〜 呪術師とゴーレム 〜


 高い隔壁に囲まれた町。その唯一の出入り口をふさぐように、大きな大きなゴーレムが 立ちはだかっていた。
(さて、どうするかな。)  おそらく、手元にある笛は、妖精の笛だろうと推測はされるのだが、はたして本当にそうなのか。そして どう効くのか。そもそも効くのか。ロトの伝説によると、石にされたルビス様が解放されたらしいが。
「それを吹くの?綺麗な笛。」
 手に持って弄んでいると、ローラが不思議そうに覗き込んだ。
「あ、ああ……。これを吹くとあのゴーレムに効くかも、しれないらしい。」
「……それ、私が吹いてもいい?」
 ローラはそういうと、笛をひょいっと取り上げた。
「いやちょっと待て、危ないかも知れねーぞ。」
「でももしゴーレムがこの音色に抵抗して襲ってきたら、アルフは手が開いていた方がいいでしょ?」
「音を聞いて、モンスターが襲ってくるかも知れんし……。」
「どちらにせよ、ゴーレムが暴れだしたら一緒だと思うの。」
「……わかった。もしゴーレムが暴れだしたら、笛を捨てて逃げろ。町の中に入れそうなら入ってくれ。もしくは俺の 方へ逃げろ。もしゴーレムが動きを止めたら、俺がいいって言うまで吹き続けてくれ。息継ぎをするときは、その前の音を 強めに吹いてくれ。周りのモンスターの気配を探るのを忘れるなよ。」
 ローラはこくん、とうなずいた。アルフは魔物避けの呪いをローラに施すと、剣を抜く。
 周りの気配を探るが、近くにモンスターがいる様子もない。ローラが笛に口をつけるのを確認して、 アルフはゴーレムを凝視した。

 それは、不思議なメロディだった。少なくともアルフは聞いたことがない。民俗音楽のようにも聞こえるし、 賛美歌のようにも聞こえた。
 その、とても心地よい音楽に、それまで仁王立ちしていたゴーレムが、膝を突く。そしてそのまま背中から倒れこんだ。
(効くなぁ。)
 あまりに劇的な効き目に、アルフは目を丸くした。それにしても、息が切れたらどうなるかも分からないし、 他のモンスターが来る可能性もある。早めに片をつけなければならない。
 アルフは警戒しながらゴーレムの体に乗り、見渡すと、ちょうどゴーレムを操作している呪い紋を見つけ、それを 剣で叩き消した。
 くぉん、と少し低い音がして、呪いが破棄されたのがわかった。アルフがローラに向かって剣を振り上げると、 ローラは一生懸命こちらにかけてきた。
「おわった?」
「おう、ありがとな、ローラ。」
 そういうと、ローラは嬉しそうに笑う。
「そういや、なんの曲だったんだ、あれ?」
「……わかんない。息を吐いたら自然に出てきたから。」
 そう言って、ローラが笛を渡す。なんの変哲のないように見える妖精の笛は、きらりと一つ光を放った。


 メルキドの町。ゴーレムが倒されてことを聞きつけてか、人が徐々に集まってくるのを避けるように、アルフはこそこそと 町の中へと入る。
「まるで城壁みたいね!」
 ローラは久々の町が嬉しいのか、駆け出して行きそうなほどだった。
 物流が途絶えていたわりには、意外なほど町は平穏で、普通に店も出ている。ローラはその一つの商品をじっと 見ていた。なんの変哲もない野菜なのだが、ローラには珍しいのだろう。
「おい、一人でどっか行くなよ、迷子になるぞ。」
 アルフが声をかけると、ローラは少し名残惜しそうに店を見てから、こちらに走ってくる。その様子は まさに5歳児そのもので、とても17歳には見えない。
 話していてもさすがに5歳児とはいかないが、かといって17歳にしては幼い印象を受ける。
「ごめんなさい、アルフ。それでどうするの?」
「まぁ、食料の買出しと、太陽の石の情報集めだな。結界の最後の一つの場所も、なんかヒントがあればいいんだが。」
 ここから大体東の方向だと、大体の方角は分かっていても、範囲が広すぎる。
「……町の人たちに色々聞いてみるの?」
「まずは、神殿か。情報を集めるのは酒場か教会いいだろうしな。……顔が知れてるってことはないか?」
 アルフにそういわれ、首を振る。
「神官にお祈りはしてもらったことはあるけど、城の専属の人だったから。」
「そうか、ならまぁ、聞かれたら適当に言うから合わせろよ。人攫いだと思われたら困る。」
 アルフの言葉に、ローラは少し微笑んで、アルフの服をきゅっとつかんだ。


