四人はルーラで一旦アリアハンへと戻り、ルイーダの酒場に入る。ちょうどこの頃合は、昼の客が帰り、一旦 店じまいをしている時間だろう。
「ママ!」
 リュシアが珍しいほどに元気に、酒場のドアを開ける。
「リュシア!?」
 カウンターに座っていたルイーダが、驚いたように顔を上げる。そして。
「リュシアちゃん?皆帰って来たのかい?」
「父さん…珍しいわね、酒場なんて。」
 そこには、カザーブの村で別れた、サーシャの父がいた。

「サーシャ、お帰り。まさかもう帰ってくるなんて思わなかったよ。」
 四人はカウンターに座り、ルイーダに出された冷たいジュースを飲みながら、サーシャの父、コラードと話していた。
「そうじゃないの。ちょっとギーツに用があるんだけど…その間、リュシアはルイーダさんの所に帰ってたほうが いいと思って。…父さんはどうしてここに?」
 コラードは照れるように頭を掻いた。
「いやね、一人だとあんまり食事を取らなくなって。ルイーダさんやメーベルさんが差し入れをしてくれたんだけど、 味気なくてね。それで、ここでたまに食事をしているんだよ。」
「そうなの。リュシアがいなくて寂しくて…メーベルさんはお父様と一緒に食べてるみたいだから、ご一緒はあまり できなくて寂しいんだけど、コラードさんはたまに来てくれているのよ。」
 ルイーダはそう言って、リュシアの頭を撫でた。
「立派になったわね、リュシア。しばらく一緒にいられるの?」
 リュシアは嬉しそうに頷いた。コラードもサーシャを見て笑う。
「それにしても…母さんのように、本当に賢者になったんだね。父さんは自慢だよ。」
「当たり前よ。必ず果たすって約束したんだから。今日はゆっくりしてられないけれど、全部終わったら 色々話すわね。」
 サーシャの言葉に、コラードは嬉しそうに頷いた。
「ああ、その時を楽しみに、ここでサーシャたちの無事を祈っているよ。気のすむまでやっておいで。」
「トゥール君は、メーベルさんには会って行くの?」
 ルイーダの言葉に、トゥールは母を思いだして…首を振る。
「…いえ、やめておきます。会いたいですけど。」
 強い気持ちを込めて、そう言った。それは、決意。
「んじゃ、嫌な事はとっとと済ませておくか。」
 セイがジュースを飲み干して立ち上がる。トゥールも陰鬱な顔で後に続く。
「…そうだね。やっぱりやるのか…」
「トゥールがやるんじゃないんだから。…私だって本当は嫌だけど、仕方ないでしょう?」
 サーシャが最後にルイーダに礼をして立ち上がる。そうして三人は酒場を出て行った。

「さぁ、リュシア、今日は一緒に晩御飯を作りましょう?久しぶりで嬉しくなるわ。」
 いつものルイーダの言葉に、リュシアは嬉しくなって抱きついた。
「ママ…。」
「さて、私も今日はお暇するよ。お邪魔しました、ルイーダさん。」
 コラードが立ち上がる。ルイーダは顔を上げる。
「あら、かまわないのに…。」
「いやいや、せっかくの親子の一時を邪魔するのは、神の教えにも反します。リュシアちゃん、またね。今度 は旅のサーシャの話を聞かせてほしいな。」
 その言葉に、リュシアは小さく頷いた。


