〜 呪術師と太陽の石 〜


「なんでそこまで言うんだよ、帰れよ!」
「嫌です!絶対に嫌です!!」
 もう何度、この会話を交わしただろうか。
「なぁ、お前なんだってそんな風に言うんだ?なぁ、じーちゃんもなんか言ってくれよ。」


 ロトのしるしをとった後、二人はほぼ会話もなくラダトームに飛んだ。
「とりあえず俺んち行くぞ。」
 アルフの言葉に、ローラはうなずく。さすがに抱き上げるのは目立つので二人は並んで歩いていく。 アルフにとっては住み慣れた町であり、ローラはおそらく初めて来る自分の町なのだろう。物珍しげ にきょろきょろしていた。
 やがてなつかしの我が家へ入ると、やっぱりほっとした。
「じーちゃーん、いるかー?」
「おお、その声はアルフか?無事じゃったか。」
「ああ、なんとかな。」
 家の奥から祖父の顔が出てくると、アルフもまだ元気そうな様子にほっとした。
「じーちゃんも変わりないか?」
「ああ、変わりない。それよりも……。」
 祖父は隣にいるローラを見て一瞬いぶかしげな顔をした後、側に寄っていって跪いた。
「王女さま、ご無事でいらっしゃったようで何よりでございます。不肖の孫が無礼を 働いてはおりませぬか?」
「そんなとんでもありません。私は彼に命を助けられたのですから。 コーンウェル、貴方の孫はお話どおり大変優秀ですのね。」
 その様子に、アルフは目を丸くする。容姿は5歳ではあるが、その様子はまさに深窓の姫君だった。
「本当に姫さんだったんだな……」
「こりゃ!何を無礼な!!」
 ごつん、と祖父に殴られ、アルフは頭を抑えた。ローラは急いで止める。
「いいのです、コーンウェル。私はそうしてくれとお願いしたのですから。貴方も 楽になさって下さい。それにしてもアルフ、貴方私を信じてくれていなかったの?」
 アルフは驚愕と共に感心する。後半の声色、今までならば幼女の甘えた様子にしか思えなかったが、こうして 聞いてみると姫の気品が確かにある気がした。
「いや、そういうわけじゃなくて……そういやじーちゃん、なんで教えてくれなかったんだよ、ローラのこと!!」
「気安く言えることではあるまいて。姫君が呪われているなどな。王にもくれぐれも他言せぬようと おっしゃられた。」
「でも研究してた俺にくらい言ってくれたっていいだろ?!」
「わしが死ぬ前には言おうとおもっとったぞ。ほっほっほ。」
 祖父は立ち上がり、ローラを見た。
「無事でいらっしゃって何よりでございます。国王陛下も心配なさっておられますぞ。アルフお送りして……」
「嫌です!!」
 切り裂くような声でローラは言う。
「ローラ?」
「姫?」
「私は、アルフと一緒に行きます、まだ帰りません!」
 きっぱりと言い切ったローラにアルフは頭を抱えて祖父に懇願した。
「頼む、じーちゃん、説得してくれ……。」


「だから、太陽の石がお城にあるっていったら、アルフが私を帰そうとするって思ったの。だから 今まで言えなかったの……。」
「当たり前だ!つか、強引につれて帰るぞ!」
「だったら場所教えないから!お父様は場所をご存知ないんだから!」
 そうして、冒頭の会話へとつながる。

 祖父は何を考えているか分からず、ただ泰然とした。
「まぁ、待ちなさい、アルフ。」
「じーちゃん……じーちゃんは俺にローラ連れてけって言うのか?」
 頭を抱えるアルフに、祖父は笑う。そして姫に聞こえないように、小さくささやいた。
「さて、運命はどう紡がれてるのかわしにはわからん。アレフ、お前が決めることじゃよ。 ……姫様を使う方がお前が生きて帰れるのじゃというのなら、わしは姫様を連れて行ったほうが いいと思うんじゃ。姫様の血は、力になる。」
 それは呪術師らしき発言であり、アルフの肉親としての情が入った、ある種非道な発言だった。
「運命はアルフ、お前に過酷じゃった。それをここまでやりとおし、わしは誇りにおもっとる。じゃからお前が どんなわがままを言っても、わしは許されるとおもっとる。お前がどうしても連れて行きたくないのなら、 わしが国王陛下に話を通そう。」
 祖父はそういうと、席をはずした。