 メルキドの神殿は、この国一番の規模を誇り、何十人もの神官を有している。
(さて、聞くにしても誰に聞くかね……。)
 名目はラダトーム王の調査と言うことにすればいいものの、ローラがいることを怪しまれれば、やっかいなことになる、 そう思って初めて気がついた。
(ローラ宿屋で待たせとけば良いだけの話じゃねーか!)
 そうしてアルフがローラにそう言おうと振り向いた時だった。
「もし、そこの子連れの青年。」
 一人の老婆が話しかけてきた。

(なんだ?)
 ぼろぼろの布をまとい、髪の毛も薄く、それもあまり手入れされていないようだった。神殿の暗がりにひっそりと 佇むその老婆は、物乞い、いったところだろうか。
 いかにも怪しいその様に、アルフがローラの手を引いて立ち去ろうと手を伸ばしたところ、その手は空ぶった。
「なぁに、おばあさん?」
「おうおう、綺麗な娘さんじゃな。」
 楽しそうに話す老婆とローラ。アルフは額を押さえながら側へと寄った。
「……言っておくが金はねぇぞ。」
「ふむ、信用されんかもしれんが、わしは予言の力を持っておってな、そなたを待っておったのじゃよ。」
 一瞬ぽかんとするが、意外と馬鹿にしたものでもないかと思い返す。祖父が祖母に対して言っていた言葉を思い出したのだ。
「何か知っているのか?」
「わしは知らんが、ここの神官長が知っておるよ。尋ねるがええ。そなたの素性を正直に話すことじゃ。 神官長の部屋はこの奥じゃ。」
 そう言ってにっこりと笑った。なんだか役に立ったような立ってないようなそんな予言だと思った。だが、 予言とはそんなものかもしれない。
「助言感謝する。行くぞ。」
 老婆がどこまで知っているか分からないが、とりあえず神官長の部屋へと行ってみることにした。


 信じてもらえるかわからないが、と思い行ってみたが、案外すんなりと部屋のドアは開かれた。
「貴方が神官長ですか?」
「よくぞいらしたな、ロトの勇者よ。」
 そういえば、そんなことを言われるのもずいぶん久しぶりな気がしていた。
「はぁ、まぁ……。あの、私は、太陽の石と、あと竜王の作った呪術の陣を探しているんです。何か ご存知ありませんか?」
「ふむ、手短に来たな。太陽の石のことは伝説以上のことは知らん。だが、もう一つの物は、おそらく ここから南の嘆きの沼の中央にあるぞ。」
「……嘆きの沼、ですか?」
 ここから南の草原には一度行ったことがあるが、沼などなかった気がするのだが。もちろん 嘆きの沼などという名称も聞いたことがない。
「そう呼ぶにふさわしい場所だよ。行けば分かる、そなたならな。」
「そうですか、ありがとうございます。」
 そう言ってアルフとローラが頭を下げて立ち去ろうとした時、後ろから声がかかった。
「そなたらの未来は、予想もつかないものが立ちふさがってくるだろう。だが、自分ができるだけのことを、 自分なりにやれば、必ず道は開ける、そう信じるのだ。そなたたちの未来に光あれ……。」


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