バラを象った灯りが、いくつも室内に並べられる。そしてテーブルには数々のご馳走とそしてお酒。 「5、4、3、2、1」 「「「「あけましておめでとう!!」」」」 時計の針が真上を指すと共に四人はそういい、そして手に持ったグラスをそっと相手のグラスにぶつけ、 澄んだ音を立てさせた。 「こっちでも変わらないんだな、暦は。」 「そうだね。でもこっちだとあんまり新年のお祝いってしてないみたいだね。」 「そうね。聖誕祭の方が主流みたいね。お祭り騒ぎで少し驚いたわ。」 アリアハンでは聖誕祭は教会に集まって祈りを捧げる日であって、こちらのようにお祭りになることはなかった。 「でも、うちは、聖誕祭でもいっぱいお酒飲んでる人いたから。それに、なんだかこっちの聖誕祭、色々 綺麗だった。」 つい先日に行われた聖誕祭を思い出し、リュシアは少しうっとりした。それを微笑みながら見て、セイは酒をあおった。 「まぁ、なんにつけてもおいしく飲めるってのはいいもんだ。」 「まぁたしかに楽しいならいいよね。あ、サーシャとリュシアは気をつけて。」 トゥールも杯を傾けながら、二人に注意を促す。 「そうね。……でも体質変わってたりしないかしら。聖痕も取れたし。」 「そういうもの?」 こきゅ、と小さく首をかしげるリュシアに、サーシャがあせって手を振る。 「わからないけれど。可能性はあるんじゃないかと思って。でも新年早々醜態をさらすのは嫌ね。ちゃんと ひかえるわ。」 「そうしてくれると助かるよ。」 トゥールは小さく苦笑した。 そうして四人はご馳走を食べ、お酒やジュースを飲み、これまでの旅の思い出について語り合った。そして。 「そろそろかしら。ちょっと待っててね。」 突然サーシャが立ち上がった。リュシアも頷いて二人で部屋を出て行く。 「ん?なんだ?」 「さあ、なんだろうね。」 不思議そうに言うセイの横で、トゥールはなにやら意味ありげにそう言って笑う。 「なんか知ってるのか?」 「セイは知らないの?」 「は?」 そんな問答を繰り返しているうちに、サーシャたちが帰ってきた。サーシャの両手には、美しくデコレーションされた ケーキがあった。 「うわ、結構でかいな。」 甘いものがそれほど好きではないセイが、すこし顔をしかめる。 「好きじゃないのは知ってるけど、でもこういうのってやっぱり大きい方が気分が出るんだもの。」 「そうだね。せーの!」 三人は声を合わせる。 「「「誕生日おめでとう!!!」」」 ケーキを前にそう言われ、セイはぽかんと口を開け、それからきょろきょろと周りを見回す。 「……誰か?」 今度は三人がぽかんとなる。 「へ?」 「あれ?」 「……違った?前、聞いたの。だからわたしが、皆に言ったの。お正月誕生日って。」 リュシアの言葉にセイが悩む。 「いや、俺そんなこと言ったか?いつだ?大体俺誕生日って……あ。」 ジパングでは、正月にいっせいに皆が年を取る。そのことをたしかリュシアの誕生日に言った気がした。 あの時リュシアは酔っていたので、間違えて覚えたのだろう。 「あーあーあーあーあーあー、ああ、そうだな。だいたい違ってねぇよ。……誕生日なんて祝われるの、初めてだ。 ありがとうな。」 セイはそう言って珍しく、本当に珍しく照れた表情をして笑った。 「……なにしてるの?」 夜明け前。セイを探して船内をうろうろしていたリュシアだが、ようやく見張りの台にセイがいるのを見つけ、 ここまで登ってきたのだ。 「ああ、リュシアか。もう酒は抜けたか?」 結局あの後しばらくして、お酒でふらふらになってしまい、サーシャとリュシアはほとんど寝ながら部屋に戻ったのだ。 「うん、大丈夫。何してるの?」 「酒覚ましだよ。一応見張りもかねてるが。お前は?」 その言葉に、リュシアは隣に座りながら少し口をつぐんだ。 「……誕生日じゃ、なかった?」 「ん?」 「言ったとき、迷ってたから。」 体を小さくしてそういうリュシアの頭をぽんぽんと軽く叩き、セイは笑う。 「いや、よく覚えてたなと思っただけだ。あれトゥールに行った奴だろ。お前あの時酔ってたしな。」 「……誕生日は、大事。」 リュシアは強く言う。 「わたしも本当の誕生日じゃなかったけど、でもママにおめでとうって、生まれてくれてありがとうって言ってもらえて うれしかった。認めてもらうって、凄いことだから。だから、大事。」 そう言って、そっと紙袋を押し付けるように渡してきた。 「あのね、プレゼント。」 「開けるぞ?」 中から出てきたのは、柄に緑色の宝玉が施された、小さなナイフだった。おそらく戦闘用ではなく、 日常用であろう。小さいけれどしっかりした作りで、使いやすそうだった。 「あの、あのね。男の人になにあげていいか分からなくて、初めてだったから。」 「……トゥールには、とお菓子だったか?」 「誕生日に何かあげるってなかったから。でも、セイは甘いもの嫌いだから。何がいいか分からなくて、ごめんね」 「……いや、別に嫌いではないぞ?それほど好きでもないが。」 ナイフを一通りもてあそび、そして鞘に収める。 「ありがとうな。わざわざ選んでくれたんだろ?俺のために。」 誕生日を覚えてくれたことも、こうしてわざわざプレゼントをくれたことも、それが男で初めてだということも たまらなく嬉しい。 セイの言葉に顔を赤くしたリュシアが、にっこりと微笑んだ。 「……蝶の髪飾り、もらったの、嬉しかったから、贈りたかったの。 ずっと祝ってなかったから、ちゃんとお祝いしたかったの。ありがとう。」 そんなことはないのだ。本当はとっくに祝ってもらっているのだ。 セイは、伝わらない想いをこめて言葉を贈る。 「祝ってくれて、嬉しかったよ。ありがとう。今年もよろしくな。」 そう、あの時。ジパングで。 ”セイは、生まれてきて良かったの。” そう生まれて初めて『祝って』くれたことは、今までの人生の中で一番嬉しかったことなのだから。 お正月SSです。 Birthdayの対になる作品です。なんとなくセイは夏生まれのような気はしているのですが。公式的には 誕生日はお正月なのです。 時期はいつかは気にしてはいけません。一応アレフガルドについてから、ということになってますが。 セイとリュシアの歩みはカメより遅いです。どうか気長にお待ちくださいませ。 |
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