気がつくと、たそがれが迫っていた。 「そろそろ、このあたりで休めることろを探さないとな。」 二人は砂漠に差し掛かっていた。といっても、それほど大きな砂漠ではないのだが、さすがに 日が暮れるまでに抜けられそうにない。 「アルフ、あそこに建物の影がある。」 ローラが指を刺す先には、なにやら建物、というかそこそこ大きな町らしき影がある。 「あれは、ドムドーラか?」 「あ……滅ぼされたところ、ね?」 「ああ、でもまぁ、建物が残ってんなら風がしのげるだろ。」 たどり着いたドムドーラは予想以上に廃墟だった。家という家はどこかしら破壊され、中は荒らされていた。 もちろんそれは、外も例外ではなく、これは明らかに皆殺し……おそらくはロトの末裔全てを滅ぼすための 徹底的な破壊だったのだろう。 (……これほどしなければならないほどの、ロトの血筋って一体何なんだ?) 自分はロトの末裔らしい。だが当たり前ではあるが、別に指先からビームが出るわけでも、全てを滅ぼす 雷が打てるわけでもない。まぁ、ロトの勇者は天雷さえ操ったと言われるが。 (もしかして、あれか……?) 思い返せば、初めて竜と出会ったときのこと。自分の剣ではとてもかなわぬと、あらぶる竜の前に絶望して身を 震わせていたところで、自分の記憶は途切れ、気がつくと竜は血を出して倒れていた。 その記憶の遠く彼方に、ローラを助け出した時の、あの呪いを唱えていた、気がするのだ。 あんな呪文は知らない。だが、あれこそが竜王が恐れている何かだとすれば。 「アルフ?」 考え込んでいると、ローラが心配そうに自分の顔を覗いていた。 「あ、ああ。とりあえず、一番ましな家に入るか。」 「うん。」 そう言って、町を歩くが、あまりに徹底的な破壊に、ローラも何か気分が悪そうだった。 「お前のせいじゃないからな。ここの破壊はお前がさらわれた前だしな。」 「それはわかってる。でも……」 可哀想というのは違うと分かっている。けれど、やはりこの悲惨な有様に、胸が苦しい。そんなところだろう。 自分も苦しい思いをしたというのに。 そんなことを思っていると、ローラが、ある一点を小さく指差す。 「……アルフ、あそこ……。」 指差したのは、大きな木の下。そこにじっとたたずむ、一匹のモンスター。まるで何かを守っているようだった。 (……最後の一点か?いや、そんなはずない。) 四の陣の力を得るためには四つの点から囲まれなければならない。ガライ、岩山の洞窟、リムルダールへの洞窟、最後の 一つは竜王の城からだいたい南東になければならない。 とはいえ、あの様子は明らかにおかしい。 「ローラは何か感じるか?」 ローラは首を振る。アルフはローラを下ろし、近くの建物の影に隠れているように指示した。 それは、鎧をまとった魔物だった。周りのどんな音にも、ただ、じっと佇む、躯のようでもあった。 だが、アルフが背後から近づいてくると、その骸骨は、頭をあげて、眼窩からこちらを見る。 「……その、穴からでも、なんか見えるのか?」 音もなく近づいたつもりではあったが、さすがに待ち構えている敵には呪いも効果がない。 「ギラ!!」 呪文を放ち、そのまま走る。だが、その呪文の炎を撒き散らすように、炎の中央をきりつけた敵の斧は、自分の肩に 刺さった。 ちらつく自分の血が、体をぬめり、回復する呪文が、その肩を照らす。 再び襲ってきた、少しこげた斧を持つ右手を、思いっきりけりつける。別方向からやってきた手に背中を 殴られる飛ばされるが、その土産に、相手の右手に大きなひびが入る。 敵はこちらを見据え、呪文を放つ。 「ラリホー。」 とたんに、頭がくらりとし、現実が自分から遠ざかるのを感じた。地面が近くなる。その自分の顔に。 ”コツン”小石が触れた。 アルフは頭を振り、左側から大きく回り込み、少し離れたところから呪文を唱える。 「マホトーン!」 手ごたえがして、相手の呪文が封じられたようだった。魔物は再び大きく斧を振る。 だが、それを予想し、小さくしたから、その斧の奥めがけて剣を振るうと、腕がこぼれるように落ちた。 その返す剣で強引に鎧の隙間に剣を突き入れ、鎧を引っぺがすように圧力をかける。 後ろから、魔物の足が振るわれるが、そのダメージを無視して、今度は兜の間に力いっぱい剣を突いた。 一瞬の沈黙の後、モンスターは、そのまま結晶だけ残して、崩れ落ちた。 アルフはその場に脱力する。呪文を唱え、体を治しながら、声を上げた。 「ローラ、もうこっち来てもいいぞ。」 ローラはきょろきょろと周りを見回すと、小走りでこちらに来た。 「アルフ、大丈夫?」 「ああ……おかげで助かった。でも危ないからもうすんなよ。」 小さく笑ってから言うと、ローラは気まずそうに笑った。 「この木の、下、かな?」 そう言って、服が汚れるのも気にせずに、掘り出す。 「大丈夫かよ、俺がやるって。」 そう言って、ローラを押しのけ、荷物のスコップで掘り出す。それはすぐに行き当る。大きな金属のようだった。 「……よろい、か?」 掘り出すと、その鎧の中央には、かの有名なロトの紋章が刻まれている。 「ロトの鎧だね。……アルフが着たらきっと似合うよ。」 「いや、勘弁してくれ。ロトの末裔だって言いふらすのは真っ平だ。」 そう言いながら、どうしようかと思い、その紋章に触れると、それは光となって突然消えた。 |
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