〜 Birthday 〜



「「お誕生日、おめでとう!」」
 かちん、とグラスが合わさる音がする。四人はそれぞれグラスをぶつけ合う。
「ありがとう。」
 リュシアは少し照れながらはにかむ。
 ここは、ポルトガの酒場。テドンの事件が終わり、四人はひとまず補給もかねてここにルーラしてきたのだ。
 ポルトガを選んだ理由は、セイの勧めだった。
「ここの酒場が一番酒の質がいいからな。どうせ初めて飲むんなら、質のいいのいっとけ。」
「ここで良かった?」
 トゥールがそう気遣うと、リュシアは頷く。
「次にママに会うのは、終わってからにするの。トゥールもそうしたでしょ?」
 朗らかに笑うリュシアを見て、心配なさそうだと、トゥールは頷いて、手にしていた酒杯を口にした。
「リュシア、お酒飲むの初めて。」
 リュシアは緊張した面持ちで、手にしていた鮮やかな黄色のお酒をそっと口に流し込む。
「おいしい。甘い。」
「うん、こっちもセイが選んでくれたけれど、甘くておいしいわ。ライサさんの所で飲んだお酒は、ちょっと 癖が強くて、頭がくらくらしたから。」
 サーシャも手にしていた透明なグラスを口にして上機嫌だった。
「そりゃ何よりだ。でもちゃんと食べろよ。飲んでるだけだと周るからな。」
 目の前に並べられたご馳走を指差し、セイは忠告し、三人はうなづいた。


 そうして、誕生祝いの酒宴が始まった。



 サーシャが小さな箱を取り出す。
「はい、リュシア、これ。受け取ってくれる?」
 桃色のリボンでラッピングされたその箱は、リュシアの手の中にすっぽりと おさまる。リュシアはそっと包装を解き、箱を開ける。
 中には、透明な涙型の石だけで構成されたシンプルな耳飾りだった。
「せっかく16なんだし、こういうのの方がちょっと大人っぽいかなって。」
「ありがとう。嬉しい。」
 リュシアは微笑んで、耳飾りをつける。きらきらと灯りに反射する小さな石は、リュシアの可憐さを引き立てていた。
 サーシャは満足そうに頷いた。
「うん、よく似合ってる。」
「今までのサーシャからのプレゼントと比べると大人っぽいね。可愛いよ。」
「ああ、雰囲気に合うんじゃねぇ?」
 口々に褒められ、リュシアははにかむ。
「じゃあ、僕からこれ。」
 トゥールは小さな紙袋を手渡した。リュシアは目を丸くする。
「え?トゥール?」
 戸惑いながらもあけると、そこには縁が金属補強された栞が出てきた。内部には押し花がコーティングされている。
「今年は花束ってわけにいかないと思って。邪魔だからね。こんなのでごめんね?」
 リュシアは急いで首を振る。両手で大切に抱えた。
「もらえるって、思ってなかったから、今年。嬉しい。」
 ぱっと咲いた笑顔は、一瞬で周りを明るくするような笑顔だった。

 セイは残りの酒を飲みほし、ボトルからワインを並々と注ぐ。
「…トゥール、お前毎年花束贈ってたのか?…きざだな、おい。」
「セイにだけは言われたくないよ。何贈っていいか分からなかったんだよ。」
 酒をあおりながら、お互いそう言い合う。セイはリュシアの耳飾りをまじまじと見つめる。
「悪いな、俺なんにもねぇや。二人とも良く用意できたな。」
「だっていつも贈ってたもの。いつもはあと二日後だったけどね。だから前から準備してたの。」
 サーシャがあっさりとタネを明かす。
「リュシアも、毎年サーシャに贈ってた。セイ、ありがとう。気持ちだけでも嬉しい。」
「サーシャにってことは、トゥールには贈ってなかったのか?」
 セイは少し意外に思って効き返す。トゥールがフォローする。
「アリアハンって元々、誕生日は家族だけで祝うものだからね。でも確か毎年お菓子くれてたよね。」
「うん、お礼に。あのね、ママは毎年、誕生日は昼間お店閉めて、お祝いしてくれたの。でも人が知らないで入ってきて、 気が付いてお祝いしてくれたの。お金とか物とか置いて、一緒に食事してくれたの。それが毎年毎年だったの。」
 サーシャは横でほのかに頬を染めながら、リュシアの続きに言葉を足した。
「あんまり毎年、いろんな人がお祝いするものだから、ルイーダさんがどうせならリュシアのお友達も連れてきたら って言ってくれて、私とかトゥールとかを招待してくれて。プレゼントはそのお礼だったの。それでリュシアも 私の誕生日にお返しにプレゼントをくれるようになって、ここまで続いていたのよね。」
「手ぶらって言うのもなんだしね。ちょっと恥ずかしかったけどね、花束。」
 誕生日に花束を持ってくるトゥールは、リュシアにはさぞ、王子様に見えたことだろう。その証拠に、今もまぶしそうに トゥールを見つめている。
「はー、なるほどなー。」
 ぐいっとまた酒を飲みほし、セイは近くの店員を呼び、四人分酒を注文した。