 アルフの答えは決まっている。これから決戦に行くのだ。連れてなどいけない。
「なぁ、ローラ。もう十分だろ?あとはもう竜王の城に行くだけだ。珍しいものなんて 何にも見れねーぞ。」
「別に物見遊山で行きたいわけじゃないもの。今までだってそうだったもの。」
 頑として引かないローラに、アルフも強硬措置をとることにした。
「なぁ、ローラ。……この間のことも、太陽の石の場所を教えてくれたことも感謝してる。もしお前が いなかったら俺は途方にくれてた。だから、もう十分だ恩返しとかならもう良いんだぞ。」
「でも竜王の城なら見たの。中のことも、ほんの少しだけだけど覚えてる。だからもしかしたら、力になれるかもって……。」
「……はっきり言う。邪魔だ。」
 アルフの言葉に、ローラがビクッとなった。
「今までは旅だった。けどこれからは戦いだ。それを両手がふさがった状態でやれって言うのか?」
「な、なら歩くから、がんばって歩くから……」
「どれだけかかるんだ?その分時間がかかれば、俺だけじゃない、また別の町が滅ぼされるかも知れないんだぞ。 お前のわがままのせいで。はっきりいうと、俺も勝てる自信はない。だから、その勝率を少しでもあげたい。」
 ローラの目に涙が浮かんだ。まもなくそれは頬を伝いこぼれる。だが、容赦するつもりはない。
「だから、帰れ。それほど長い時間じゃない。俺が勝ったら必ず呪いを解いてやる。そしたら今度こそ17歳として 堂々と出ればいい。」
「負けたら?」
「ん?」
「負けたら、どうなるの?」
「そりゃ負けたら……俺以外の別のやつがなんとかするか、世界が滅びちまうか……。」
 負けたときのことなど、自分には範疇外だ。なにせその時、自分はいないのだから。
 だがローラは首を振る。
「……違う、アルフはどうなるの?」
「俺か?俺は……」
 ローラはぼろぼろと涙を流しながら言う。
「貴方が負けたら貴方は竜王に殺される。誰にも省みられずに。一生懸命がんばったのに、誰も貴方の働きも知らないで、 どれだけがんばったのか、誰も見ないまま。……それは、とっても悲しいと思ったの。」
「……ローラ。」
「私はずっと自分の部屋からほとんど出られなくて、いくらがんばって行儀作法覚えたって、誰もどうせ見てくれないんだって 思った。ずっとここで誰も見てくれないで死ぬんだって思ったら悲しかった。 私でもそうなのに、一生懸命命をかけて世界を救おうとしてくれているアレフの頑張りを誰も知らないっていうのは間違ってる。」
 ローラは、自分のために泣いているのだと理解して、アルフは言葉が出なくなった。
”でも、辛いのはアルフも一緒だから。何もできないけど、辛い思い、一緒にしてくれる人がいたら、ちょっとは 嬉しいかなって”
 勇者ロトの末裔がなんとかしてくれる。アルフはそう思っていた。自分は関係ないのだと。
 けれど、ローラは、どれほど竜王が強大か知っていてなお。自分は関係するのだと、その目で見るのだという。 ただ、自分の努力を評価するために。
「私はなにもできなくて、邪魔なのはわかってるんです。いた方が迷惑だって。それでも、見ていたい。 どれだけ頑張ったか知っていたい。盾にしてもらってもかまわない。……側に、いたいの。一人にさせたく、ない。」
 せめてこの体が17歳だったら、そうつぶやいてローラはただ、涙を流す。
 その姿はあまりに凶悪であり、胸が締め付けられた。
 そして、それ以上にその言葉は、アレフの胸に響く。
「……ローラ、太陽の石の場所、教えてくれ。」
「……。」
 ローラは戸惑いながらも、石の場所を説明する。そしてそれを聞いて、アルフは祖父を呼んだ。
「じーちゃん、ローラを説得しておいてくれ。」
「ふむ。」
 それだけ言うと、アルフはそのまま家を出て行った。
(……俺は、断じて、ロリコンじゃ、ないんだがな……。)

「コーンウェル……。」
「姫様、大変危険なんですがわかっておられるか?せっかくアルフが助けたのじゃろうて、それを無駄になさるおつもりか?」
「アルフが、負ければ同じことです。竜王は……怖いですけど、アルフが知らない場所で死んでしまう方が、怖いんです。」
 ローラは、うつむきながらも言う。
「まったく、姫を連れて魔王退治をしようなぞ、あいつも酔狂なやつですじゃ。」
「え?」
 ローラは驚いて顔をあげる。アルフを21年育ててきた祖父が笑った。
「ふがいない孫じゃが、どうか見守ってやってくださいませ、姫様。」
「は、はい!」
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