やり遂げた先の未来がないと言うこと。
 それは、辛いことだと思ったのだ。
 だが、トゥールはにっこりと笑う。
「んー、とりあえず僕には夢があるから。」
 意味をつかみかねて、サーシャは首をかしげた。
「…夢?それは勇者になるという?」
「ううん、いや、それもそうなんだけど。…僕には二つの夢があるんだ。 一つは勇者になって、この世界を救うこと。父さんのように。」
 そう言って空を見上げるトゥールは、本当に自由に見えた。…自分とは違って。
「もう一つは?」
 サーシャにそう問われてトゥールは反射的に口を開き…そして閉じた。
「…………内緒。」
 見ると、顔が赤くなっている。
「ここまで言ってそれはないと思うわ。」
「…うー、なんていうか、恥ずかしいから。でも、終わってもやりたい事があるっていうのは本当。…いつか サーシャに教えるよ、約束する。…それよりも、悟りの書、なんて書いてあるのさ?」
 トゥールは強引に話を変えた。


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