〜 竜呪師と竜王 〜


 広い部屋に出たとたん、ローラはアルフにしがみついた。
「ローラ?」
「……ここ、私が、血を抜かれた場所です……もっとたくさん道具があったのが片付いてますけど…… 間違いない……。」
「ってことは、もうすぐ着くって事だな。案外早かったな。」
 しがみついてきたローラをひょいっと抱き上げる。今までの旅のように。
「アルフ?」
「あと少しだからな。……側にいてくれよ、ローラ。」
「はい。」
 きゅ、と抱きしめられ、アルフはそのまま奥へと歩いていく。階段を下りたところで、明らかな居住区へとたどり着いた。
 ここまでくれば、もうあと少し。思ったより恐怖も感じず、アルフは淡々と進んでいった。


 部屋の奥の奥まで来たところで、アルフの足が止まった。
 その部屋には玉座が一つ。そしてそこに座っているのは異形のモンスター。
 大きさはアルフと同じくらい。だが、肌が青黒く頭には二つの大きな角があるといえば、もうこれが何者かは わかるだろう。
「……なるほどな。よくぞここまで来たな、竜呪師よ。」
 どこかくぐもった声がした。
「竜呪師?なんだそれは?」
「ほほう、姫をわしのところまで連れてきてくれたのか?ごくろうであったな。」
 びくっと震えたローラを下ろし、アルフは後ろに庇いながら言った。
「お前に連れてきたんじゃねーよ。ローラは俺の仲間だ。」
「ふむ、竜呪師よ。そなたも常若の血を使い、わしを倒そうというのだな。」
「ふざけるな!!大体俺の名はアルフ=コールフィールドだ!竜呪師ってなんなんだよ!!」
 そう怒鳴りつけたアルフに、竜王はむしろ哀れみの目を向けた。
「……自身も気づいてはおらなんだか、竜呪師よ。そなたが、運命の手により竜を……竜の中の王である わしを呪うためだけに生まれてきた存在じゃとな。」
 心あたりはなくもなかった。ローラを助け出した時に自覚した、あの呪文。あれは、おそらく。
「我が母とロトとの盟約により、その血に刻み込まれていた竜への呪い。時を重ねその想いを強くし、 やがてわしにつながる頃には、竜を呪いを吐き出すだけの存在につながる。 ……じゃが残念じゃな、竜呪師。……その呪いではわしは倒せまいて。」
「……何言ってんだかさっぱりわかんねーよ。」
 ぶつぶついう竜王の言葉をずぱっと切り捨てる。その言葉に竜王は笑った。
「では別の話をしようか。わしは待っておった。そなたのような若者が現われることをな。賢くも、 世界の法則を知り、呪うことができる稀有な人間じゃ。 もしわしの味方になれば世界の半分を竜呪師、そなたにやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」
「……一つ聞きたいことがある。」
 アルフの言葉に、ローラが驚いてアルフを見る。アルフはまっすぐに竜王を見ていた。
「……なんじゃ?」
「ローラの呪いはお前の仕業か?」
 アルフの言葉に、竜王は後ろにいるローラを見てにやりと笑う。
「そうだ、と言ったらどうする?」
 アルフは竜王に向かって足を踏み出す。
「なら、その呪いを解くことは可能か?」
「もちろんじゃ。自らがかけた呪いを解くことができぬ愚か者などおらぬよ。」
「じゃあ、俺がお前の味方になるといえば、呪いを解いてくれるか?」
「アルフ!!」
 ローラは叫んだ。そんなことをしてもらって呪いを解いてもらっても嬉しくない。
「どうなんだ、竜王?」
 だが、アルフはローラを見ず、竜王へと向かってゆっくりと歩いていく。
「そうじゃな……常若の乙女は便利じゃが…まぁそなたがわしの味方をするというのならば、 解いてやらなくもない。」
「そうか。」
 その瞬間、アルフはすぐさま剣を抜き放ち、竜王に剣を差し込んだ。


 青い血がとんだ。アルフは竜王の胸の辺りを突き刺した後も、容赦はしなかった。
 ローラを助けた時から、ずっと内にある呪いに語りかけていた。その真の姿を見ようとして。
「我は呪う、その存在を呪う。かの盟約の竜神よ、この世界を導いた全ての神よ精霊よ。盟約を果たすため、 この我が身、我が血を証とし、汝が同族を呪え!」
 ロトの剣に力を込めながら、アルフはもう何百年もロトの血に重ねられてきた呪いの文を唱えた。
 剣から伝わる呪いに確かな手ごたえを感じる。
 だが、竜王はロトの剣の刀身をつかみ、そのままゆっくりと引き抜きながらアルフに尋ねる。
「……な、ぜ、だ?」
「お前は呪いにローラを利用した。ローラの血の力を有用を思えるやつは、最初から その呪いをかけるなんてできるわけない。ローラの呪いをかけた奴は、呪い以上の 力を持っているはずだからな!!」
「な……る、ほど……ならばその褒美として、そなたに真の姿を見せてやろう!!!」
 竜王はアルフごとロトの剣を投げ飛ばすと、大きく吼えた。
 アルフの体が地に落ちその顔を上げると、その広間には大きな青い竜がぎろりとこちらを見ていた。


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