「??」
 その大蛇を避けながら、トゥールは首をかしげる。おかしいことに気が付いたサーシャも、呪文を唱えながら警戒する。
「なんだか様子がおかしいわよ?!」
「ようやく…効いたか!!」
 セイはそう言うと、飛び上がってふらふらと空をさまよう大蛇の頭に、深々と鉄の爪を食い込ませた。
 大蛇の悲鳴が叫ぶ中、セイは不敵な笑みを浮かべながらこう叫んだ。
「お前等がどっから来たかしらねーが、この国じゃあなぁ、化け物は酒飲まされて倒れるって決まってるんだよ!!」
 先ほどの皮袋の正体がようやく知れ、三人も同じく不敵な笑みを浮かべた。
「今がチャンスね!!べホイミ!!」
 サーシャがトゥールに回復魔法をかける。そして時同じくリュシアが呪文を歌い、トゥールに力がみなぎる。 トゥールはそれを受け、飛び上がった。
 大蛇の首に深々とさされたトゥールの剣は、そのままその首を真っ二つに切り裂いた。


「やった!!」
 溢れる血を避けながら、その硬い手ごたえに、トゥールは勝利を感じた。
 ヤマタノオロチが最後の声をあげる。その声は低く低く…呪われた声だった。
「これ、いや…」
 リュシアがその不快さに耳をふさぐ。他の三人も思わず体が止まった。
 偽りとは言え、神獣と呼ばれたその生き物は、ただのモンスターではなかったらしい。その 一瞬の隙に、その巨体がかき消えた。

「な…どうしてだ?!」
 セイが血まみれの大地を走った。すると、岩陰に旅の扉が隠されていた。…ただ、その旅の扉は 今まで見たものと違い、邪の気配にまみれたものだったが。
「追うぜ!」
「待って、セイ!傷をふさがないと、どこにつながってるかわからないのよ?!」
 サーシャが回復魔法を唱えようと駆け寄ろうとして…つまづいた。
「?」
 血にまみれて、良く分からないが、棒状のものだった。サーシャは思わず吸い寄せられるように手に取る。
 そうしているうちに、トゥールが簡単にセイの傷をふさいだようだった。
「サーシャほどうまくないけど、大丈夫?」
「おう、リュシアも火傷してるな。せっかくだ、トゥールに治してもらえ。サーシャは温存しておいたほうが いいだろ。」
「え、ああ、そうね。うん、トゥール、リュシアを治してあげて。」
 サーシャはそう言いながら、血を綺麗にふき取った。その棒状のものは…剣だった。淡い緑色のその剣は見たことのない 形だったがどこか使いやすそうだった。

「…平気。ありがとう。」
 顔を赤くして、リュシアは小さくそうつぶやいた。
「慣れないしサーシャほどうまくないけど、ちゃんと治った?」
 トゥールの言葉に、リュシアは首を振る。
「…サーシャより、気持ち良かった。」
「そう?なら良かったけど。それじゃ、行こうか。」
「ああ、取り逃がすわけにはいかないからな。」
 セイは、旅の扉をにらみつけてそう言った。



 そこは、人気のない出入り口だった。おそらく使用人などが、出入りするのだろう。少し新しい 草木の匂いのする屋敷。そして立派な屋敷は世界に唯一つだった。
「…血の跡だ。」
 低いセイの声に、三人は頷きを返す。その跡を追って行くと、大量だった血の跡が、やがて小さくなり… それは、奥まった部屋へと続いていた。
「…巫女様!日巫女様!しっかりなさって…今すぐ傷の手当てを!!」
 部屋の中から聞こえてきたその声に、セイは襖を開け放った。
 そこには、体から血を流しているヒミコと、それを手当てせんとする女の姿があった。
「なんです?日巫女様が大怪我をなさって大変なのです!!出ておいき!!」
 その女をセイは無言で押しのけた。すると、声がした。それは、ヒミコの喉から響いた声ではなく、 頭の中へと直接響く、低い低い…オロチの声だった。
「わらわの本当の姿を見た者はそなたたちだけじゃ。黙っておとなしくしている限り、そなたたちを殺しはせぬ。どうじゃ?」
「ふざけるな!!」
「嫌だ!」
 セイとトゥールの声が、同時に空間を切り裂いた。
「ならば…」
 続いて響いたのは、頭の中ではなく、ヒミコの喉だった。
「日巫女様?」
 押しのけられた女が、心配そうにヒミコを見つめる。だが、ヒミコは禍々しい眼光でトゥールたちをにらんだ。
「ならば生きては返さぬ!!食い殺してくれるわ!!」
 そう言ったとたん、ヒミコはヤマタノオロチへと変化した。


