終わらないお伽話を
 〜 desert 〜



 無駄に扉の付けられた一階。四つの階段から四方に伸びる部屋。中央が吹き抜けになり、 四方にしかない廊下。あまりにも効率の悪い作りから、 おそらく実用のための塔ではなく、儀式用に作られた塔だとはわかってはいた。
 わかってはいたがーーーー。
「前にも見たな、この風景。」
「あれは、そういう試練だけれど、これはなんなのかしらね?」
 最上階。吹き抜けの部分に、アミダクジ状にぴんと張られたロープ。そして、その向こう側にある宝箱。まるっきり ガルナの塔の再現だった。
「もしかしたら、ほら成人の儀式とかかもしれないね。度胸試しをしたりするって、聞いたことあるよ。」
 トゥールがフォローになってないフォローをする。
「…下、真っ暗。」
 リュシアが不安そうに下を見下ろす。
「しっかし、参ったな。これじゃ、この間みたいに命綱もつけられねーな。」
「行くしかないわね。幸い、この前みたいなモンスターは出ないみたいだし。」
 サーシャの言う通り、幸いここには空飛ぶモンスターはいなかった。さすがに地を這うモンスターがこの縄を渡ってくる ことはないだろう。
 結局、四人が一列に並び、同時に足を運ぶ事で綱の間のバランスをとりつつ、向こう側に行く、という作戦になった。幸い、 縄と縄の間はそれほど遠くない。多少ぐらついたなら隣に居る人間がささえてやれるだろう。
「…リュシアは待ってる?」
 トゥールの問いかけに、リュシアは首を振る。
「…頑張る。」
 自分が残れば、それだけ手間になるだろう。それに、少しでもトゥールの役に立ちたかった。
「ありがとう、リュシア。」
 トゥールは頭を優しく撫でた。それだけで、リュシアはどんなことでも頑張れる気がした。


「んじゃ、いくぞー。」
 セイ、サーシャ、リュシア、トゥールの順番で横に並び、近くの縄に足をかけることになった。 これならセイがサーシャを、トゥールがリュシアをささえてやれる。
 足を踏み出す。縄がたわみ、少し揺れる。一人で渡る時と少し勝手が違う。
「大丈夫?」
 ぐらぐらと揺れているリュシアに、トゥールが声をかける。リュシアはなんとかバランスを取って頷いた。
「いち、に、いち、に、いち…」
 まるでなにかの競技のように、声をそろえてゆっくり四人で歩いていく。
 そこに、風が吹いた。下から吹き上げる風。…それは、四人の綱を揺らし、体勢を崩すには十分 すぎるほどの風。
 その風を受けて、リュシアが綱から重心をそらした。
 まるで時がゆっくり動いているようにさえ感じた、トゥールがとっさに伸ばした手は、リュシアには… 届かなかった。
 手を差し伸べながら暗闇に飲まれていくリュシアを、三人は見た。


「リュシア!」
 叫んだのは誰だったか。不安定な綱の上から、下を覗き込んでも、闇の底をうかがうことはできなかった。
 不安定な綱の上で、トゥールが急いで下に降りるためを結ぶび、汗ばむ手でゆっくりと降りていく。
「リュシア!」
 闇の中目をこらして、じっと下を見つめる。底は暗く、遠い。とっさに魔法で脱出してくれたかもしれない… そんな淡い期待を持ちながら、周りを見回す。
「リュシア!」
「…トゥー…ル?」
 それは、はかない、か細い声だった。
「リュシア!」
 その希望に満ちた声が、上にも聞こえたのか。
「おーい、リュシア大丈夫か?」
「リュシア、大丈夫?怪我は?」
 上を守る二人の声が聞こえた。
「リュシア?」
「…ひっかかった。何か。痛い。怪我ある。でも大丈夫。」
 リュシアのそんな声に導かれるように、トゥールはゆっくりと降りていく。
 底までの深さから、ちょうど中ほどだろうか。まるで中洲…いや、大海の無人島のように中央にすえられた一つの 高台。リュシアはそこにいた。
 トゥールは縄を揺らし、そこに飛び降りる。
「リュシア、大丈夫?怪我見せて?…ごめん、助けられなくて。」
 リュシアは首を振りながら、傷を見せる。トゥールは回復魔法をかけた。
「…どう?」
「…平気。何か、ある。」
「何か…って?」
 リュシアは、その高台の四方を指差す。ちょうど高台の四隅に、宝箱がすえられていた。

「また、このパターンなのね…?一度死ぬって…こういう意味だったのかしら?心臓に悪いわ… でも、リュシアが無事で良かった。」
 リュシアが持っているオカリナを見て、サーシャは頭をかかえた。あの後、上に残された二人は綱を渡り、向こう岸にある宝箱 を見たが、たいした物は入っていなかった。
「まぁ、一番わかりにくい所にあるっていうのは、パターンだよな。落とし穴の奥に隠して あるとかは、良くある話だぜ?今回はリュシアの功績だな。」
「うん、リュシア。ありがとう。…でも、もう落ちないように気を付けよう。」
 トゥールがリュシアの頭を優しく撫でる。リュシアは少し嬉しそうに、そして少し寂しそうな笑顔を見せた。


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