〜 最後の宝物 〜



 世界の南西の村、ザハン。その小さな村にある、たった一つの食堂兼酒場は、昼下がりにも 関わらずにぎわっていた。あるものは、仕事帰りの一杯。あるものは昼食代わりに。そしてその中に、 銀髪の男と、黒髪の少女が楽しそうに座っていた。
「何がお勧め?」
「そうだなー。俺としちゃ刺身を進めたいところなんだがな。ここじゃ珍しくおいてるし。でも お前苦手だろ?だったら……貝のチーズ焼きなんかどうだ。あとこっちのピラフ。」
「うん、おいしそう。」
「あと海草サラダもうまいらしいぞ。俺は食ってないけど。」
「じゃあ、それにする。おいしそう。」
 にこにこと笑う目の前の少女……年齢的には女性と言ってもおかしくない年齢だが、やはり少女という言葉が 似合うリュシアにこうして誘われたのは3回目だった。
   一度目はペルポイを案内し。二度目はラダトームを歩き。そして三度目はここ、ザハンだった。
 ペルポイやラダトームに比べ、ザハンは小さな村だ。元々漁業中心のこの村だが、ゾーマのあおりを受け、 しばらくは一部屈強な人間が漁に出る以外は海草や貝、それとたまに養殖などを行い生活していたらしい。また、 村の総力を挙げてつい先日完成した大きな神殿は、この村のシンボルとなるだろうと期待されている。
(それにしても……)
 村を歩いていて思ったが、以前に来たときとは、なにか雰囲気が違う。
 以前に来たときは、世界が平和になり、海も穏やかになったこと。そして神殿が完成したことに皆喜び、朗らかな空気が 村全体を包んでいた。
 だが、今はなにやらぎすぎすした空気だ。よそ者である自分たちに警戒していると思ったが違う。むしろ不穏な 空気は内部の……。
「セイ?」
 ぼんやりしていたセイを、リュシアは心配そうに見る。
「ああ、なんでもない。」
「ごめんね。案内。疲れてる?」
「いや、別にすることもないから気にすんな。」
「でも……、」
 リュシアが言い募ろうとしたとき、リュシアの髪から何かが滑り落ちた。床に落ちたそれを、セイは拾い上げる。
 それは、かつて自分がプレゼントした蝶の髪飾りだった。
 着けてきたと気づき、『似合う』とほめた時のリュシアの表情を思い出し、セイは少し照れながらそれを返す。
「悪い、安もんだったしな。」
「そんなことない。わたし、つけるのへたくそだから。あの、直してくるね。」
 ぱっと立ち上がり、リュシアはそのまま奥へと走っていく。
 それを見送りながら、セイはほてった顔を元に戻そうと深呼吸した。
(しかしまぁ、最近一体なんなんだろうな。)
 この世界を自分に案内させて何がしたいのか。そもそもなぜ自分なのか。妙な期待が入ってしまうが、おそらくは リュシアにそのような気がないことは目に見えていて。
 けれどああして髪飾りをつけてくれたりすると、やっぱり期待するわけで。
「よぉ、色男。」
 そんなセイの思考を中断したのは、聞き覚えのないだみ声だった。


 強面の男は、なれなれしくセイの肩を抱き、隣に座る。
「なんだよ。」
「なぁ、お前、同業者だろ?そんなつれなくすんなって。」
「何を勘違いしてるかわからねーか、俺はお前に用はないね。」
「ふぅん、さっきの女に知られたくないってか。かわいー彼女だもんな。」
 ニヤニヤと笑う男に、なにやら勘違いしているらしいとセイは冷めた目で男を見る。
「だから勘違いだ。ただの俺は旅の武闘家だ。何なら叩きのめしてやろうか?」
「ああ、彼女のために引退したってやつか?泣かせるねぇ。でもま、安心しろって。これは 正義のため、世間のための仕事だからな。しかも飛び切りの儲け話だ。」
「あんな……。お前は同業者なんだろ?なんでそんなおいしい話を、通りすがりの俺に教えるよ。そんな話、俺なら 誰にも言わずにやるけどな。」
 セイのするどい指摘に、男はぐっとつまる。
「い、いやぁ、その……人手がいるんだよ。だから募ってるってわけだ。な?報酬は払うから、話を聞いてくれよ。」
「お断り……いや、いい、話を聞く。早くしてくれな。」
 きっぱりと断ろうとしたセイは、ある事に気がつき、頭を抱えながらも方向を転換した。
「おお、ありがてぇ。」
 男は満面の笑みで、身を乗り出した。


