――それは、見た事もない、愛らしい笑顔だった。
「…うん、いいと思う。…おめでとう。」


 指定された場所は、町の予定地と言うより、そこはただの空き地だった。湖があり水には苦労しなさそうだが、 とても町になりそうにない。
「…大丈夫かな…。」
 トゥールが小さくつぶやくと、ギーツは周りを見渡し、そして地面を蹴り分析を始めた。
「まぁまぁだな。水があるわりに、地面はしっかりとしてる。しかも傾いてない。…まぁ、 立地的には多少良くないが、港があればアリアハンからもそう遠くない。近くに森もあるし、資材は 安く手に入りそうだった。」
 その言葉を聞いて、セイはひそかに感心した。確かに性格に難はあるかもしれないが、腕は確かのようだった。
 そこの唯一の建物は、小さな掘っ立て小屋だった。トゥールはノックしてその小屋へと入る。そこにいたのは、 スーの村の村長によく似た老人だった。
「話、聞いてる。わし、ここに町つくる。いい商人連れてきたか?」
「ああ、オレか?」
 ギーツが顔を出す。老人はギーツをじっと見た。
「ここに町あれば皆喜ぶ。商人必要。お前、ここにいてくれるか?」
「…ああ、やるからには大きな町にするつもりだぜ。」
 ギーツは軽く答える。だが、老人はなおも問いを重ねる。その言葉は重かった。
「とても大変。最初は二人。それでもいいか?」
 その問いに、トゥールたちは冷やりとした。だが、ギーツはその重みに気がついていないのか、軽く頷いた。
「いいぜ。オレは天下をとってやる。」
「ありがたい、さっそく始める。これ、見て欲しい。」
 老人は、なにやら紙を広げた。ギーツはそれを覗きこんだ。
「…じゃあ、僕は行きます。よろしくお願いします。」
 トゥールはそこに声をかける。老人は頷く。
「必ずオーブを渡す。待ってろ。大きな町にする。」
「…頑張って、ギーツ。」
「おー、期待してるぜー。」
 サーシャは真摯に、セイはおざなりにそう言って、三人は小屋を出た。

「サーシャ!!」
 トゥールがルーラを唱え終わった時だった。小屋からギーツが飛び出してきた。
 魔力に包まれ始めたサーシャが、ギーツの方を見る。
「もし、本当にこの場所が大きな街になったら!オレの嫁になってくれるか?!」
 その表情がやたら真剣に見えて、サーシャは驚いた。そしてサーシャが口を開く前に、ゆっくりと魔力が三人を 空へと運んだ。


「トゥール!!」
 ルーラでアリアハンに帰ったトゥールたちを、リュシアは猛烈な勢いで出迎えた。
 リュシアはトゥールを見るなり、そのまま突進して腰にきゅっと抱きついたのだ。
「…リュシア?どうかしたの?」
 あまりの勢いに、トゥールがその頭を撫でながらそう言ったが、リュシアは首を振る。
「…こんなに離れてたの、初めて。…ギーツ、いない?」
「うん、町づくりに協力してくれるって。」
「…良かった。」
 そう言ったとたん、ルイーダの酒場の扉が開いた。中からルイーダとコラードが出てくる。
「あらら、リュシアが凄い勢いで外に出たと思ったら、帰ってきたのね。」
「サーシャ、お帰り。…でもすぐ行ってしまうんだろう?」
 コラードの言葉に、サーシャは頷く。
「そうなの…でも必ず帰ってくるわ、父さん。」
「…ああ、やりたい事をやっておいで。」
 そんな父娘のやりとりの横で、トゥールに抱き着いたままのリュシアに、ルイーダが優しく声を かける。
「辛くなったら、無理せず帰ってきてもいいのよ。たとえ、両親が見つからないままでも、リュシア、貴方が 私の娘であることには変わりないのだから。」
 その言葉に、リュシアはトゥールに捕まったままで、こくんと頷く。
「…ママ…。うん、…ママも頑張って。」
 リュシアはそう笑って、トゥールの袖をしっかりとつかんだ。

「…ところで、どこに行くんだ?」
 この先、行く当てはまったくない。トゥールも少し苦笑した。
「んー…せっかくだから、スーの大陸の下の方に行ってみようかなって。結局スーには父さんのこと、 聞けなかったし…。」
「確か、サマンオサって国があったはずだが、あんまりくわしくねぇな。アリアハンみたいに、あんまり 他国との交流がねぇらしいし。」
 セイの言葉に、サーシャは身を乗り出す。
「賛成。オルテガ様がどういう道のりをたどって…今どこにいらっしゃるかわかるかも知れないものね。ここから そう遠くもないし。リュシアもいい?」
 リュシアは小さく頷いて、そして子供のようにトゥールに抱きついた。


 アリアハンから船出するのは不思議な気分だった。旅の扉で出た時はそうでもなかったが、故郷からの 船出と言うのは、どことなく物悲しさを感じる。
「なんだか寂しいね。」
 離れゆくアリアハンの町並みを見ながら、トゥールはそうつぶやく。横にいたリュシアが小さく頷いた。
「…でも、トゥールがいるから。平気。」
 リュシアがそう言って抱きつくと、トゥールは微笑んで頭を撫でた。
「なんだかルイーダさんに会って、すっかり昔に戻っちゃったね。ルイーダさんにはたくさん甘えた?」
 リュシアは少し考えた後、無言で頷く。
「そっか、良かったね。…こっちはサーシャが大変だったみたいだけど。」
「…うん。」
 そこに、セイが顔を出す。
「トゥール、お前今日食事当番だろ…って何やってるんだ、お前等。」
 リュシアに抱きつかれながら話をしているトゥールを見て、セイは呆れたような顔をした。
「あ、そうだっけ。ごめんごめん。」
「…手伝う。作るから、ママに教えてもらったの。」
 そうして、二人で厨房へと消えて行った。

「何やってんだか。」
 セイが呆れながら海を見る。海原は青く、どこまでもどこまでも見通せる。
「…ん?」
 そこに、黒い一点が見える。それは、水平線の不自然な一点。
「…島か…?」
 セイは、船の横腹からそれを見ていた。にも関わらず、徐々に大きくなってくる。セイは『鷹の目』を使い、それを見た。
「…船か。珍しいな、このご時勢に。」
 立派な船が、こちらの方向に向かって進んでいた。 モンスターが出るこの広い海原で、国の近くでもないのに船に出会うのは珍しい。天文学的確率と言ってもいいだろう。 珍しい出来事に驚きながらセイは鷹の目を切る。船はゆっくりとこちらに近づいてきていた。




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