「間違いない。これ、山彦の笛。お前たち、一度死んだ。だからこれ、手に入れられた。」
 村長の言葉に、トゥールたちは胸をなでおろした。
「…それで…二つ目の条件ってなんでしょうか?」
「これ、人のたくさん集まる場所に置く。するとそれに導かれて、イエローオーブ集まる。」
 村長の言葉に、四人は顔を見合わせた。
「…人が集まる場所…アリアハン…とか?」
「でも、せいぜい一ヶ月に一回、少数の旅人が来るだけよ?」
 サーシャの言葉に、セイが頷く。
「旅人が多いところがいいんだよな…?そうなるとアッサラームとかじゃねぇ?今の世界で旅を する人間なんざ、せいぜい行商する商人くらいだしな。」
「でも、笛、大切なもの。オーブも。」
 リュシアの言葉に、セイがリュシアの頭を軽くつかむ。
「どういう意味だよ?ちゃんと話せ、リュシア。」
「…取られちゃう。誰に預ける?」
 リュシアの言葉に三人が首をひねる。アッサラームの誰かに預ければ、間違いなく売られてしまうだろう。そう 思った時、村長が口を開く。
「二つ目の条件。ここから南の草原に、私の弟、大きな町作るため頑張ってる。でも難しい。だから、 商人呼べ。腕のいい商人。そしてその商人が町大きくする。私の弟、笛預かる。オーブ、預かる。必ず お前たちに渡す。私たち、嘘つかない。だから商人、連れて来い。」


 村を見渡しながら、セイはしみじみと言った。
「なるほどな…なんだってオーブの情報を親切に教えてくれるのかと思ったら、そう言う魂胆があったのか。 この村の住人は、お世辞にも商売がうまそうに思えないからな。」
「…でも、もしオーブが来たら、ちゃんと渡してくれると思うよ。ちゃんと山彦の笛だってあったし。」
「問題は…信用が出来て、腕のいい商人を探すってことか…やっかいだな…。それこそアッサラームを当たってみるか?」
 セイの言葉に、サーシャは首をかしげる。
「でも、今店を持っている商人が、新しい町を作るなんてことに、協力してくれるかしら…?」
「うーん、あそこの人たちあんまり信用できないよ…。」
 四人で円陣を組み、話し合っている時に背後から足音が聞こえた。それも、人の足音ではない。ひづめの音だ。 四人が振り向く。
 そこには、予想通り、馬がいた。だが、予想に反して馬には誰も乗っていなかった。
「…なんだ。繋いでおかないと駄目だよ…持ち主に返してあげないと。」
 トゥールが、馬に手を伸ばしたときだった。
「私は、しゃべる馬、エド。」
「馬が…しゃべった?」
 馬の口にあわせて、声が聞こえる。
「嘘だろ?!どういう仕掛けだ?」
 セイが周りをきょろきょろ見回すが、回りに人はいない。サーシャも疑わしそうに馬を見るが、 冷静に言った。
「少なくとも、ここの人たちとはイントネーションが違うわ。ここの人たちのいたずらではないと思うわよ。」
「…エドさん…。なぁに?」
 リュシアがそっと手を伸ばすと、嬉しそうに頭を手に摺り寄せて、エドは言葉を発した。
「神の心をうけとろうとする皆さんに、いい事を教えてます。もし渇きの壷を見つけたら、ここから北西の海の浅瀬で 使うのですよ。」
「渇きの壷…?それはここから一緒に奪われたという?」
 トゥールの言葉に、エドは少し高く鳴いた。リュシアは小さく微笑んで、馬の腹を撫でる。
「…ありがと。」
「うん、ありがとう。覚えておくよ。渇きの壷が手に入ったら…使って、それでここに返しにくるね。」
 トゥールもそっとエドの横面を撫でる。エドは気持ちよさそうに撫でられた。サーシャもそっと手を伸ばす。 リュシアの反対側から馬の腹をなでた。エドはしばらくおとなしく撫でられ…そして身震いすると、ゆっくりと その場から去っていった。
「ああいうのが、神の使いっていうのかもしれないわね。」
 サーシャはそれを見送りながら、そう笑った。


「それはともかく…腕の良くて信用できる商人って…どうするよ?」
「一人…心当たりはあるんだけど…。」
 少し苦い顔でサーシャがそう言うと、トゥールは伸び上がって抗議した。
「駄目だよ!確かに腕はいいけど…田舎の町作りなんて引き受けてくれるとは思えないよ!それに、 オーブだってちゃんと渡してくれるかどうか…。」
「あの町で、オーブなんて売れないわ。裏ルートなんて知らなさそうだし。」
 トゥールの言葉に、サーシャは苦々しく答える。リュシアも誰かわかったのだろう。渋い顔をしている。
「おいおい、で、誰なんだよ?」
「…覚えてる、セイ?アリアハンの町で、幼馴染に会ったでしょう?ギーツ、腕は確かよ。」
 サーシャの言葉に、セイはルイーダの酒場前のことを思いだした。
「…あいつか…あの性格で本当に腕はいいのか?」
「うん、商魂たくましいし、プライドもあるし、口もうまいし。 商売の駆け引きは上手なんだよ…ただ、引き受けてくれないと思うんだけど…。」
 トゥールもその実力を認めた。性格破綻者であっても、商売上手な商人がいることを知っているセイは、 頭をかきむしる。
「まぁ、そう言うなら、頼んでみりゃいいんじゃねぇ?問題はその金持ちの坊ちゃんに、 どうやって町の開拓を引き受けさせて、連れてくるかって話だろ?簡単だぜ?」
「簡単って…どうやって?」
 トゥールの言葉に、セイが小さくささやく。
「…僕、反対だな。そんなこと、したくないよ。」
「でも、オーブは必要なんでしょう?…神の教えに逆らうような気もするけれど…仕方ないわね。」
「…リュシア…嫌。」
 リュシアが小さくつぶやいた。顔をしかめたリュシアは、珍しかった。
「ギーツ…怖い…。」
「そういや、ギーツはリュシアを嫌ってたんだっけか?」
 セイの言葉に、三人が頷いた。トゥールがリュシアを慰めるように撫でる。
「そうだね…また、リュシアがひどい事言われるよ…やっぱり他の人を頼ったほうが良いんじゃないかな?」
「けど、それを探してる時間が惜しいぜ。もちろん、引き受けてくれねぇ可能性はある。他を頼るのは その後の方が効率がいいだろう。」
「じゃあ…リュシアは、一旦ルイーダさんの所にいたほうが良いかも知れないわ。リュシアも、ギーツと船旅は 嫌だろうし…どう?リュシア?」
 サーシャの言葉に、リュシアは少し考えて頷いた。
「うん、ママの所に行く。」
「…本当は私も外れていたいけどね…。」
 サーシャはリュシアを羨ましそうに見つめ、ため息をついてそう言った。




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