 サーシャはにこやかにグラスのお酒を飲み干す。何も言わないが、これほど満面の笑みは珍しいかもしれない。
「そういえばさー。」
 大分酒が回ったらしいトゥールが、若干ふらふらになりながら口を開く。
「セイって誕生日、いつなのさー?」
「知らね。」
 これくらいの酒ではあまり酔えないセイが、ばっさりと切り捨てる。リュシアは横で相変わらず頬をバラ色に染め、ゆらゆらと 揺れている。
「知らないって?」
「ジパングは毎年全員正月に年をとるからなぁ。正月に生まれた奴でも年末に生まれた奴でも同じにな。」
「効率的と言えばそうかもね。いろんな風習があるなぁ。でも、なんだかちょっと、寂しいね…。」
「ま、それ以前にあの親が俺の誕生日を祝ってくれたかって言うと謎だがよ。」
 セイが軽くそう言って、ワインを飲み干す。トゥールが何か言おうと口を開いた時だった。
「トゥール、寂しいの?」
 リュシアがそう言って、トゥールにぎゅっと抱きついた。
「いや、誕生日って、生まれてきてくれてありがとうって意味だと思ってたから。でも風習によりけりだから…、」
「リュシアはねぇ、寂しいよ?一人で寝るのも。ずっとトゥールと、一緒だったから。」
 腕に絡み付き、そっと息を吐く。トゥールの言葉は聞いてない様子だった。セイが呆れながら尋ねる。
「…リュシア、酔ってるだろ。」
「大丈夫、気持ちいいよ?」
「そりゃ、酔ってるんだ。」
「そうなんだー、寂しいね、トゥール?トゥールは、寂しいの?」
 まったく気にせず、トゥールにべたべたと絡む。トゥールはあまり気にせずに話しかけた。
「寂しいのは僕じゃなくて、セイって話だったんだけど。誕生日まとめてお正月なんだって。」
「セイが寂しいの?」
 リュシアは首をかしげ、そして立ち上がりセイにぎゅっと抱きついた。
「セイ、寂しいの?」
 わずかに柔らかな感触が腕に当たる。胸の感触ぐらい何度も味わった事はあるが、ここまでてらいなくされると、 むしろこっちの方が照れてくる。
「まてまてまてまて、お前本気で酔ってるな?!サーシャ、助けろ!ひきとれ!」
 サーシャはひたすらテーブルを見つめ、わけのわからない言葉をぶつぶつとつぶやいている。
「…主に酵母による糖の発酵によって製作。材料は果実、穀物、乳などが主流。材料をそのまま発酵 させたものが醸造酒、それを蒸留したものが蒸留酒、酒に味、香りなどを付けたものが混成酒と呼ばれる。」
「…何言ってるのさ?サーシャ?」
 トゥールは目の前で手をひらひらさせるが、サーシャの反応はない。セイが呆れたように笑った。
「…確か前も同じだったぞ。酔ってるんだろうなぁ。」
「アルコールによる人体の影響は主に血の中の濃度の関係でおこる、脳の麻痺が一般的。その影響は気分の 高揚から始まり、反射の遅れ、運動への障害、錯乱、意識の喪失、最悪死にいたる。また気分の高揚などの効果から 依存に走る者もいる。脳への麻痺による障害により機能停止…」
 サーシャがぱたりと倒れる。そのままくうくうと眠ってしまった。
「…サーシャは寂し?」
 きゅ、とリュシアは抱きつくが、なんの反応もない。
「あ、サーシャ寝ちゃったねー。寝顔綺麗だよね。」
 からからと明るく笑うトゥールに、リュシアが抱きつく。
「サーシャ寝ちゃった、寂しい。リュシア、一人で寝るの寂しい。トゥールの声、聞きたいの。」
 甘い声音でそう言うリュシアに、トゥールは少し考えて語りだした。
「…昔々あるところに、仲の良い夫婦がおりました。その夫婦は長い間子供を求めておりましたが、ようやく 願いが神様に通じ、奥さんのお腹に子供が宿りました。ある日のこと、奥さんが窓の外を眺めていると、」
 トゥールの肩に、ずしりと重みが伝わる。気が付くと、リュシアは意識を手放していた。


 テーブルの上には、恐ろしいまでに並んだグラス。下げられているのもあるのだろうから、女二人でかなりの 量を注文したのだろう。
「…そりゃ、口当たりが良くても酔いはするけどな。しかしトゥールも、もうちょっと、別の寝かし方も あるんじゃね?。」
 ほとんどアルコールが回っていないセイが、ため息をついて立ち上がる。トゥールも二人ほどでも ないにせよ、酔っているのだろう、にこにこと笑っている。
「楽しかったんじゃない?良かったじゃない。せっかくリュシアの誕生日だしね。なんだかんだで、 二人も仲よさそうで嬉しいよ。」
「…さて、この二人を運ばないといけないわけだが…、どうする?」
 気持ちよさそうに眠っている二人を前に、トゥールは苦悶の表情を浮かべて悩む。そして。
「…サーシャお願い。今刺されたらさすがにまずそうだし。可哀想だし。」
「わかった。」
 セイは頷いてサーシャを抱えるために手を伸ばす。薔薇色に染まる頬。肩から流れる青い髪。長いまつげはその下の 閉じられた眼を、執拗なまでに印象付ける。すっと伸びた鼻は高く、その唇は宝石で作られたのかと思うほど完成されていた。 まさに眠れる森の美女だ。
「…これが飲んだくれでなかったらなぁ。」
「言っとくけど、手を出したら決闘だからね。」
 思わずトゥールを見る。珍しいセリフに、一瞬唖然とするが、すぐに笑う。
「馬鹿言え、その前に当人に殺されるだけだ。大体寝込みを襲うのは俺の趣味じゃねぇよ。」
 そうしてトゥールはリュシアを抱えあげる。セイもサーシャを抱えると、部屋に連れて行くために歩き出した。



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