闇に葬られた或る1つの論文
(サマルトリア城から発見された竜の勇者の書物についての一考察)

    序章   

 先日、サマルトリア城から一つの書物が発見された事は、皆様の記憶に新しい事と思う。
 その書物にはロトの紋章が書かれ、少し古びているが丈夫な装丁がされていて、注目を浴びた。その装丁は まるきり「冒険の書」であり、今発見されているロトの勇者、それと邪神を滅ぼした三人の 勇者の冒険の書と、とても似通っているからである。
 様々な学者がこの文書に取り組み、はたしてこれが ラダトーム王女を助け出し、竜王を倒して光を甦らせた本物の”竜の勇者”の冒険の書であるか検証した。 そして今の学論では『これは冒険の書に似せた、当時の小説である』と言う結論が大半である事は周知の 事実だと思われる。
 その根拠として、本家であるローレシアの城からでなく、分家であるサマルトリアの城から発見されていること、加えて サマルトリアは古来から文学が盛んである事。二つ目に発見されている他の勇者の冒険の書はただの 行動記録に近いものであるが、それに比べこの書物は余りにも細かく行動の描写されている事などがあげられている。 しかし一番の原因はその衝撃的な内容であった。あまりにも内容が勇者らしくないという事である。

 だが、著者は断言したい。この発見された書物は『竜の勇者の冒険の書』である、と。そして、 この文章に書かれている勇者は『真の勇者』であると。そこで本論文では この書物が何故本物であるかという点を、『竜の勇者の冒険の書』を時系列順に解説し、その断言の意味と、 竜の勇者の軌跡を辿っていきたいと思う。
 なお、この先サマルトリアから発見された本書を単に「冒険の書」と記す事とする。


    第1章  旅立ち   

 まず、旅立ちのところから竜の勇者の人柄や境遇について読み解く。

「俺の名はアレフ。いきなりモンスターにドムドーラを滅ぼされて、残されたのは、この本と 兜だけだった。しかたないので傭兵として生きていく事にする。これから、何も持たない旅に出る。」 (冒険の書 1P 第1行)

 書物はここから始まっている。この文章で竜の勇者の名、住んでいた場所、それから何故旅に出たのかが伺える。また 文章から戸惑いが見えるあたり、それまではただの一般市民だったのだと推測できる。 ここから失礼だが、竜の勇者をアレフと呼ぶ事にする。

「しっかし驚いた。兜とこの本にはあのロトの紋章と来た。じじいの手紙にも書いてあったが、本当に 俺はロトの末裔だったらしい。まあ、そんなもん知ったこったねえが、兜の丈夫さは眼を見張るものがある。 とりあえず貰っておこう。なんか役にたつこともあるだろうしな。」(冒険の書 1P 第3行)

 そしてそれまでロトの末裔のことは知らされてなかったことがわかる。また、どうしてラダトーム王は 竜の勇者をロトの末裔だと見抜いたかも、ここではっきりする事になる。

「これは冒険の書というらしい。くだらないと思ったが、王や神父の洗礼を受けたノートに 今までの行いを書いておくと、モンスターにやられた時にちゃんと後始末をしてもらえるらしい。 あと冒険者だって証明みたいなもんだから、宿も怪しまずに止めてもらえるらしい。…どーでもいいが、 さっきからでたらめを書こうとしてみても、インクが乗らない…どういう仕組みなんだ?まあ、 いい。どーせ死んだあとの評価なんて知ったこっちゃないんだ。素のままで書くか、面倒くさいし。 そんなわけで、他にする事もねえし、これからけちは傭兵としてやっていくことにする。」(冒険の書 1P 第7行)

 ここで初めて旅の理由が明かされる。つまり町を滅ぼされ、唯一生き残った竜の勇者は、自らの 生活のために傭兵という道を選んだ。つまり逆に言えば傭兵をして生きていくくらいの腕はあったという事だろう。 そして、あたりまえだがアレフに勇者という選択肢はなかった。つまり今のアレフは生きていく事に必死な、 ある種今までの定説、勇者を目指して旅立ったという説よりも、一般常識を持った大人の青年だった事が 伺えるだろう。また、

「今はモンスターの勢いが強い。適当な仕事をしてたら食いっぱぐれる事もないだろう。まあ、所詮 世の中、金と女だ。」(冒険の書 3P 第25行)

 とあるとおり、どこにでもいる、一般的な男性だった事がわかる。これがアレフの当面の目標だろう。つまり生きること。 そして少しだけ豊かな生活。アレフはこれを目指していたのだ。この二つをとりあえず著者は「アレフの目標」と 名づける。
 この文章は勇者として不適合ゆえにすなわちその冒険の書が後世に、竜の勇者をモデルにして作られたという 学説もあるが、著者はそれに異を唱えたい。その根拠として、この言葉を持ってこよう。

「勇者とは、勇者になろうとしてなるんじゃなくって、何かを行うことによって勇者と 言う称号を得た人のことを言うんだと僕は思った。僕も結局はそうだし、父さんもきっとそうだったから。」 (ロトの勇者冒険の書 終の章 586P 第35行)