 それは暗黒の時代。神が住まうという礎の大陸、アレフガルドが封印され、この世界全体に危機が迫っていた。
 安定しない天候。荒れる海。揺れる大地。凶暴化するモンスターに人々は疲弊していた。
 それでも強き人々があふれるデルの町、資源豊富なペルポイ、魔力あふれるムーンエクサ、そして信仰でつながるベラヌールは それによってなんとか日々を過ごしていた。
 そしてここザハンの村は、そのどれもない。小さな島の中、畑に適した土壌を持つ土地はそれほど多くなく、 生業としていた漁業は安定した収穫を得るどころか海に出ることすらも危うい。
 生きることすらままならないそんな時、一人の神官がこの島へとやってきた。
 ここの大きな神殿を建てるのだと土地を買い、そして村人のほとんどを雇い、大きな大きな神殿を建設した。
「観光案内なら間に合ってるが。」
「まぁそう急くなって。でだ。あの神殿大きすぎるとおもわねーか?ベラヌールと同じくらいじゃねーか。こんな小さな 村に。」
「確かにそうだが、……まさか根拠はそれだけか?」
「それだけじゃねーんだ。中を作ったやつらが言うには、バリア床や頑丈な鍵を備えた上等な扉までしつらえてあるって言う らしい。村のやつらも全員言ってんだ。あの神殿は宝を守るために作られたんだってな。」
 セイは息を吐いた。
「なぁにが飛び切りの儲け話だ。ただの噂じゃねーか。」
「待てって。まだ続きがあるんだ。村人の一人が、その神官に聞いたんだよ。この神殿には宝があると聞いた見せてほしいってな。」
「へー、で、どんなんだったんだ?」
「この神殿に宝なんてありません、と言ったんだそうだ。」
「じゃあねぇんじゃねぇのかよ。」
 セイはほとんど男を追い払う気持ちで、そういい捨てる。だが男はめげずにセイに身を乗り出す。
「いや、その男がちょうど去り際、神官は小さな声で『世界で唯一つの世界を動かす宝』と言ったのを確かに聞いたって 情報が入ってるんだ。」
「世界を動かす宝?」
 セイは顔をしかめる。セイはトゥールについて世界を回っていたことも含め、超一流のトレジャーハンター である。手にした宝には、姿を変える杖だとか、どんな扉でも開けてしまう鍵だとか、そんな神の道具まで 手にしてきたが、『世界を動かす』とは言えはしないだろう。
「そりゃ、あんまりにも大仰すぎねぇか?なんかのペテンじゃねーのか。」
 セイの言葉に、男は笑う。
「ペテンならむしろ仰々しく皆に見せるだろうぜ。なんで隠す必要がある。」
「まぁ、そりゃ確かに一理あるな。」
「だが、その言葉で今、村人は真っ二つに割れてるらしいな。その宝を守るべきだって言うのと、そんな宝があるのに ゾーマの時も隠し続けるようなやつに置いておくのはどうかっていうのとな。村人がギスギスしてるのも 感じただろ?」
「ああ。」
 なるほど、あれは内部分離の空気だったのかとセイは思う。そしてこの狭い村で、内部分離は致命的だ。
「このままじゃ、暴動が起きちまう。じゃあ一番いいのは無関係なやつがこの宝の謎を明かしてやるのが一番だってことだ。」
「で、そのまま持っていくつもりかよ。」
「ま、それがこの村人に扱いきれるもんなら、売ってやってもいいかもな。なにせそんな宝、世界で一つしか ねぇだろうし。」
 セイは深いため息をつき、足を組んで頬杖をつく。
「で、この計画になんだって人手がいるんだ。おめー一人でやれよ。」
「元々神殿は村人が作ったやつだからな。協力者のおかげで構造は大体わかってんだが……その中の巨大なバリア床が厄介なんだよな。 それを攻略すんのに人手がいるんだよ。」
 セイはしばらく考え込む。そして。
「……わかった。連れをなんとかするから時間をくれ。どこに行けばいい?正式な報酬の話もしたい。」
 そうしてセイは、場所と結構予定日時を聞く。男が上機嫌に去っていくのを見計らい、あらぬ空に向かって軽く こぶしをぶつけた。
「……痛い。」
「なーにしてんだ、こんなところで。」
「……お話、なんだか複雑そうだったから。いないほうがいいのかなあって。」
 姿を消したリュシアの声に、セイは苦笑しながら答えた。
「いいからどっか影で魔法を解いてから戻って来い。」


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