セイの手から、お菓子が零れ落ちる。 「ちょっとまて、どういうことだ?」 「実はさっき、城の人が来て……。」 昼寝が終わり、起きだした皆で、干していた洗濯物を取り込んでいたときだった。 「ママー、見てみて、すごいよ!」 ここは町のはずれだ。人通りはあるが、馬なんか通ることはめったにない。 だが、こちらに向かって大きな、それも豪奢な馬車が三台も走ってきて、そして止まった。 「ほんとだー。」 「かっこいー!!」 「綺麗!!」 そう騒ぎ立てる子供たちを後ろに庇いながら、リュシアは馬車から出てくる人間を待ち構えた。 出てきたのは、城の兵士たちだった。そして三つの馬車の中でとりわけ豪奢な馬車からは かすかに見覚えのある男が出てきた。 「お迎えにあがりました、リュシアさん。」 人のよさそうな顔で、にこやかに笑うその青年は、リュシアの前に立つ。 「……どちら様でしょう?」 わざとリュシアはそう言った。相手が誰かは予想できていたが、既知の人物だと知られるのは好ましくない。 「私は、この国の王子エルネスト。父の命令により、貴方を本日行われる祝宴にご招待するために 貴女をこうして迎えにあがりました。」 子供たちが騒ぎ始める。その騒ぎを聞きつけて、モーリーとニーナも顔を出した。 「……それは、何度もお断りしたはずです。私はこの子供たちの母親で、そのような晴れがましい場所に 招待されるような身分のものではありませんと。」 「おっしゃられることは分かります。ですが、貴女のお名前は、各国に広まってしまいました。貴女が お出ましくださらないと、父の顔に泥が塗られる、と父はお考えです。どうか 一曲、本日在位35周年を迎える父のために歌っていただけませんでしょうか?」 「ですから、私はそのような場所で歌を歌うような者ではありません。……お引き取りください。」 リュシアのかたくなな態度に、王子は困ったように言う。 「再三の申し出を断られ、父は大変怒っています。このままかたくなな態度を続けられれば、この孤児院の存続すら 危ぶまれることになりかねません。……貴女はこの孤児院を始めるに当たり、国の方へ許可などを取られませんでした。」 王子の言葉に、リュシアの顔色が変わる。 「……許可がいるとは存じませんでしたから。」 「許可がいると、明記した規則はないのですけれど……いらないとも明記していない、ということなのですよ。」 王子はそう言って苦笑する。 「『貴女』にこのようなことを言うなど、おこがましいとは分かっているのですが、貴女もこの孤児院の方々もこの 国の民であり、王の下にいるもの。その王に対し反逆するというのならば、この国に滞在することを却下せざるを得ない 事態にもなりかねない。王はそこまでお考えです。……ですから、いらしてはいただけないでしょうか。…… 『貴女の友』の名にかけて悪いようにはいたしません。」 その言葉に、リュシアは臍をかむ。どうやら自分の正体は気づかれているようだった。 「……ですけれど……。」 「それとこちらにお住まいの子供たちも、どうぞ一緒に祝宴をお楽しみください。 別室ではありますけれど、料理などをご用意しておりますから。」 「……子供たちを巻き込むとおっしゃいますか?」 「そうではありません。ここに住む子供たちにもいっしょに、父の祝いをして欲しいといっているだけです。それに 子供を放置しては、貴女は絶対に来てくださらないでしょう?」 「……わかりました。」 下手に抵抗して、子供たちに乱暴されることだけは避けたかった。 そうしてここに住んでいる子供たちと、そしてその世話のためにニーナを連れて、馬車に乗ることに したのだった。 「この子供たちは、そのうち親が迎えに来るからね。私が預かったんだよ。」 モーリーがそう言うと、子供たちはざわめく。 「リュシアママ、帰ってこなかったらどうしよう……。」 「そんなことないよ、絶対帰ってくるよ!!」 「でも王子様に連れてかれたんだろ、お姫様になるんじゃないの?」 不安そうにしている子、むしろうらやましそうにしている子、泣き出しそうな子がそれぞれ城の方を 見ている。 セイは落としたお菓子を一つ一つ拾い上げて、子供たちに渡す。 「心配すんなって。俺が見てきてやるから。」 「だ、大丈夫?」 「ああ、実は王子とは顔見知りなんだ。だから大丈夫だ。お前らもリュシアに心配かけないように いい子にこれ食ってろよ?」 そう言って、手近な子供たちの頭を撫でると、セイは城へと走り出した。 城の構造は、完全に把握している。セイは賓客などをもてなすための役人などにまぎれながら、城の中を捜索していく。 子供たちのいる場所はすぐにわかった。城の別館で子育て経験のある召使に世話をさせているらしい。 赤子をあやしている召使もいた。 窓から覗くと、ご馳走やお菓子が並べられ、様々なおもちゃが置かれていた。子供たちはご馳走を食べたりして 過ごしてはいたが、どこか不安そうだった。一緒に来たニーナの側をべったり離れない子供もいる。 セイはその窓から入り込む。 「何者?!」 メイドの声は、子供たちの声にかき消された。 「セイにーちゃん!!」 「リュシアママ、どこ?!」 「大丈夫なの?どうしたの?」 殺到する子供たちの頭を、一人一人撫でてやる。 「ん、大丈夫だ、心配するな。ここの偉い人が、そいつが リュシアに話があるらしい。でもお前たちの世話があるから離れられなかった だろ?だからお前たちもこうして招待して、今頃ゆっくり色々話しているみたいだな。」 「ママ、大丈夫かなぁ……。」 「つかまったり、酷い目に遭わされたりしてないよね?」 不安そうにいう子供に、セイは余裕の笑みを浮かべる。 「大丈夫だ。リュシアは強いんだぞ。それこそロトの勇者様でも連れてこなけりゃリュシアがどうこうなるわけねぇよ。」 「本当に?絶対?!」 「ああ、絶対だ。一応気になるから、ちょっと見てくるからな。だからお前たちは せっかくのご飯をちゃんと食べてろよ?一緒にここに迎えに来てやるから。残したら怒られるぞ?」 茶化して言うと、子供たちは笑顔でうなずく。 「お願いします。」 「もし入れ違いでリュシアがこっちに来たら俺のことはほっといてくれ。」 ニーナの言葉に手を軽くひらひらと振ることで応えると、セイは再び窓から外に躍り出た。 セイは城の中心部へと戻る。まずパーティー会場となっている大広間を裏の方から覗いてみるが、リュシアの姿は見えない。 ただ、これまでの情報で、歌姫が歌を披露することになっている、という話は聞いていた。 裏手の方へ回る。周りの声に聞き耳を立てながら、奥へと進んでいった。 最初にリュシアにあてがわれたらしき部屋は、もぬけの殻だった。使用された形跡はあったので、ここに いたのは間違いないだろう。 だが、いまだリュシアが歌ったという話はきかないし、歌声もしなかった。 (どういうことだ?歌わせるために連れてきたんじゃないのか?) こうなると心当たりは一つ。いなければならない王子が、パーティー会場から消えていることだ。セイは 外側に回り、外壁から王子の部屋を目指した。 |
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