 と、あるように、勇者と呼ばれる人が 初めから立派でなければいけない理由はないからである。むしろ旅を続け、立派に成長した 人間こそが、勇者たる資格があるのではないかとすら、著者は考える。

 ここから先はしばらくはドムドーラ跡地から北へあがり、初めて旅に出たアレフの驚きが書かれているが、本文では 触れないこととする。
 そして、無事にラダトームの城前についた。そこでの驚きをアレフはこう記している。

「でかい町で、でかい城だ。しっかりとした門構えや塀。そのよこにちんけな 立て札があるが…まあ、そりゃどうでもいい。道理でこの城ははモンスターに襲われないはずだぜ。 …なんかむかつく。まあ、たしかにじじい達が死んだのは、城からの増援が間に合わなかったせいだった。噂に よると、増援すらださなかったらしい。まあ、このご時世、仕方のない事かも知れねえけどさ。俺らの 金で贅沢してやがんだ、それくらいしろっての。」(冒険の書 28P 第52行)

 と記されている。そこからアレフは立て札に書かれたお触れを見て、こう結論付けている。

「『竜王を倒さんとするもの、我が城へ来たれ。それを誓うものあらば、 我は汝に旅立ちの援助としての80Gを約束する。』ああ、なんとも太っ腹なもんよ。ルビス様、感謝しますってもんだぜ。 今ちょっと路銀が危なかったからな。まあ、80Gなんてせっこいが、成功、不成功問わずって所がおいしいぜ。 つまり取り逃げ放題ってことだからな。いっちょ誓いとやらを立ててやろうか。まあ詐欺みたいなもんかもしれねーけど、 復讐にしちゃかわいいもんだろ?実際竜王なんて倒す気もねえが、ま、とんずらすりゃわかんねえだろ。」
(冒険の書 55P 第2行)

 ここでひとつ、アレフの目標の一つの「金」が行動の原動力である。そしてもう一つは城、 いや王家に対するささやかな復讐のつもりだったらしい。 これを不謹慎とする学者も多かったが、自らの故郷を滅ぼされ、恨みに思うことがそれほどおかしなことだとは、 著者は思わず、むしろ当たり前のことだと受け止める。また、その選択はいかにも合理的で現実的な印象を与える。
 ここで特出すべき点は「竜王は倒す気がない」と明記している点である。 結果的にアレフは竜王を倒しているのだから、この言葉は逆に運命的で なんともおもしろいと著者は思うのだが、どうだろうか。そうしてアレフは 王への目通りが許される事になる。目通りが許されるところもまた、面白い点があるが、それはまた 後述する。


    第2章  王のお触れ   

 アレフがすんなり王の目どおりが許されたのは、当時の情勢、つまりモンスターにばかり気を取られて 人の刺客等を考えなかった点もあるだろうが(事実ラダトームの国家予算を紐解いてみると、 内偵、刺客と言った予算は大幅に削られている)、なによりもアレフが持っていた兜にあった。そう、 ロトの兜である。王はこれを見て、大いに歓迎したと冒険の書にはある。

「国王は俺の兜を見たとたん、むせび泣きやがった。『ああ、これで世界が救われる。』そう期待されても 困るだけなんだが、俺は言ってやった。『わたくしが来たからにはご安心ください、王。 必ずやこの世に光を取り戻して見せましょう』ってか、王が言う 光の玉ってなんだ?俺は聞いた事ねえぜ?あるのか、そんなもの?」(冒険の書 63P 第45行)

 ここにあの有名な王との目通りの文句が見られる。定説では竜の勇者は自信を込めていったことになっているが、 先ほども述べたとおり、竜の勇者とて、竜王を倒すまでは普通の人だったのだから、自信があるというほうが おかしいと著者は思う。
 だがその目通りの文句と兜のおかげで、アレフは特別対応が為される事になる。

「王がくれたのは120G。それとせこいとはいえ、こまごまとした消耗品をくれた。 立て札の文書よりも随分と張り込んでくれたぜ。さらに、 もし世界を光に包んでくれたらできる限りの報酬を払う、と大きく出た。 役に立つもんだな、この兜も。まあ実際やる気はねえが、くれるもんは貰っとく。」(冒険の書 66P 第25行)

 アレフは思った以上の対応をされ、喜びと同時に少し怒りをみせる。

「竜王がこの大陸から光を奪って、結界を張って外へ出さないようにしてる事ぐれえ 知ってたが、どうやらここの姫さんが竜王に攫われたらしい。道理で軍を出さないわけだ。話を聞くと、ドムドーラが モンスターの軍に襲われるのと、ほぼ同時だったらしいからな。つーことはなにか?姫さん…ローラ姫の 命と引き換えに、俺んとこはやられたってわけか…ふざけんじゃねえ!!」(冒険の書 70P 第8行)

