サーシャは諦めて、話題を戻す。
「…書いてあるのは、簡単なことなの。それなりの知識があれば誰にでも読めるわ。…この世の真理について 語っているように見える。…けれど、その文章の中に、ざっと見ただけでも100以上もの質問文が紛れ込んでいるの。」
「…よく意味がわからないけど…その文章がサーシャに問いかけてきてるって事?」
 トゥールの言葉に、サーシャは苦笑する。
「…まぁ、見た目上はね。けれど、そのうち99個の質問は多分偽物。答えがある、意味のない質問。… 残りの一個。その答えのない質問を探し出して…答える事。その答えが真に自分の心の中から出たものであり、なおかつ 神と精霊を納得させることができなければ…賢者となる機会は失われるわ。その一つの質問は 多分、わかったんだけど…その答えが難しいの。」
「ずいぶん、意地の悪いんだね。なんだか勇者になるより大変そうだ。」
 トゥールはそう笑う。だが、サーシャは首を振った。
「それは全然性質が違うわ。だって、勇者は…生まれながらの素質がなければなれない。これは…修行を つんで答えを出せばなれるもの。」
「うん、知ってる。でもさ、僕は僕のまま、受け入れてもらっただけだからね。サーシャは偉いよ。」
 その言葉に、サーシャはそっぽ向く。
「…トゥールは、勇者としてはまだまだなんだから。トゥールだってこれから努力して努力して! ようやくオルテガ様のような真の勇者に近づくことができるのよ。」
「……うん。」
 その言葉に、トゥールは微笑んで、立ち上がった。

 トゥールはいつだってそうだった。自分がどんなひどい事を言ってもしても怒らない。
 トゥールが怒らないわけじゃない。ギーツに怒っているのを良く見た。自分にひどく言いよってくる男を怒鳴っているのを 見た。リュシアにひどい事を言ったセイに怒っていた。
 それでも、トゥールは優しい人だと思う。
「トゥールは!」
「ん?」
 帰ろうとしていたトゥールを、サーシャが呼び止める。
「トゥールの一つ目の夢!どうしてトゥールは勇者になったの?」
 勇者は拒否することができる。…もちろん、オルテガの息子という生まれでは、周りの圧力があっただろうが… 逃げようと思えば、することが出来た。…いや、嫌嫌ながら受け入れるなんて人間を、精霊神ルビスは 決して勇者とは認めなかっただろう。トゥール自身がそれを望んだのは、どうしてなのか。
「そうだな…父さんのこと、尊敬してたし…。」
 トゥールはそう言って、それからいたずら坊主のように笑った。
「二つ目の夢があるから…かな?結局僕は自分の為に勇者になったんだ。」
 トゥールはそれだけ言うと、手をあげて宿へと帰って行く。あとには、少し呆然としたサーシャがその場に残された。


 サーシャは白い布を幾重にも重ねた儀礼服を身にまとい、手には悟りの書を持っていた。
「サーシャ=ファインズ。ガルナの塔から悟りの書を授かり、ここまで参りました。」
 そこは、表にある簡易の祭壇ではなく、賢者になるためだけに用意された儀式の部屋。サーシャは緊張の面持ちで扉を開けた。
 円になった人工の池に、水が張ってある。いくつもの柱が建ち、底には魔法陣が見える。 神官が真正面からこちらを見ていた。
 池には入れるように、階段が設置してあった。サーシャは悟りの書を持ったまま、階段へと進み、そのまま水に入る。
 深さはちょうど、ふともものあたり。幾重にも重なったスカートが水に広がり、なびく。サーシャはそのまま円の中央まで歩いた。

 そこはちょうど、魔法陣の中央。サーシャはそこで止まり、悟りの書を広げ、水に浮かべる。読んでいる時は 直線だった悟りの書は何故かカーブを描き、サーシャの周りを円となって囲みながら水に浮いていた。
「サーシャ=ファインズ。そなたは真理を求めるか。」
 神官の問いに、サーシャは迷わずに答える。
「はい。」
「世界の全てを解き明かす事を欲するか。」
「はい。」
「神と精霊の力を操り、更なる力を望むか。」
「はい。」
「では答えよ。悟りの扉を。真理の中心を。」
 神官の言葉に、サーシャは息を飲む。
 一晩考えた。その答えを、サーシャはゆっくり口にした。
「…それは、全てのはじまり。そして、全ての終わり。世界は己によって認知され、己によって消滅する。」
 サーシャの言葉に、ゆっくりと悟りの書が溶けだし、やがてそれは光の文字となり、魔法陣となって光りだす。
「『己とは、この世界との接点であり、その中に世界を内包し、構築するもの。』」
 そう言ったとたん、魔法陣が激しく光りだした。光の輪に囲まれたサーシャは、目を開けていることが出来ず、目を閉じた。

 目を開けると、光の魔法陣も悟りの書も消えていた。
「そなたは認められた。」
 神官がそう言いながら、水の中に入ってきた。
「ダーマの神官として、そなたが神と精霊を認めさせたことを見届け、ここに賢者の称号を送ろう。」
 そして、賢者の証となる、赤い宝冠をサーシャにかぶせた。


 後編でした。賢者転職、ということで派手に決めてみました。どうだったでしょうか?…悟りの書、 本来はこんなところにありませんけどね…
 悟りの書は溶けて消えるので、一回しか使えない という設定。攻略本には巻き物の絵なのでそれを活かした設定にしてみたり。
 質問は悟ったっぽい答えでしょうか。ははは…悟りって難しいね…
 サーシャ関連の謎は…解けず。はい、すみません。もうすぐ出てきます。世界が一気に広がりますので。 攻略本ルートを無視して、次はムオルに向かっちゃいますが。 どうぞよろしくお願いします。


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