「ひ、ひえーーーーーーー、日、日巫女様が、日巫女様が…や、八岐大蛇がぁぁぁぁぁ!!」
 女は部屋の端へと走り出し、襖を着き破ったかと思うと、そのままくたりと気絶した。

 八つの首のうち、一匹は完全に死に、もう一匹もセイの付けた傷跡から血がだらだらと流れ、まともに動けない。
 そして他の首も凍ったり傷を負っていた。…負ける気などまったくしなかった。
「即効で倒すぞ!!」
 セイはそう叫ぶと、そのままオロチの首をかけあがった。
 オロチはセイを捉えんと首をもたげ、セイに襲いかかったが、傷ついたオロチは、 もはやセイの動きを捉えることは出来ず、そのまま自分の首へと食らいつく。
 オロチが悲鳴をあげるその口に、
「ヒャダルコ!!」
 リュシアが氷塊を投げつける。噛み砕くこともできないオロチは、喉に氷塊を詰まらせもだえ苦しみ、暴れる。
「ピオリム!」
 自分の呪文で、体が軽くなった事を確認し、サーシャは手に入れたばかりの緑の剣を抜いてオロチへと走った。襲いかかる オロチの首を軽くよけ、大きく振りかぶり斜めに切りつける。硬いのうろこが腕に響くが、それでもぼろぼろと うろこが落ちていく。
 そして、血を流しながら七転八倒するオロチに向かってトゥールが走った。すでに力尽きた頭を足場に、高く高く飛びあがる。
 弱弱しく吐かれる炎を剣で散らしながら、トゥールは頭の根元へと剣を突き刺した。
 八岐大蛇は、耳をつんざくような悲鳴をあげる。耳に聞こえたその声とは別の声が、トゥールたちの頭に 響く。

 ”勇者よ…嘆くがいい、恐れるがいい!!わらわの受けたこの痛み、この苦しみ、この屈辱、かならずバラモス様が 何倍にもして、そなたに返そうぞ!!そなたは必ず、血の涙を流しわらわ以上の苦悶を感じ、地に伏せるであろう!!”

 最後の一つの頭が、血を流しながらじろりとトゥールをにらみつける。
「望むところだ。」
 トゥールはそれに対してにらみつけながら言葉を返す。
「僕が勇者の運命を受け入れた時から、そんなこと覚悟していた。僕はお前の為に苦しんだ人たち全ての 苦痛を引き受け、浄化するための者だ。僕は必ずお前たち全ての魔を浄化してみせる!」
 トゥールのその言葉をヤマタノオロチはにやりと笑い、頭はくたりと地に落ちた…そして、そのまま灰となって消えていった。


 戦闘シーンらしく、見えたでしょうか。苦心しているわりに、すぱっと戦闘中だと忘れる勇者は なかなかに太い神経をしていると私も思います。
 …私はどうしても酒が使いたかった…使いたかったんだ!という気持ちが出ていればこれ幸いです。
 神話どおりにやっても良かったのですが、いくらなんでもこの状態で垣とか作ってるばあいじゃないので。 結構悠長だな、スサノオ。

 次回ジパング編最終回。セイの生い立ちでスタートした物語、 なんとかセイに閉めてもらいたいと思います。


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