そうして四人は暑さを防ぎながら再びピラミッドの前に立つ。
「リュシア、杖を持った?」
 トゥールの言葉に、リュシアはいかずちの杖とさばきの杖を取り出した。
「…使えるかわからないけど、降りたら使ってみる。」
「大丈夫?怖かったら無理はしないでね。」
 サーシャの言葉に、リュシアは小さく頷いた。
「よっし、じゃ、ちゃっちゃといくぞ。」
 セイはやたら張り切っている。…おそらく盗賊時代から狙っていた獲物なのだろう。
「それじゃ、今回は落とし穴に落ちるんだよね…。」
 トゥールは慎重に進んでいく。以前失敗した経験を生かし、足跡に目を凝らしていくと、滑ったような 足跡が前方に見える。トゥールはセイにつかまりながら、そっと足を伸ばして体重をかけると、ぱかっと穴が開いた。
「よし、じゃあ気をつけて降りよう。」
 体勢を崩さないように四人はゆっくりと降りていく。
 降りたとたん、四方からリュシアの体に重圧がかかる。リュシアはサーシャの袖をつかんだ。
「…大丈夫?」
「…平気、頑張る。」
 周りの空気ではなく、にっこりと笑いかける仲間を見て、リュシアも笑顔を返した。
「それじゃ、…二手に分かれるか?」
「そうだね…それじゃ、せっかくだから僕、サーシャと行こうかな。」
 トゥールの言葉に、サーシャは美しい顔に少ししわを寄せる。
「かまわないけど、何がせっかくなの?」
「これくらいの敵なら、サーシャ一人でも倒せるだろうし、実践を見たほうが指導がしやすいしね。」
 そう言われて、サーシャは頷いた。剣の指導をお願いしている身としては、実践をじっくり見てもらえるのはありがたい。
「じゃ、俺はリュシアと行くか。まずは持ってきたやつが使えるかどうか試してみないとな。…じゃ、俺達は南の方、トゥール達は 北の方頼む。」
「わかった。」
 そうして、二手に分かれて階段を探し始めた。

 リュシアは周りを気にしながら、荷物を探る。ここに来るまでに大量の薬草と、そして魔法の効果がある杖などを袋に詰めてきた。 薬草はともかく、杖は使えるだろうか。リュシアはいかずちの杖を握り締め緊張の面持ちで歩く。
「大丈夫か?」
「うん。」
「ま、心配するな。それよりこのあたりか?…骨がやっかいだよな。」
 床には埋め尽くさんばかりの骨が転がっている。それを掻き分けて階段を探す行為は少し気がめいりそうだった。
「悪いな、つき合わせて。」
 セイの言葉に、リュシアはふるふると首を振った。
「頑張る。探そう。」
 座り込んで骨を掻き分けはじめたリュシアの黒い髪がさらりとこぼれ、白いうなじがあらわになる。
 セイはそれからわざと目をそらし、別の場所を探り始めた。
 骨をひたすらよける。乾いた音が小さく響く。遠くで何か物音がしているのは、おそらくトゥール達が何かしているのだろう。
 盗賊時代、よくこういった単純作業をしていたが、それでもカタカタと音をたてながら、 ひたすら骨をよける作業は気がめいってきた。
 ちらりと一生懸命作業するリュシアの方を見る。その後姿は幼くて、セイはなんだか安心した。
 その視線に気がついたか、リュシアが振り向く。
「…セイ?」
 リュシアがそう言ったとき、まさに地面から湧き出したかのように、リュシアの背後にミイラ男が現れた。
「リュシア!」
 セイはリュシアの腕をひっぱり、後ろに下げる。リュシアはすかさずいかずちの杖を振りかざした。 杖は炎を巻き起こし、セイの横に広がった。その燃えたミイラ男にセイが蹴りで止めを刺した。
「ありがとう、セイ。」
「いや、悪かったな、こっちこそ、気を散らしまって。」
 リュシアはふるふると首を振る。
「…ちゃんと使えた。」
 リュシアは嬉しそうににっこりと笑った。どうやら道具なら問題なく使えるようだった。 道具とはいえ、魔法が使えたことが嬉しいようで、リュシアはここに来て初めて笑顔を見せた。
「頑張って探そう。」
「そうだな。」
 再び捜索に戻るリュシアの背中を見ながら、二度とはじめてきた時のようなことにはならないようにしようと、 心に誓った。


 ある種、ここは実践的な戦闘を訓練するのにふさわしい場所だと言えた。
 敵の動きはのろく、だが体力はあるために、そう簡単には滅びない。だからこそ考えて剣を振るう必要がある。 足場は悪いが、それが逆に外で戦うための訓練にもなる。
 サーシャは骨をないところを足場にして、低く飛ぶと、そのままマミーの脳天から剣を振り下ろした。
「うーん、剣自体がちょっと斜めに傾いてるんだと思う。そうすると切れが悪くなるから下手に体力を使ってるんじゃないかな…。」
 四回目の戦闘を見終わって、トゥールがそう口を開いた。
 トゥールの言葉に、サーシャは剣を収めながら頷く。
「僧侶時代のこんぼうの癖が抜けてないみたいね…。」
「でも今までより安心して見てられるよ。ここじゃ駄目だろうけど、あとは魔法との兼ね合いだと思うから。… 僕はどっちかというとその方が苦手なんだよね。」
 床の骨をのけながら、トゥールは笑ってそう言った。
「ごめんね、僕、人を教えるのって苦手だから。」
「そんなことないわよ。剣がまともに振るえてるのはトゥールのおかげよ。ありがとう。」
 そんなことを話しながら、トゥールが床を探っていると一箇所色が違う場所があることに気がついた。軽くかかとで 蹴ってみると、音が軽い。
「サーシャ、ちょっと手伝って。」
「見つけたの?」
「多分。」
 二人は隙間に強引に剣を入れ床をはがすと、埃舞う中、階段が現れた。


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