〜 星の楽園 〜



「許さん」
 その言葉に、そこにいたものの全てが耳を失った。
 アリアハンの教会とつながっている、神父の自宅。そこに集ったのは早々たるメンバーだった。
 すでに50歳を超えてもなお、若々しい神父コラードとその妻ルイーダ。
 そして神父の娘である、今なお、いやより美しくなったサーシャ。その夫であり、世界を救った勇者のトゥール。
 そして神父の養女であり、勇者の仲間として戦ったリュシアと、勇者の仲間のセイ。
 トゥールとサーシャの子供たちをあやしながら、ルイーダは、先ほどの発言をした自らの夫を見る。
「あなた……?」
「どこの馬の骨ともわからんやからに、娘はやれん」
「ちょっと待ってください!」
 トゥールが急いで口を挟む。ただの見物に回る予定だったのだが、大幅に予定が変わった。
「セイは立派な人物です。セイの素性も僕は良く知っています。人格もこの僕が保障します。 それじゃだめですか?」
「そうよ、父さん!セイは他の国の出身だけれど、それでリュシアとの結婚を反対するなんて、それこそルビス様は お許しにならないわよ」

 二人が想いを交わして2年。27歳と24歳になった二人はようやく結婚の意志を固め、その報告にアリアハンまで やってきたのだ。
 そしてその話を切り出したとたん、コラードは厳しい表情で否を唱えたのだった。
「サーシャ。そうじゃない。ああ、馬の骨、というのは言葉のあやだ。……ただね、私は知っているよ。 彼がアリアハンにいる間の行動をね。あっちこっちの女の子に見境なしに声をかけて、口説いていたそうじゃないか。 ルイーダも口説かれたことがあるというし、サーシャもあるのだろう?」
 トゥールとサーシャが苦い顔をした。それを言われるとフォローができない。なぜならそれは事実だからだ。
 だが、セイはひょうひょうと言う。
「別に口説いていたわけじゃないさ。綺麗な女はほめるべきだ、困った女は助けるべきだというのが俺の信条でね」
「その信条をもって、今リュシアの隣にいるわけではないと誓えるか?」
「誓えるさ。誓えというならなんにでもな。俺はいろんな女を接してきたが、恋人になったのはリュシアだけだ」
 言い争っている二人に、リュシアはおろおろしている。正直に言えば、リュシアにとって、コラードが父親だという 感覚は薄い。あくまでもサーシャの父親であり、ルイーダの夫であり、その子供の父だ。そのコラードが反対を してくるなど、想像していなかったのだ。
「では君のその信条がリュシアを苦しめることは?」
「さてな?どうだ?リュシア?」
 振られて、リュシアは少し考えて口を開く。
「嫌ならちゃんと言うから。セイ分かってくれると思う。それに結婚したら、誤解されるようなこと、しないと思う。だって それで女の子が誤解したら、その子が可愛そうだってセイ、わかってるから」
 妙な言葉だった。だが、確かにその言葉に愛情と信頼を感じて、コラードは奥歯を噛んだ。
「まぁ、リュシアだって女だからな。それを苦しめることは俺の信条にも反するし、リュシアは俺にとって 一番必要で、大事な人間だ。それを粗末になんかしない」
「……リュシアちゃんが君を信用しているのはわかった。トゥールたちもだ。確かに君は世界を救ったのだろうが…… やはり私にはそれが信用できない」
「父さん……どうして?」
「彼は、全てが希薄に見える。いつかふらっとリュシアちゃんの前から姿を消してリュシアちゃんを悲しませる。 そんな気がするんだ。どうだ?否定できるか?」
 その言葉に、セイは困ったように頭を掻いた。
「正直に言えば、別に信用してもらわなくても俺は困らねぇんだよな。リュシアにとって、そっちは父親って存在でも ねぇだろうし、そっちの許可がなくても結婚する気だしよ。それでもまぁ、リュシアはできれば祝福して欲しいだろうからな。 俺はどうすればいいんだ?」
 コラードの言うとおり、希薄な、もしくは飄々とした態度でそう言う。コラードはため息をついてから上着を脱いだ。
「……よし、表に出なさい」
「父さん?!」
「こう言った時の定石だろう。私もステラに結婚を申し込む時には、オルテガさんと戦ったものだ。勝てはしなかったがな」
「……まぁ、いいけどよ」
 セイは少し困ったように言って立ち上がる。トゥールたちが顔を青くした。
「セイ、お願いだから手加減してね」
「相手はサーシャのお父さんなんだからね」
「セイ、……大丈夫?」
 心配そうに見上げるリュシアの頭に手を置くと、セイは笑った。
「ま、気のすむようにやるしかねぇだろ。大丈夫だよ」


