店を出て、しばらく歩いていくと、ちょうどオアシスを背にした広場の中央に、ひときわ大きな天幕と、その入り口付近に ずらりと小さな天幕……ともいえないだろう、5人ほどが入れる大きなパラソルがいくつも並んでいた。 パラソルの周りには布が張ってあり、それで砂などを防げるようになっている。
「いらっしゃいいらっしゃい、今なら10Gだよ!!」
「あの……これ、なんですか?」
 パラソルの下には、じゅうたんが引いてあり、そこで人々がくつろいでる。休憩所だろうか。
「ああ、これはダーラの順番待ちさ!ダーラの占いは夜からだからね。君達もダーラの占いかい?これがないと 辛いよ。今なら10G!どうだい?」
 今はまだ昼前。それくらいの時間から並ぶほど凄いのだろうか。結局トゥールは頼むことにした。男はてきぱきと じゅうたんを敷き、パラソルを差す。
「占うのか?当たるのか?」
 暑さにやられそうなセイが真っ先にパラソルに入るが、意外と快適で、セイは帽子を脱いだ。
「馬鹿にしたものじゃないと思うんだよね。ちょっと違うけど、リムルダールの予言も、ルザミの予言も当たったしさ。 宿屋も天幕っぽいし、それならここで休憩しながらゆっくりと町を見て回ってもいいと思ってさ。」
 トゥールの言葉に、リュシアが口を開く。
「……リムルダールで見てもらえばよかった?」
 ぽつりと落とした言葉に、トゥールは一瞬びくっとするが、サーシャは首を振る。
「それは無理じゃないかしら。予言はあくまで神様の言葉を受け取るだけだから。神様が言葉を授けてくださらなければ 意味がないわ。占いならもうちょっと能動的だと思うわ。」
「ま、なんでも試しだよな。意外と風が通って気持ちいいしな。オアシスのおかげか?」
 このオアシスはかなり大きい。イシスと同じくらいだろうか。向こう岸から吹く風は水で十分に冷やされ、心地よさを 運んでくれる。
「ゆっくりのんびり。」
「そうだよね。……もうあせることはないんだし、のんびり旅するのも悪くないかなって思うよ。」
 四人はしばらく、爽やかな風を楽しんだ。


「にゃー、にゃー……。」
 そんな声に顔を向けると、リュシアの体に黒猫が体を摺り寄せていた。
「……可愛い……。」
 リュシアが喉や耳を撫でると、黒猫は嬉しそうに喉を鳴らす。そのうち膝に座って手で、リュシアの体をもみ始めた。
 リュシアも嬉しそうに黒猫の体を撫でる。黒猫はすっかりリラックスしているようだった。
「どっからきたんだ?」
「誰かが飼ってるんじゃない?イシスにも猫、多かった気がするよ。」
 セイとトゥールは顔を見合わせ、サーシャも嬉しそうにそれを眺めながら手をそっと伸ばす。
「可愛いわね。凄く懐いてる。リュシアは昔から動物によく好かれるものね。」
 サーシャが撫でようとすると、突然黒猫が毛を逆立ててうなりだした。サーシャはあわてて手を引っ込める。
「あ、ごめんなさい。……怒らせちゃった。」
 サーシャは触らず手を引っ込めたが、黒猫はそのままリュシアの膝から飛び降り、天幕を出た。
「ご、ごめんなさい。」
「サーシャ悪くない。大丈夫。」
 リュシアがそう言って黒猫に手を振ろうとすると、黒猫は立ち止まり、後ろを振り向いて「にゃー」と鳴く。 まるで呼んでいるように。
「……猫さん、呼んでる?」
 リュシアがそう言うと、猫はもう一度「にゃー」と鳴く。リュシアは立ち上がった。
「……せっかくだから行ってくる。飼い主さんのところかもしれないし。町も見てくる。」
「いってらっしゃい、リュシア。黒猫さんごめんなさい。」
「気をつけて。僕はここにいるから、何かあったら帰って来て。」
「ちゃんと水分取れよ。脱水症状になるからな。」
 三人に見送られ、リュシアはそのまま黒猫を追いかけた。


