〜 終わらない旅の終わりに 〜





 確かに見覚えのある城。だが、初めてきたこの城の玉座に座る初めて会う王は、全てを知っているかのようにトゥールたちに 語る。
「よくぞ来た!わしがこの城を納めるゼニス一世じゃ!ここまで来れば今少しで神竜に会えようぞ。」
「……神竜?」
「そうだ。この城から出た先の塔に住まう神竜に会えば、どんな願いも叶うと言うもの。頑張るのじゃよ。」
「ちょっと待ってください。あの、この城は、この世界は……なんなのですか?」
 トゥールが慌ててそう問いかける。ゼニスは笑う。
「ふぁっふぁっふぁっふぁ。うむ、ここはそなたらが言うロンダルキアの頂上からたどり着いた天界……では不満かの?」
「いえ、あの……。」
 そう、ゼニスの言う事は間違いではない。ここは上の世界へ戻ろうと、トゥールたちが下の世界を旅し、ゼニスの言うとおり ロンダルキアという山の頂上の光に導かれてたどり着いた場所だ。
 ただしここに着くまでには、今までにあったこともないような凶悪なモンスターと、そして今まで通ったことのある、だが、 初めて通る洞窟を通り抜けなければならなかったが。
「ここに来るまでに、僕たちはネクロゴンドへの洞窟や、ジパングの洞窟、はては闘技場の中まで通ってここまで来ました。セイの 呪文でその場所じゃない事はわかっていたのですが……ここも僕にはイシスの城に見えます。」
「ふむ、つまりどうして見覚えのある場所に見えるか気になるということじゃな?」
「はい。」
「それはじゃな。そなたらに見られることを拒否しておるからじゃよ。この場所自体がな。むろん、そなたらはこの場所に選ばれた 真なる勇者、そなたらに問題があるわけではない。それではいかんかね?」
「はぁ……そうですか。」
 なんだかよく分からない。後ろでは三人もなんだか気の抜けたような顔をしている。
「ともあれ、今日はこの城で休んでいかれよ。」
 ゼニスはそう言って会話を打ち切った。


 セイは部屋を出て、珍しげに周りを見渡す。どうやら城は完全にイシスの城……らしかった。
(俺は夜忍び込んだだけだしなぁ……。)  正直に言えば、とても疲れている。だからあてがわれた部屋で寝てしまおうと思っていたのだが……眠れなかった。
 理由は分かっている。
 旅が、終わるのだ。終わることなど考えたこともなかった、旅が。
 願いを叶えてくれると言う神竜。それに会えば……元の世界に戻れる。それは、この旅の終わりを示す。
 その事実がずん、とセイの胸を支配する。
 元の世界に戻ることが嫌なわけではない。
 ただ、心を重くするのは、その先のこと。
 ジパングを出てから、先のことなんて考えた事はなかった。ただ、今を生きるのに必死だった。
 生きよう。生き抜こう。誰のためでもない、自分のためでもない。ただの意地で、そう決めた。
 あちこちの盗賊団に引き抜かれているときに言われたことがある。『いつまでも続けてはいられないぞ。』と。
 セイは笑ってそれを交わしていた。……考えたくなかった。
 先のことなんて考えたくなかった。それは、自分にとって裏切りだったから。
『本物の父に会う』それが、ずっと持っていた、流星の、目標。母の不貞を信じていた、裏切り。
 そこまで考えて、セイは誰もいない廊下に座り込んだ。
(いまさら、何を考えてんだか……)
 もう子供ではない。親の呪縛から離れた大人だ。いつまで親のせいにしているのだと、情けなくなる。
 これも現実逃避だ。わかっているから。
 自分には何もない。武闘家に転職した今も、盗賊以外何をやって良いかわからない。

 うすうす気がついていたのだ。この旅が終わったら、どう過ごすのか。どう過ごしたいのか。その答えが 見つからないことに。
 トゥールは家に帰って、家業を継ぐのだろうか。
 サーシャは間違いなく、神職につくのだろう。
 リュシアは……おそらくルイーダの手伝いをするのだろう。
 そうあっさり予想がつくのに、……自分には何もない。何ができるのかがわからない。その空っぽさに、笑えて 気さえする。
「……セイ?何してるのさ、こんなところで?具合悪いの?」
 顔を上げると、そこには通りかかったのだろう、トゥールが座り込んでいるセイを不思議そうに見ていた。


「いやー、おなか空いてさ。せっかくだから何かないかなって思ったんだけど。これ、一緒に食べようよ。」
 セイを部屋に招きいれたトゥールは、この城の者からもらったらしい果物をセイに見せた。
「まぁいいけどよ。」
「おなか空いてるとろくな考えにならないよ?」
 トゥールは嬉しそうに皮をむいて、手早く切った。
「俺だけでいいのか?他の二人は。」
「寝てたら悪いし、ほら、いつも僕の悩みを聞いてもらったし、なんかちょっと嬉しいんだよね。」
 テーブルの上に果物を置き、トゥールは嬉しそうにセイの向かい側に座る。
「いや、たいしたことじゃないぞ?旅が終わるんだな、と感慨にふけってただけだ。」
「廊下で?」
「まぁ、あとは色々と考え事だ。長い旅だったしな。なんつーか、あんまり実感わかねーと思ってな。」
 セイはしゃり、と果物をかじりながらそう言う。見たこともない果物だったが、少し甘酸っぱい風味が口の 中に広がり、そこから今度は滑らかな甘みが喉を通る。
 トゥールも果物を口に入れて、その風味を味わう。
「おいしいね、これ。」
「ああ。」
「でもまぁ、確かに実感がわかないよね。 やっぱりずっと勇者やってたから、終わりですって言われても、これから何をすればいいのか 困っちゃうよね。」
「お前でもそんなことを思うのか。」
 セイは目を丸くする。トゥールの夢は、勇者になることと、そして家庭を作ることだと聞いていた。旅が終わった時のことを しっかり考えていることに驚き、感心したのを覚えている。
「一応夢はあるんだけど、それに向かってどう進めば良いのか分からないって経験は初めてだなって。うーん、僕 今まで恵まれてたなぁ。」
 トゥールはしみじみとそういい、また果物を口に運ぶ。
「最初はおじいさんの家業を継ぐか、一応アリアハン王様が仕官しないかって言ってくださってたんだけど……ほら、僕下の世界に 住むって約束したし。」
「ああ、そうか。」
「ラダトームに仕える気はしないし、かといってきこりって結構家を留守にするし、それじゃ父さんと変わらないから できれば別なことが良いな、って思うと、じゃあ僕は何がしたいのかなって。」
 その言葉に、セイは目を丸くした。
「何がしたい……か。俺は何ができるかって考えてたがな。」
「セイはなんでもできるじゃないか。人当たりもいいし、頭も口も回るし、強いし。人脈だってあるし。」
 トゥールが指を立てながら、セイの長所をあげていく。セイは頭をかきむしりながらそれを止めた。
「おいおい、気持ち悪いな。……それでお前はどうするつもりなんだ?」
 半ば緊張気味に言った言葉に、トゥールはあっさりと答えを返す。
「ゆっくり考えるよ。しばらく休んで、それから好きなことやってみようかなって。ずっと休んでたら 何か浮かぶかもしれないしね。」
 その言葉に、セイは今度こそぽかんと口を開けた。


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