 とあるように、最初アレフはローラに対して憎しみすら覚えていると言ってもいい。もっとも、

「でもまあ、同情はするぜ、王さんよ。自分の息子が竜王なんてたまったもんじゃねえよな。 ローラ姫とやらもかわいそうにな。」(冒険の書 70P 53行)

 とも書かれている。竜の勇者の研究者、シュダルツ・ホワイウエイはこの書物を「 大変趣味が悪く、竜の勇者に悪意があるとしか思えない。竜の勇者とされる主人公には品も知性も 優しさも何もない獣同然の人間として書かれている、最大の駄作である。」(竜の勇者はここから生まれた 218P  第54行)と記しているが、ここまでの展開からも、この文章からも、それなりの常識と優しさが見受けられるだろう。 身内が殺されたある種原因とも言える人間に対して、同情心を覚える事ができるのだから、それは優しさと 言っていいだろう。
 この後、ラダトーム城下町に戻ったアレフは、虚をつかれる事になる。

「酒場に行ったとたん、大歓迎された。 行きは見向きもしなかったくせに、城から戻ってきたらにこにこと俺に話し掛けてきやがった。どうやら 城のやろうどもが俺の話…おそらくロトの末裔の勇者の話をしたらしい。随分と話が大きくなってやがる。 くそ、これじゃとっとととんずらなんてしずらいじゃねえか、どうしてくれんだよ!!」

 と悪態ついている。これは別にラダトーム城の策略ではなかったと著者は推測する。誰にでも 準備金を与える、というのは無謀な政策であることは間違いないが、逆に言えばラダトーム王はそれほどに あせっていた事を示している。城とてローラ姫を守る騎士やつわものが沢山いたはずなのである。 だが、外から兵を募っているという事は、おそらくその騎士達が帰ってこなかったか、ローラ姫が攫われた時に 死んだか負傷したかで、動けなかったのだろう。事実ローラ姫捜索隊は全滅しているのだから、 兵士の数も激減していたのだ。そこに現れた、素性に希望が持てる勇者。王にとっては まさに光の玉に見えたに違いない。その希望が絶望に包まれたラダトーム城に伝染して…おそらく あっという間に広まったのだろう。そもそもアレフは城に入る許可を得る時に、門番にこう言っている。

「俺はいたずら心をおこした。こんなおいしい話門前払いを喰らっちゃ話になんねえ。怪しがる門番を目の前に、 念のため磨いておいた兜を俺は高々とあげる。『我はかの勇者、ロトの末裔。 その名をアレフという!王の希望となるべく、ここに参った!謁見を願おう!!!』」(冒険の書 59P 第35行)

 ここまで大げさなデモンストレーションをしておいて、こっそり城を去ろうと考えるのは、無理がある。 ある意味自業自得といえるだろう。
 だが、逆にアレフにとって良いこともあった。

「旅で薄汚い格好をしてた時にゃほとんど縁がなかったのにな。ロト様様だぜ!もしかして俺、これから入れ食いじょうたいか? そこまで舞い上がり、ふと考える。そして色目を使ってきた女をじろじろと見た。平たく言や、品定めってやつだ。 …うん、美人ではないが、そこそこの色気、特別スタイルがいいわけじゃねえが、バランスの取れた体… ま、いいか。ロトの勇者として、夜を共にしても恥ずかしくない相手ではあるな。」(冒険の書 72P 第40行)

 つまり、ここでアレフの目標、つまり女にありついている。余談だがこの夜の感想をアレフは、

「まあまあ満足だった。腹へってたらなんでも上手いだろうが、まあそれを引いてもなかなかだ。 慣れているわけでもなく、生娘でもなかった。一夜の相手にゃいい相手だったぜ。」(冒険の書 73P 第6行)

と記している事を明記しておく。
 また、ここで、何故この冒険の書がサマルトリアにあったかを、著者はこう考える。その前に、 この文を引用しておく。

「親しき彼の王子の言葉に、唖然とする。王子は我が城の図書館のすみで、それを見つけたと述べる。 なぜ我が国がそれを知らぬかと尋ねると、親しき王子は曰く、『あの書物は竜の勇者によってローレシアの城の図書館の奥に隠された と推測される』。さらに王子はその理由の推測を重ねた。『かの麗しき姫君に、見られる事を勇者は望まなかった』」 (ローレシアの勇者の冒険の書 182P 第29行)

 つまりこの冒険の書はローラ姫に見られたくないために、図書館のすみに隠された。そして著者はさらに こう推測する。それをサマルトリアの勇者が持ち出したのではないか、と。それゆえ、 冒険の書は本家のローレシアでは発見されず、サマルトリアで発見されたのではないだろうか。
 ローレシアの勇者の冒険の書には、会話は細かく書かれてはいない。だが、 サマルトリアの勇者から、竜の勇者について語られたローレシアの勇者はそのあと、こう書き残している。

「我は何を知れども、崇拝の念は永久に変わらず。」(ローレシアの勇者の冒険の書 183P 第2行)

 この二つの文が、竜の勇者が当たり前の人物でなかったことを現わしていると言えるだろう。そして その根拠を先ほどのアレフの発言にあると、著者は予想する。




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