終わらないお伽話を
 〜 ひとつの取引 〜



 それは、アジトと言うよりも、一つの村に近かった。
 中央の大きな屋敷を囲むように、いくつもの離れが連なっている。そこには 何十人という人が作業をしている。 「さ、汚いところだけど寄っていきなよ。」
 ぽかんと見つめるトゥールたちに、ライサは気さくに声をかけた。
「…カンダタのアジトはなんというか…盗賊のアジトっぽかったけど…ここは 綺麗だし、居心地がよさそうだし…。」
「そうね。驚いたわ。」
 サーシャの横で、リュシアもこくりと頷いた。
「あー、変わってねぇな。」
 セイは苦笑しながら、屋敷へと入っていく。すでに慣れた場所らしい。
「セイは以前ここにいたのかしら?」
「そうだよ。」
 サーシャのつぶやきに、ライサが答えた。
「白刃にあたしたちは何度も助けられた。あれで面倒見のいいやつだからね。」
「うん、凄く良い奴だ。僕達も何度も助けてもらった。」
 そう言いながら、トゥールたちはセイの後を追う。それを見ながら、ライサはつぶやく。
「…けど、決して長居はしない。どれほど手を尽くしてもここにずっといてはくれなかった。」


 外見からの想像どおり、中もずいぶんと居心地のいい空間だった。豪奢ではない堅固な作り。男所帯の せいかどこか雑然としているが、それでもカンダタの塔や洞窟のように薄暗くない、明るいつくりだった。
 そして、何より中の人間が大違いだった。
「よぅ、客か。」
「さっき白刃も来てたぞ。」
「よー、ねーちゃん美人だなー。」
「聞いたぞ、御頭がおそっちまったんだって?悪かったな。」
 そんな気さくな声がかかる。見た瞬間攻撃的に襲ってきたカンダタの子分とはずいぶんと違う。
「…なんだか皆明るいね。カンダタとはずいぶんと違う。」
 トゥールの言葉にライサは苦笑する。
「金腕のあれは、男のやり方だね。力で全てを支配するってのはさ。 あたしはああいうの性にあわないのさ。…あんたはおかしいと 思うかい?女のあたしが、これだけの海賊団のお頭なんてさ。」
「…意外には思いました。けど、おかしいって言うのはちょっと違うと思います。」
 トゥールは正直に答えたが、ライサはそれが気に入らなかったようで鼻で笑う。
「あたしはお世辞を言う奴は大嫌いだね。」
 じろりとにらむライサの視線に怯えて、リュシアはトゥールの袖をつかむ。サーシャはハラハラしながら それを見守ったが、トゥールは気にしなかった。
「…ライサさんはおかしいと思うんですか?」
「何?」
「自分が頭だって、おかしいと思うんですか?…それは部下の人たちにとっても失礼なことじゃないんですか?」
「どういう意味だい?」

 トゥールはまっすぐライサを見た。
「ライサさんは女がお頭だと変だって思ってるみたいですけど…。 性別なんかで自信をなくすのはおかしいです。ライサさんを信じて従ってる人たちの為に、 自分が頭であることに自信を持たないといけないんじゃないですか?」
「ふーん、はっきり言うね。」
 ライサはじろりとトゥールをにらんだ。だが、トゥールはそれを見返した。
「ライサさんが頭でおかしいかどうか、本当はわからないです。でもおかしいならこれだけ多くの人が ここにいるわけない、違いますか?」
 その言葉に、ライサは破顔した。
「あっはっは、はっきりいう奴は嫌いじゃないよ。まいったまいった。」
「んなところで何やってんだ。おせぇぞ。」
 いつまでたっても来ない三人を迎えに来たセイの声に、ライサは苦笑して廊下を歩いて行った。

 案内されたのは、屋敷の最奥にある部屋だった。そこにはさまざまな地図が掲げられ、コンパスなどが飾られている。
「適当に座って。…さてと、何が知りたい?」
「…そっちから誘っといてそれはないだろう。」
 セイが椅子に座り込みながら、そう苦笑する。
「そうかい?知りたい事がわからなきゃ、情報もあげられないじゃないか。」
「…勇者オルテガが…どこにいるか、ご存知ないですか?」
 口を開いたのは、サーシャだった。サーシャは祈りの言葉のようにそう告げたのだった。だが。
「…オルテガは火山に飲まれて死んだ。」
「そんな!どうしてそんなことが!!」
 ライサの言葉に、サーシャが声をあげる。トゥールは顔を曇らせた。ライサは世界地図をひろげた。
「これは世界の地図だよ。見たことあるかい?」
「はい…僕達も持ってますから…。」
 トゥールの声は少しかすれていた。だが、目をそらすことなく、まっすぐに地図をみる。ライサはアリアハンから東の大陸を 指で示す。
「火山ってのはここ。今からんー、8年くらい前だね。一艘の船を借りて、オルテガはここに旅立った。一緒に いた人間が、オルテガが火山の上で敵と戦い、落ちるのを見た。」
「本当に、オルテガ様なの?」
 すがるようなサーシャの言葉に、ライサは頷く。
「ああ。一艘の船をオルテガは頼んでいる。帰りはルーラを使って帰るから、船はそのまま引き返してくれていい って言ったんだってさ。けど、船の持ち主は引き返しがたかった。だからずっと見ていた。そう言ってたね。」
「…信じない…信じないわ…だってそれでも、オルテガ様の遺体を誰かが見たわけじゃないんだもの…オルテガ様は… 真の勇者だもの…」
 サーシャが落ち込む。ライサは笑う。
「まぁ、それはあんたの勝手だね。しかしその勇者はそんなところで何をしてたんだろうね?」
 ライサの疑問に、トゥールは言葉を足す。
「それに…確かムオルでも8年ほど前って言ってた。父さんは5年間、どうしてたんだろう?父さんなら世界中回るのに そんなの時間がかかるとは思えないのに。」
「本当にね。…他に質問は?」
 しんみりとした空気を振り払うように、ライサは話題を変えた。


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