 ギーツの家を尋ねると、ギーツがすぐに飛んできた。
「サーシャ!賢者になって帰ってきたって本当なんだね?嬉しいよ…これからはオレの花嫁として、 ここで…。」
「ギーツ、ごめんなさい、まだ旅の途中なの。」
 抱きしめんばかりに寄って来たギーツに、サーシャは柔らかに釘をさす。トゥールは少し憮然として一番後ろに、 セイはその間でへらへらと笑っていた。
「どなぜ?もう賢者になったんだろ?旅なんてする必要、ないじゃないか?!」
「詳しい事は言えないけど…まだ旅の途中なの。…でも、ギーツに会いに来たのよ。」
 その言葉に、ギーツの心は跳ね上がる。長い間サーシャは自分の女だと信じてきたが、こんな言葉をもらったのは 初めてだった。
「やっと、オレの価値がわかったか?」
「…そう、なの…実はね、ギーツに頼みたい事があって来たの。」
 その言葉に、ギーツの膨らんでいた心が少ししぼむ。だが、それを見せずに尊大に聞いた。
「なんだ?オレにしかできないことか?」
「一緒に、来てほしいの。実はね、東の大陸に新しい町を作ろうとしている人がいるの。ギーツにその創始者になってほしくて。 私、ギーツほど腕のいい商人を知らなくて…ギーツしか思いつかなかったの。」
 サーシャがそっとギーツの胸にもたれかかる。淡い芳香がギーツの鼻をくすぐり、理性がなくなりそうだった。
 だが、商人としてプライドが、それを持ち直させる。
「…町を作る?何のために?泥にまみれて仕事をするなんて、オレにふさわしいとは思えないけどね。」
「そんな……でも、ギーツはその町の中心となって動くのよ。ギーツにしかできないと、私は思うだけど…。」
 サーシャの言葉に、ギーツはサーシャのあごを指で持ち上げる。
「でも、サーシャがそう言うなら、サーシャがオレの嫁になって側にいるっていうなら、やってやるぜ。」
「それは…。」
 ギーツをもちあげ、色仕掛けのように甘えるというセイの作戦だった。…それは 当たっていたが、それだけは、どうしても頷けそうになかった。

「やっぱやめようぜ。こいつ、絶対町づくりなんてできねぇよ。」
 迷っているサーシャに、横から口を出したのはセイだった。ギーツは今まで眼中に入っていなかった銀髪の青年を、 ぎろりとにらみ付ける。
「なんだよお前?!」
「言ったろ、トゥールの仲間のセイだ。お前も商人なら、人の顔くらい覚えておけよ。…あーあ、サーシャが腕のいい 商人だってあれほど言うから、まぁ、一番に声かけてやったけど、たいした事ねぇよ。 俺の言ってたなじみの商人当たろうぜ、トゥール。」
「…でも、ギーツは本当に腕のいい商人なんだよ。その人、ギーツほどスムーズに町づくりをできるとは 思えないよ。ギーツなら、きっと大きな町にしてくれると思うんだけど…。」
 トゥールが打ち合わせどおりに、ギーツを持ち上げる。セイは鼻で笑う。
「どうだかなぁ。所詮親の庇護の中でぬくぬくとしてる、二代目能無しのボンボンだろ。新しい世界を開拓する 気概もないんじゃ、ちっちぇ奴だぜ。」
「ギーツはそんな人じゃないわ。ためらってるわけじゃないもの。ね、ギーツ?」
「もちろんだろ。オレにできないわけじゃない。ただオレに旨みがないのが気に食わないって言ってるだけだ。」
 胸を張るギーツを、セイが鼻で笑う。
「まぁ、言うだけならいっくらでもできるよな。旨みがない?町の創始者になれば、どれだけの利益が 得られると思ってるんだ?ま、他にやりたいやつはいくらでもいるんだ。リュシアを はずしてまでして頼みに来たけどよ、俺はこんな奴には任せられないね。 嫌々のやつにやらせるつもりはないだろう?」
 セイの言葉に、トゥールは頷いた。
「仕方ないね。予定通り、リュシアを連れて、セイが言ってたところに行こう。」
 サーシャはそっとギーツから体を離す。一度一緒に行きかけて…そっと戻る。甘える視線で、そっと ギーツの手に触れた。
「ギーツ…私は、貴方に任せたいの…駄目…?」
「…っは、オレ以外にできるとは思えないからな。ま、仕方ないか、一緒に行くぜ。サーシャ、お前のためにな。」
 あっさりと策略にのった哀れな男がそう言うのを聞いて、三人は心で小さくほくそえんだ。


 勇者一行というより、詐欺師一行になってきてます、トゥールたち三人組ですが。主犯は元盗賊ということで、 許してやってくださいませ。
 しかし、このゲームって落ちまくりですよね…。あと何回落下するのか…そしてその理由を考えるのが 大変そうです。
 そんなわけで、リュシアが一旦離脱しました。とはいえすぐ戻ってきますけれど。
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