終わらないお伽話を
 〜 日出づる国にて(前編) 〜



 まさに黄金の国と呼ばれるに、ふさわしい光景だった。
「…綺麗…。」
 一面に広がる、黄金色の海。風が吹くたびに、黄金の稲穂がゆっくりと頭を揺らす。サーシャの頭に まいていた布が、ふわりと広がった。
  「おーい、気を付けろよ。」
 どこか小さくなりながら、セイがサーシャに注意を促す。セイは目深に帽子をかぶり、髪と顔を隠すように して歩いている。下手に目立つ必要はないという、セイからの提案だった。
 だが、残念ながらその効果は薄いだろう。
 真っ黒な髪、アーモンドブラウンの瞳、そして彫りの浅い、エキゾチックな顔立ち。そして、 見た事もないような構造の服。そんな統一されたような人たちの中で、彫りの深い顔立ちのトゥールたちは散々目立っていた。
「…見られてるの…。」
「まぁ、仕方ないよ。さて、オーブの事、尋ねてみないとな…。」
 トゥールはそう言って周りを見回したが、人々は遠巻きにこちらを見、トゥールの視線からは目をそらす。どうにも 近づきがたい雰囲気だった。
「…そもそもこいつらがそんなもん、持ってるとは思えねぇぜ?」
「そうね、装飾品もほとんど見に付けてないみたいだし。でも、あの服、趣があって綺麗ね。」
 サーシャが指差した先に、他の人とは違った感じの女性がいた。
 基本は白地に赤。そこに金の刺繍が入った鮮やかな衣装は、他の人間が来ているものと違い、土に汚れていない 美しい着物だった。
「…ああ?あれは神に仕える巫女が着る服だな。僧服みたいなもんだ。」
「へぇ…こちらの僧服も美しいのね。 神に仕える方々なら、オーブの事を知っているかもしれないわ。聞いてみましょうよ。」
「まぁ、気を付けろや。」
 乗り気のしない表情でセイが後ろに下がった。

 トゥールは、警戒されないように明るい笑顔で女性に声をかける。
「すみません。」
「まぁ、ガイジンの方。なんの御用ですの?」
 少し顔をしかめた女性に、トゥールは頭を下げた。
「あの、ここにその、紫のオーブがあるって聞いたんですが…。」
「おーぶ?おーぶとはなんぞ?」
「えーっと、宝玉というか…。」
 その言葉に、女性は警戒心をあらわにした。
「そなたら…さては日巫女様の宝を奪いに来たのか?!」
「いえ、そんなめっそうもありませんわ。そのヒミコ様というのは、こちらの君主なのでしょうか?」
 サーシャがそれをなだめるように笑う。女性は吐き捨てるように言う。
「まったく物知らずな…日巫女様は常世の万物を操る神通力を持たれ、人の 生命をつながりを越え、この地の荒ぶる神獣と通じ、抑える事で永きに渡り この国の平穏を守っていらっしゃる、神とも等しき巫女様であらせられます。」

 なにやら大仰な言葉が並び、トゥールは目を丸くする。その反応に満足したのか、女の口が するするとすべる。
「日巫女様は人でありながら、人を超越された方。 日巫女様が神獣と通じ、生け贄を差し出す事を教えてくださらなければ、この国はこのような 豊かな生活が送ることも出来ず、滅びてしまっておったでしょう。」
「生け贄?!それは…人を獣に捧げ、犠牲にする事?そんなこと許されないわ!」
 サーシャの怒りの言葉に、女性の眉間にしわが寄る。
「貴方に何がわかりましょう?この国はこの国が生まれた頃より神獣 八岐大蛇(やまたのおろち)に に悩まされておりました。神獣が暴れた時は日は翳り、流行り病が起こり、大地は揺れました。 何度も退治しようと立ち上がりましたが…誰も適いませんでした。」
「なんだ、それ…。」
 セイの言葉に女性は冷たく言いはなつ。
「この国の者ならば、誰もが知っている昔話です。ですが今から百年も跨いだ在る時 日巫女様がこの国は八岐大蛇の神通力によって豊かな大地をたもっているとおっしゃれました。 もし、八岐大蛇を倒せばこの国は滅びると。その代わり生け贄を捧げれば、神獣がこの国の 豊穣を約束してくださると。それ以来、この国ではずっと八岐大蛇に生け贄を捧げ続けて、 この国を守っているのです。貴方はこの国を滅ぼせと言うのですか?ガイジンが勝手な事を 言わないでください。」
「…でも…。」
 更に抗議しようとするサーシャを無視して、独り言のように女性はつぶやいた。
「ああ、こんな事をしている場合ではないわ。まったく名誉ある生け贄に選ばれたというのに、弥生はどこに いったのかしら…もう、このままでは国が滅んでしまうわ。」
 女性はそう言うと、赤い不思議な門がいくつも並んだ先にある、大きな屋敷へ向かって急ぎ足で歩き始めた。

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