唐突な言葉だった。三人が顔を見合わせる。
「どういう意味?どうして私は駄目なの?」
「そうだよ。サーシャの何が問題なのさ?」
 声をそろえて抗議するトゥールとサーシャに、セイはサーシャの髪を指ですくう。
「あの国には、黒髪以外の人間はいない。黒い髪、黒い目、黄色い肌じゃないやつは一発でよそ者だとわかっちまうんだよ。」
「そんなことがあるの?」
 サーシャは首をかしげた。長い間他国との交流を密にしてなかった大陸、アリアハンでも色とりどりの目や髪の人間が いた。単色のみの髪の色の町と言うのは、想像できないものがあった。
「ああ。単一民族しか住んでないからな。言葉はなんとか通じるが、大和言葉っていう独特の言葉がやたら多いくらいだしな。 トゥールはまぁ、目が青いけど、目だけならそれほど目立たないだろう。だが 、サーシャ…と俺はよそ者だと思われるならいいが、下手すりゃモンスター扱いされるかもしれねぇぜ。」
「モ…モンスター?いくらなんでも、髪の色が違うくらいで…。」
 トゥールが驚きの声を上げる。リュシアが顔をしかめた。散々ギーツにいじめられた事を思いだしたのだろう。
「生まれてこの方黒い髪の人間しか見た事ないんだ。そうじゃない人間には驚くだろ?お前等だって…そうだな、 肌が緑の人間がいたら、モンスターかと疑わないか?」
 サーシャは自分の青い髪をなでさする。
「そんなものなのかしら…」
「…島、見えた。」
 リュシアが前方を指差してつぶやいた。


「ジパング、だよね。」
「ああ、多分な。」
 セイは機嫌が悪そうに吐き捨てた。
「そうとう嫌いなのね。…もしかして、本当は行った事があるんじゃないの?」
「行った事はないぜ。本当だ。」
「じゃあ、ジパングの女の子にふられた?」
 トゥールの言葉に、セイは物騒な笑みを浮かべる。
「何でそう思うんだ?」
「だってほら、黒髪の女は嫌いっていってたから。」
 そう言われて、サーシャは手を打つ。そう言えば、セイは髪の色の美しさにこだわりを持っていた。特に 黒髪が嫌いだと、よくサーシャに言っていた事を思いだす。
「…もしかして…。」
 リュシアが言葉を紡ぐ。
「…リュシア…ジパングの…?」
「違う!」
 セイが、声を荒らげた。
「…セイ?」
「…悪い。けど、リュシア、お前はジパングの人間じゃない。顔つきが違う。」
 静かにそう言った。そのどこか傷ついたような表情が痛々しかった。
「…セイ…あの…。」
「セイ、あのさ、僕達は、やっぱりどうしても、ジパングに行かないといけない。」
 サーシャの言葉をさえぎって、トゥールは言う。
「セイにどんな事情があるか知らない。…けど、もし行きたくないのなら、この船に残ってくれてもかまわない。」
 セイが怪しい事はわかっているのだろう。それでもその言葉は、全てに目をつぶると、何も聞かないとそう言って いるのだった。
 それは絶対の信用。トゥールは何故か最初から、自分を信用してくれていた。
 周りを見ると、二人の女がこちらを見ていた。…信頼の眼差しで。
「…お前ら、甘いな。」
「そう?そうでもないと思うよ。本当は聞きたくて仕方ないから。」
 トゥールが笑う。サーシャとリュシアも小さく笑った。

 空は青い。あの時と同じように。
 映るのは、小さな教会。そして、その先。自分の瞳に映してきたのは。
「…わかったよ、一緒に行くぜ。お前等だけに行かせるより、その方がずっとましだろうからな。」
 諦めと、そしてそれとは逆の心。立ち向かう勇気。それを持ってセイは立ち上がった。


 セイ主役編に続きます。神秘の国ジパング。書くのをずっと楽しみにしていたところです。
 大体皆様予想通りだと思いますが、次回にできるネタ晴らしが楽しみです。

 色々調べたのですが、もし肌の色が緑色になる病気とか体質とかその他ありましたら教えてください。 訂正しますので…。
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