「昔々あるところに、代々神事を司るちょっと偉い家に若い夫婦がおりました。やがて、二人に 子供が授かりました。」
 まるでお伽話を語るように、セイは茶化しながら話し始めた。

「それは念願の跡取り息子でした。ですが、なぜかその髪は白銀に光っておりました。黒い髪の人間しかいないこの国で、 白い髪の人間が生まれるわけがありません。本来ならば、その子は化け物が腹に宿ったとして さげすまれたか、捨てられたか…運が良ければ逆に神の子と呼ばれたのでしょう。」
 まるで他人の事を語るようなその口調が、どこか痛々しかった。
「ですが、まだ妻が身ごもってない頃、たまたま大陸の向こうから知らない神様の教えを伝えにこの国に金の髪の 人間が来ていたことを、夫は知っていたのです。黒い髪の人間から白銀の髪の人間は生まれないが、金の 髪の人間からは生まれることはあるだろう。夫はそう思い、妻の不貞を疑い…いいえ、決め付けました。」
「そんな無茶な…。」
 サーシャが少し呆れて言うと、セイはいつもの笑顔で笑う。
「知ってる奴の常識と、知らない奴の常識は違うのさ。ここでは人の髪は黒いのが常識なんだ。 それに、ここらの奴の肌は黄色いだろ?俺は白い。その神父も白かったからな。」
 セイが腕を伸ばすと、それはサーシャたちよりももっとずっと色素の薄い肌。まるで日の光を 浴びたことさえないような。

「…もちろんお袋は不貞を否定した。そんな覚えはないってな。でも親父は俺が証拠だと言って聞かなかった。 そして親父は、俺にここではない他所の言葉で、リュウセイと付けた。やがてこの子は不吉の象徴のように 忌み嫌われる子になるに違いないってな。」
 見上げたセイの目のアーモンドブラウンだけが、この国の人々と同じ色。それはあまりにもささやかで 消えてしまいそうな共通点だった。
「ま、俺は父親からは自分の子じゃないと怒鳴られ、母親からは化け物と言われ、仲の良かった夫婦は俺のせいで 大崩壊。毎日親父はお袋を殴り、お袋は俺を殴り…俺が悪いのは 知ってた。俺がいなければ平和だったって知ってた。…それでも、俺は卑怯だな、結局逃げ出しちまった。 …10を過ぎた頃だったかな。」
 セイは少し遠い目で、山を見つめた。山の向こうにある大陸を。そこにある教会を。
「俺も疑ってた。俺の父親は誰なのか。 その神父がどこにいるのか、噂話で知ってた。俺は、会いに行ったんだ。そこで教えられた。たまに 色素をあんまり持たないで生まれてくる生き物がいるってことをな。」
 セイは今まで見たこともないほど、痛々しく笑った。
「笑うよな、家を出てから、俺は成長して…鏡に映る自分はどんどん親父に似てくるんだ。父親じゃないと思ってたその くそ親父にさ。たまらないぜ、ほんと。もし、俺がその場に残ってたらどうなってたか… とかな、考えたくなる。」


 セイは一瞬うつむいた後、勢い良く立ち上がって土を払った。
「そんなわけでその子供は、そのうち生きるために物を盗み、やがて盗賊団に拾われ、腕を磨いた後 盗賊団から抜け出してフリーの盗賊になりましたとさ。以上、質問あるか?」
 陰鬱な空気を振り払いたかったのだろう、セイのその明るい口調に乗るように、トゥールは笑いながら 口を尖らせた。
「ジパングに来た事ないって言ってたのにさ。」
「ないぜ?ここから出てきた事はあるが、ここに来た事はない。ほら、嘘は言ってないぜ?」
「そういうの、詭弁って言うんだと思うよ。…でもセイ、セイは不吉の象徴なんかじゃない。いてくれて 良かったと僕は思ってるよ。」
 小さく笑いながらトゥールは立ち上がってセイにと並んだ。その横で、サーシャは、まじまじとセイをみつめた。
「…なんだよ?サーシャ?」
「…そうね、お疲れ様。そして、嫌なのに私たちのために、ここに来てくれてありがとう、セイ。」
 そう言って、サーシャは微笑んだ。それは不思議なほど『母性』を感じる微笑だった。


「あ…。」
 リュシアも立ち上がった。だが、言葉が出てこなかった。いつもそうだ。言いたい事があるのに、 良い言葉が出て来ない。今は胸が一杯で、つかえて何を言えばいいかわからず、ただ口をぱくぱくとさせた。
 それでも、どうしても言いたかった。言いたい事があるのだ。伝えたい事が。なのに、言葉が選べない。たくさんの 言葉が溢れだしそうで、一生懸命リュシアは整理する。
 その気持ちが伝わったのだろう、セイは苦笑してリュシアの側に寄った。
「ありがとうな、リュシア。でも気にするな。別に俺は気にしてねぇよ。ここに来た以上、 言わなきゃならねぇことだとわかってたしな。」
 セイはそう言って、リュシアの頭に軽く手を置いた、その時だった。

「流星!!」
 怒声だった。それとともに、地響きのような足音が聞こえる。
「今更何をしに来た!!私たちに破滅をもたらしに来たのか!!この疫病神め!!」
 そんな憎しみの言葉と共に現れたのは、セイの面影をもった、壮年の男性だった。


 はい、そんなわけで、ようやく、ようやくセイの本名が出せました。お疲れ様でした。
 セイのアルビノは目にまでは及んでいない、という設定です。あんまり詳しくないのでぼろが出そうなのですが。
 ぼろと言えば、本来流れ星は日本では吉兆、欧米などでは凶兆っていうのが一般的なんですよね…。てっきり 逆だと思いこんでいて設定を作ったので、ちょっと失敗したなぁと思いつつ、もう私の中で変えられなかったので ここではこういうことにしておいてください…
 そういう勘違いしたのは彗星が凶兆だから、流れ星もそうに違いない、と思いこんでいたせいだという… ドラ○もんのせいかも。
 ちなみにゲーム上にいる神父はこの話では、二代目宣教師という設定です。
 それでは次回は中編。ヒミコさん登場予定。お楽しみに。ちなみに、後編でジパング編は終わりません。 この三構成は前置きです(笑)

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