 教会の外の広場で、二人は向かい合った。
「さぁ、お前がリュシアを奪っていきたいというのなら、この父たる私を倒してから行け!!」
「……あっさりと結婚を許された実の娘の立場ってどうなのかしら……?」
 コラードの言葉に、サーシャが額を押さえると、ルイーダがサーシャの子供をサーシャに返しながら笑った。
「あの人、もしかしてああやってみたかっただけなのかもしれないわね。トゥール君じゃ反対できなかったから 娘の親として言ってみたかったんでしょう」
「娘ならシェリーがいるでしょうに……」
「さすがにシェリーの頃には、あの人も年なのじゃないかしら?まったくもうおじいちゃんだっていうのに子供ねぇ」
 ルイーダはのほほん、と笑った。これが年の甲かとサーシャはひそかに感心した。
「コラードさん無理だよ……セイは腕っ節なら僕らの中でも一番なんだから」
「手加減できると思うけど……子供たちにも訓練、してくれてるし」
 トゥールにそうは言っても、リュシアはやはり不安そうだった。
 そうして、コラードの声を聞いてか、段々と人が集まってきた。セイはにやりと笑う。
「折角そっちから売ってきた喧嘩だ。ちょうど観客も集まってきたことだし、町のやつらの恨みも乗せて買わせてもらうぜ」
「待て、どういうことだ?私は町の人たちの恨みをかった覚えなどないぞ?」
 神への道を志して40年。真面目に生きてきた自信はある。誰かに恨まれるようなことはしていないと、神に誓って言える。
 集まってきた町の人たちも、トゥールたちもセイに対して意外そうな目を向けている。
 だが、セイは自信満々に答えた。
「俺はコラードさん、あんたへの恨みつらみ嘆きを酒場で何度も聞かされたぜ?自覚がないってところがより 恨まれてるんだろうなぁ」
「教えてくれないか、セイ君。何故私は恨まれている?誰にだ?」
「この国の男、特に未婚男性だよ。女神のように美しいステラを嫁にしたうえに、独身男性の高嶺の花で 最後の希望だったルイーダと再婚しやがって、あげくサーシャとリュシアまでふさわしい人に渡さないって独占してるってな。 あいつはこの国の美少女を全部抱え込む気かって散々泣かれたぜ?」
 セイの茶化した言葉に、コラードは二の句が告げなかった。だが、周りの野次馬から声が聞こえた。
「いいぞ、セイ!良く言った!!」
「良く言ってくれた!!」
「やれ、やっちまえーー!!」
「聖職者の分際で、いい女ばっかり手に入れやがってーーーーーーーー!!」
「ルイーダさーん、好きだ!!」
「サーシャ、今でも愛してるーーーーーーー!!」
「リュシアちゃん、可愛いぞー!!」
 多分に酔っ払ったような声が含まれていたのは気のせいではあるまい。セイはその声のあたりに手を振った。


「……どうしよう、否定する要素が何もないよ」
 トゥールが心配そうにつぶやく。
「俺はあんたに恨みはないが、そいつらの怒りをこのこぶしに乗せさせてもらうぜ」
「……なんの、こちらには信ずる正しき神の力が宿っている、覚悟しろ!!」
 コラードはそう言うと、強く踏み込んで、セイに襲い掛かった。
 平和な国でめったにないことで、周りの皆はお祭り騒ぎ。トゥールたちは心配そうに見ていたが、 当然のことながら手馴れているセイは、それなりに手加減しながらもひらりひらりと動いている。
 考えてみれば、セイは今王子の特別親衛隊長という名の便利屋として、時々城に顔を出した際に、兵士に 訓練をつけることもあった。慣れているというべきだろう。
 セイはコラードの攻撃を避けながら、軽く何度か攻撃を当てた。こぶしではなく手のひらで打っているため、 コラードはよろけるだけで持ちこたえた。
「確かに、私は贅沢者かもしれないが……!神は人を区別なく愛せとおっしゃっている!ルイーダもステラも、 顔ではなくその心に惹かれたのだ、誰に恥じることなどなく、誰にも非難はできない!」
「なら、俺とリュシアが結婚しようが、文句を言われる筋合いはないはずだろ?」
 その言葉に、コラードはぐっと詰まる。セイが、その隙にコラードの懐に入り込んだ。
「とはいえ、リュシアにそう言ってやれるのはあんただけだからな。一発くらいは食らってやるぜ。」
 コラードではなく、もう既亡くなってしまった本当の父親、エニアスのために。
「兄代わりだったトゥールに殴られるよりはましだろうからな」
 そう言って苦笑したセイが作った隙を狙って、コラードは腹にこぶしを叩き込んだ。


 決着がついて、人々が思い思いに立ち去っていく中、リュシアはセイの下へ駆け寄った。
「セイ?!平気!?」
「ああ」
 コラードに吹っ飛ばされたように見えが、セイは軽くひょいっと立ち上がってみせる。 実際のところ、モンスターに比べれば撫でられるようなものだ。
「ほんとに、平気?」
「大丈夫だって。……なわけで、もらっていくぜ」
 セイはコラードたちにそう言って、リュシアの肩を抱いた。
「ええ……リュシアは私の大切な大切な愛娘なの。だから、私がリュシアに幸せにしてもらった以上に、 リュシアを幸せにしてあげてくださいね」
 ルイーダはそう言って笑う。その言葉に、リュシアは泣きながら、ルイーダに抱きついた。
「ママ!!」
「まぁ、リュシア、赤ちゃんじゃないんだから」
「わたしも、ママにいっぱいいっぱい幸せにしてもらった。だから、皆に幸せを分けたいって思った。だからね、 わたしは、ママが作ってくれた。愛してる、ママ……」
「ええ、わかっているわ、リュシア」
 リュシアは涙をぬぐい、セイの元へと向かう。
「……ありがと、セイ。末永く、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな」
 セイとリュシアは、にっこりと微笑みあった。

 ぶっちゃけ前半が書きたかった話。この因縁は前半も前半、コラードがセイをひっくり返した時から考えておりました。 そんなシーンがあったんですよ……
 多分この後、二人はテドンに言って挨拶すると思われます。そう言うとこ、セイは律儀。 単にリュシアの感傷にあわせてるだけかも。
 ジパングには二人の子供ができてから、こっそりリュシアだけが子供を連れて挨拶に行くような気もします。 セイは一生足を踏み入れないだろうな。
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