 黒猫は、ゆっくりと市場を歩いている。リュシアもその横について歩いた。
「黒猫さん、どこいくの?」
 リュシアは問いかけたが、黒猫は答えない。リュシアはこれも醍醐味だろうと、楽しむことにした。 帰り道が分からなくなっても、人に聞けば分かるだろう。
 時々風を受けながら、ゆったりと歩く。それはなんとも落ち着く時間だった。
 そんな気持ちでのんびりと黒猫の後をつけていると、今までゆっくりだった黒猫が突然走り出した。
「ま、待って!!」
 考えてみれば、別に追いかけなくてもいいのだが、とっさに後をつける。大きな 風を受けながらいくつかの角を曲がり、人をすり抜け走っていくと、 その猫は、栗色の髪のリュシアと同じ年ほどの男性に飛びついた。
「わ、わわ。どうしたのー?」
 余り驚いたようには聞こえない、少しのんびりとした口調でその男性は猫を抱き上げる。猫は抱かれるままに男性に すりついた。
 リュシアは一目その姿を見て、驚きのあまり足を止める。そして、ゆっくりと近づく。服装も髪の色も 違うが、その顔を見間違えるはずがない。
「……トゥール??」


 ここにいるはずがない。そもそも来た方向はトゥールがいるはずの方向とは逆方向だ。にも関わらず、 その男性はトゥールの顔をしている。それでも何故服と髪の色をを変える必要があるのか。
「わー、トゥール君、って言うのかなぁ、君は?貴方の猫ですかー?可愛いですねー。」
 男性はにっこりと笑って、黒猫とリュシアに話しかける。その声も同じだが、話し方はどこか間延びしていて、トゥールらしくない 話し方だった。
 リュシアは思わず首を振る。
「あ、違うんだー。じゃあ、トゥール君はどこの猫さんですかー?」
「えっと、違うの。あの、えっと……トゥールじゃ、ないの?」
 リュシアの言葉に、男性はきょとん、と目を丸くする。
「えっとー、僕のこと、だよねー?僕はルーンって言います。貴方とは初めて会うと思うよー?ここの市場に来るのも 初めてだしー?」
「あ、えっと、リュシア、です。ごめんなさい、貴方が、とっても似てたの。わたしの一緒にいる友達に。」
「えー、僕そっくりなのー?わー、面白いー。見てみたいなー。」
 ルーンは嬉しそうに笑って言う。猫がみゃおん、と鳴いた。
「あ、ごめんねー。この子はなんて名前なのかなぁ?」
「知らないの。わたしも、旅人だから。懐いてきて、一緒にお散歩してたの。」
「わー、それもいいねー。黒猫君はここの子かなぁ?僕も旅人だから色々案内して欲しいなー。」
 ルーンがそう言ったときだった。突然爆音がリュシアの後ろから響き、猫は驚いてルーンから飛び降りた。そして 爆音の方向へと走り出す。
 リュシアもそれを追いかけて走り出す。あれは、聞きなれただった。おそらく……イオナズン。
 リュシアたちの反対側から、人たちが次々と逃げ出してきた。反対方向に駆けて行くリュシアを見て、 逃げながら男が声をかけてきた。
「あんたら危ないぜ!なんでもモンスターが出たってよ!!」
「そうだよー、危ないよー。猫さんは僕が連れ戻すから、逃げてた方がいいよー。」
 横を見ると、ルーンが横について走っていた。先ほどのにこやかな笑みは消え、心配そうな 顔をしている。間延びした話し方は相変わらずだが。
「あっちに仲間がいる。だから行かなきゃ。」
「でも、危ないよー。」
「大丈夫。……わたしも戦えるから。」
 やがて二人は元の広場へたどり着く。すでに広場に人はなく、占い師のいる大きな天幕の天井は破れていた。 黒猫はそこへと入っていく。
 二人もその後を追って天幕へと滑り込んだ。

前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送