毛布から顔をあげる。星の様子から見て、交代の時間にはまだまだありそうだった。
 今の火の見張りはトゥールだったが、目を覚ましたサーシャの様子に気づくことなく火の前に座っている。 …小さく船をこいでいるあたり、どうやらうたたねしている様子だった。
「ラリホー。」
 サーシャは小さくトゥールに呪文をかけ、音もなく起き上がる。手近にある自分の荷物を手に持ち、そっと 毛布から抜け出した。

 頬に、熱い刺激。意識が覚醒する。
「…いた…。」
 頬に手を添えると、どうやら火の粉がトゥールの頬に当たったらしい。トゥールは少し小さくなった火に、急いで 薪をくべる。
(駄目だな、寝ちゃうなんて。)
 昨晩は少し夜更かしをしてしまったせいだろう。そう思い返して、少し顔が赤くなる。サーシャの前で泣いたのなんて、 何年ぶりだろう。ごくごく小さい頃はよくギーツなどとやりあって泣いたものだった。
(サーシャは今でもそのせいで、泣き虫とか弱虫とか言うもんな…)
 そう思いながら視線をそらすと…サーシャの毛布がもぬけの空だった。

(…トイレ…かな?)
 起きだしたのも気づかないほど深く眠っていたことに反省しながら、トゥールは火と周りの見張りを続ける。
 ・・・・・・・・・・・・・・・
(遅い…?)
 自分が覚醒した直前に移動した…と考えても、いくらなんでも遅すぎないだろうか。いや、直前に移動したなら 足音とか気配とかが感じられそうなものなのだが、それすらなかったから、もっと早いはずなのに。
 トゥールは剣を持って立ち上がる。セイとリュシアを起こさないように、そっと林へ入っていった。
 幸い魔物の気配はしない。トゥールは周りの気配を慎重に読み取りながら、ゆっくりと奥へと入っていく。
 そして、そう経たないうちに、水音が聞こえた。
(泉…かな…?)
 トゥールは何も考えずに、泉に向かっていく。夕食後、セイと交代で水浴びをしたので、場所はすでにわかっていた。
 夜の静寂を一層引き立てるような、澄んだ水音。その音源を、トゥールはそっと覗きこむ。
 そこには、一人で水浴びをしているサーシャがいた。


 それは、絵画でも表現できないと思えるほど、美しく幻想的だった。
 月明かりに照らされた青い髪は、まるで水に溶けるように泉に広がり、月へと伸ばされた白い手は、まるで銀河の ように輝き、そして、星に照らされた白い背中には………

 トゥールはとっさに隠れる。口を押さえて、木の影に座り込んだ。
(なんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれ)
 ぐるぐると頭で何かが回る。混乱しているのが自分でもわかった。
「…誰?」
 鋭い声が飛ぶ。サーシャの声だ。
 返事をしようとして、くちごもる。この状況、どう言い訳してもただの覗きだ。かといって、このまま 黙っていてもどうしようもない。
「えーと、僕。トゥール。」
「トゥール……?」
 大きな水音がする。
「…覗き?」
「ち、違うよ!その、目が覚めたらいないから、遅いからどうしたのかと思って!えっと、何も見てないから!」
「…声が大きいわよ、トゥール。」
 そう言われて、トゥールは口を閉じた。もう、何を言ったらいいかわからない。
「…本当に、何も見てないの?」
 その声は、上からした。服を着終わったサーシャが、上から覗きこんでいた。トゥールは申し分けなさそうに、 小さく言った。
「えっと…ごめん。その、…背中が、見えた。」

 サーシャの背中には、大きな大きなあざがあった。それも、ただのあざではない。背中の中央には、大きな十字架。 その周りを囲むように、四つの翼と月桂樹の枝。…そんな、あざだった。


「…よりにもよって見られたのが、トゥールだったのがいいのか悪いのか…ちょっと複雑ね。」
 サーシャはにが笑いをしながら、横に座る。
「皆が起きちゃうし、手短に言うと、生まれつきなの、これ。父さんは聖痕(スティグマ) だって言っていたわ。」
「…聖痕(スティグマ)
 思い返して見ると、どれだけ小さい頃でも、サーシャの背中を見た事がなかった気がする。元僧侶という 職だけあって、暑い時でも露出度の低い服を着ていた。
「そう…それでも子供の頃は、小さな十字架一つだったんだけど…成長するにしたがって、大きくなってるみたい。 …この旅に出てから、どんどん大きくなってるの。そういう時、背中が痛いのよね。血も出るし。 でも、命に別状はないわ。他に質問は?」
 少し考えて、おそるおそる口にする。
「回復呪文じゃ治らない?」
「…ベホマは試したことないけど。多分無理じゃないかしら?」
 さくっと切り捨てるサーシャ。自分の動揺とはうらはらに、どうやらやけくそ気味に開き直っているようだった。
「このこと…他に誰が知ってる?」
「父さんと…もういないけど、母さん。他には誰も知らないわ。言っても意味がないし。」
「…ごめん。」
 小さく言ったトゥールの言葉に、サーシャは顔を見ずに立ち上がる。
「別にかまわないわ。ちゃんと言ってから行けば良かったんだし。さ、戻りましょう。」
 サーシャの言葉に、トゥールは一回頭を力一杯振って、もやもやした気分を追いだし・・・それから頷いて立ち上がった。


 アープの塔まで行くはずだったのに…おーかしいな…考えて見れば、スーって行かなくてもいい村なんですよね… アープの塔も必要ないし。
 山彦の笛は、本来そういうものじゃないですよ!でもぶっちゃけ3で山彦の笛って、いらないものじゃありません? イベントでほぼ自動的に手に入るし…2では必要だったけど…そんなわけで2と3の山彦の笛は別物です!私がそう 決めました!
 この大陸には聖なる泉がありますね。まぁ、正直あれはネタになりそうにないので、スルーで。その代わりと 言ってはなんですが…ということでお願いします。…位置全然違いますけどね。
 そんなわけで、ようやく聖痕が出せて満足!あー、嬉しい。今まで散々ぼかしてきたので、もう 書きたくて書きたくて。
 そんなわけで、次回はアープの塔をさくっと終わらせたいと思います。


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