終わらないお伽話を
 〜 日出づる国にて(後編) 〜



 靴を履いて、四人はヒミコの屋敷から外へ出た。
「…どうしようか…オーブの事、聞けそうにないね。」
「オーブもそうだけど、それより!生け贄の事、なんとかしなくちゃ!!」
「余計なことするなって言ってた。なんか変。」
 サーシャの頭に、軽い衝撃。
「…何?」
 見ると帽子で頭を隠したセイがサーシャに布をかぶせていた。
「ん、まー、もーしょうがないんじゃねーの?余計な事するなってヒミコ様も言ってたし、 あとは適当に見て回って帰ろうぜ。ほらかぶっとけー。」
 一瞬言い返そうとしたが、サーシャは考え直して髪が見えないように布をかぶった。
「おー、そうだ。確かこっちにちょっと珍しい花が咲くんだ。それ見て帰ろうぜー。」
 一本調子でそう言って、セイはそのまま歩き出す。トゥールたちは顔を見合わせてそのまま後を追った。


 西の雑木林にある倉庫。半地下になったここは、かつては食料などを入れていたのだろう。だが、少々不便な所に あるせいか、ほとんど使われていないようであちこちが埃かぶっていた。
 セイは少し感慨深げにいろいろなところを見ながら、その中に入って行った。三人もその後を追う。
 倉庫の中には、大きな壷がたくさん置いてあった。セイは奥の方へ行きあちこちの壷をのぞいて見るが、やがて諦めたように ため息をつく。髪を掻きながらトゥールたちを見た。
「…どうかした?」
「いや…まぁ…いいか。戸は閉めたか?」
 セイの白い頬が、少し紅く染まっていた。それを不思議に思いながら答える。
「うん、閉めたけど?」
 その言葉を聞いて、セイは小さく口にした。
「……うつせみの 妹泣く声ぞ 耳に聞く…」
 セイが、耳慣れない響きの呪文のようなものを唱え始めた。
「露の落ちたる 川の流れよ。」
 壷の一つが、カタカタと音を立てた。セイは急いでその壷の前に歩く。そして、
「…兄様…!?」
 その壷から一人の女の子が飛び出した。そして、目の前にいたセイに抱きついた。
「兄様、お兄ちゃん!!」
「…やっぱりここにいたのか、弥生。」
 その女の子を抱き返しながら、セイは優しくそう言った。


 黒く長い髪を持つ少女は、セイの横にちょこんと腰を降ろす。あまり似ているようには見えなかった。どちらかというと、 母親に似たのだろうか。
 そして、同じ年のせいだろうか、確かにどこかリュシアを連想させた。少女はセイにそっとくっついて頭を下げた。
「僕はトゥール。青い髪がサーシャで、黒い髪がリュシア。…貴方がセイの妹さんですよね?」
 トゥールがそう言うと、弥生は少し不思議そうにセイを見上げた。
「セイって言うのは俺の事だよ、弥生。」
「そうでしたか。…はい、榊弥生と申します。」
「…立派になったな、弥生。多分、ここにいるとは思ったけどな、無事で良かったぜ。」
「…いいえ、兄様。…兄様こそ、無事で良かったです…。」
 その言葉に、この兄妹は本当に仲が良いことがわかる。荒れた両親を見ていた三人はどこかホッとした。
「でも本当に良かったです。もう少ししたら…会えなくなるところでした…。」
 弥生が、少し震えた声でそう言った。セイが強い口調で言い返した。
「馬鹿言え!そんなことさせない。絶対させないぜ。」
「そうよ!生け贄なんて…貴方みたいな人が、そんな風になってはいけないわ!必ず助けてみせるから…。」
 サーシャが強くそう言った。だが、弥生は首を振った。
「ここに来たのは、逃げるためではないのです。私はただ、少し時間が欲しかっただけなのです。 この国に別れを告げるための時間が…。」
「どうして!」
「なぜなら、私が逃げてしまえば、今まで犠牲になってきた方の命が無駄になってしまうからです。 生け贄は国を守り、豊穣をもたらすために100年に渡って 続いてきた大切な儀式。…確かに怖いですけれど逃げるわけには参りません。」


 きっぱりとした言葉に、サーシャは言葉を失った。だが、セイは弥生の両肩をしっかりとつかむ。
「弥生…。」
「兄様、最後に会えて嬉しかったです。」
「なぁ、覚えているか?小さい頃、良く遊んだ草原で遊んだな。」
 優しい言葉に、弥生は頷く。
「はい、良く覚えています。大きな草原。紫草が綺麗だったでした…隠れ鬼やままごと…楽しかったね、兄様。」
 最後の言葉は、別れた時、そのままの声音で。 けなげな言葉に、少し涙が出そうになった。だが、セイは真剣な表情で答えた。
「なぁ、弥生。『あの草原は、どこにあった?』」

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