終わらないお伽話を
 〜 日出づる国にて(中編) 〜



 黒い髪に、見慣れぬ民族衣装。それでも、きりりとした眉毛とその面差しには見覚えがあった。
「流星、お前が生まれてから、私の人生は一気に地に落ちた!!今更何をしにきた!!」
 おそらくはセイの父親なのだろう。剣呑な表情だが、たしかに並べて見ると、良く似ていた。
 怒声を吐きながら父親は、怒声で小さくなっているリュシアを手で押しのけて、 セイの前に立った。父親はセイの胸倉をつかみあげる。
「セイ!」
「セイを離して!!」
 声を上げたトゥールとセイを、父親はにらみつける。だが、セイは片手で二人を制して、父親に小さく言った。
「…関係ないだろう?」
「ないわけないだろう!お前の行動一つで、榊家はまたどんな厄災が降りかかるかわからんのだからな!!まったく 外人をこの神聖なる地に踏み込ませて…。」
 セイはそんな父親の手にされるがままになりながら聞く。
「…弥生が生け贄に選ばれたって本当なのか?」
「ああ!!」
 父親の顔に憎しみと怒気がはらむ。
「それもこれも皆お前のせいだ!あのふしだらな女から産まれたとはいえ、弥生はれっきとしたこの家の跡継ぎ 娘だというのに、生け贄に選ばれるとは!!榊家が途絶えてしまうではないか!!本来ならば 黒い髪の榊家の長男がいたはずなのだぞ!!…いや、神獣が弥生を選ばれたのも、 流星のような者を産んだ榊家への神罰なのだ!!」
 そう言いながら、父親は投げ捨てるようにセイの胸倉を離す。ほとんど八つ当たりだった。


 トゥールたちは、その場から動くこともできず、はらはらしながらそれを見ていた。 セイは、手出しを拒んでいるように見えたが、その言葉がセイを傷つけていることは良く分かった。
 セイは心なしか少しよろけながら、言葉を投げる。
「ヒミコってやつが決めたんじゃないのか?」
「日巫女様になんという口を!!お前も知っているだろう!!我等神事を司る榊家は、 永きに渡って日巫女様に尽くし、日巫女様の信頼を得てきたことで、繁栄した一族なのだぞ!! 日巫女様とて苦渋の神託だったに違いない!!それもこれも、全て流星のせいだ!!」
 セイの顔が曇る。声が少し震えていた。
「でも弥生は逃げたって聞いた。」
「まったく…弥生もさすがあの女の娘だ。選ばれし神聖なる神事を逃げ出すなど榊家の名を名乗らせるのも 汚らわしい!!すぐさま見つけ出して性根を叩きなおさねばならん!!」
「本気で弥生を生け贄に出す気か?弥生は娘だろ?」
 思わず声をあげたセイの言葉に、父親は声を荒らげる。
「馬鹿者!日巫女様の神託に従わず娘を逃がすなど、榊家の恥!弥生にはそのことをしっかりと叩きこまねば… 何がなんでも弥生を探し出して、生け贄に捧げねば!日巫女様の不興をかってしまえば、榊家は滅んでしまうのだからな!」
「…弥生を、家の為に生け贄に差し出すつもりなのか。」
 目を見張ってそう言ったセイに、父親はもはや狂ったように怒鳴る。
「お前のようなガイジンの血を引く下賎なものに何がわかる!!流星が生まれてから、榊の家はめちゃめちゃだ!!お前が 常世に生まれたから、弥生は神獣に食われるのだと弁えろ!!流星の存在が全てを滅ぼすのだ!!」
 父親は足を一歩踏み出し、手を上げる。
「お前など、生まれなければ良かったのだ!!」
 セイは目を閉じた。父親の手が振り下ろされる。

 そして、頬を打つ激しい音が響いた。


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