〜 呪術師とローラ 〜


 懐かしいラダトームの町の前。明るい光を浴びている、竜王の城を見上げた。
 青い空。世界はまぶしい光が満ちていた。
「綺麗ね。こんなに綺麗だったなんて……。」
「まぶしいな。……モンスターもおとなしくなるだろうし、草花も変わるだろうな。」
 いまだ登り始めたばかりの朝日であるが、それでも二人を包む空気は暖かい。
「……でも、やっぱり私の体、戻らなかったね。どうして知ってて、黙ってたの?」
「断言はできなかったからな。もしかしたらって思ったし、わざわざがっかりさせることも ないと思ったからな。……でもおかげであいつが嘘つきだってわかったからな。」
 アルフはローラの手を握る。
「改めて、ありがとう。ローラがいてくれたからここまでこれた。 ローラがいなかったら、俺はきっと無理だったと思う。」
「いいえ、アルフ。私こそ、感謝してもしきれない。私のわがままを聞いてくれて……私を 助けてくれてありがとう。」  ローラが微笑むと、アルフはローラを抱き上げた。
「ローラの体は俺が必ず治してやるから、安心しろ。約束したからな。」
「……アルフ。」
「さ、帰るか。これも返さないと。」
 そういって、視線で抱えている袋を見る。中にはロトの鎧が入っていた。
「いいの?これは……。」
「もうモンスターも弱いだろうし、呪術師にこんなもん、上等すぎるからな。」
 アルフは何の未練もなく、そう言い、町の中へ入っていく。

 朝が来たことに、みな喜び騒いでいた。アルフは土地勘を生かして、裏道を通り、城へと向かう。
「家に帰らなくてもいいの?」
「万が一見つかったら面倒なことになるだろうしな……。城も裏口とかそっちから入った方がいいのか?」
「……うん、そうして。」
 ローラはそう言って、アルフに裏道を案内する。二人は秘密裏に城へと入った。


 謁見の間に着くと、兵士がアルフを見て顔をあげた。
「王様がお待ちです。どうぞこちらへ……。」
 促され、アルフはローラを連れて謁見の間に入る。その姿を見て、玉座に座っていて 国王が立ち上がる。
「ローラ!!無事であったか……いや、コーンフィールドから聞いておったが……無事に、」
「お父様!!」
 ローラが国王の下へと走り、そして飛びついた。
「ごめんなさい、お父様!」
「良くぞ無事で帰ってきてくれた、ローラ。……守れずに辛い思いをさせた。」
「お父様は悪くありません!私が……。」
 涙声で抱きしめあう親子は、とても美しく、麗しい。
 ああ、よかったと、アルフは心の底から胸をなでおろした。
 この幼子がローラだと知って驚き、ざわめいた兵士もいたが、やがて落ち着いていった。
 アルフは国王に膝をつく。かつての嫌悪感はまったくなくなっていた。
「申し訳ありません、国王様。私は……、」
「おおアルフよ!全ては古い言い伝えのままであったな!姫を救い出し、そして竜王を退治し、光を 取り戻してくれた。礼を言うぞ!!」
 さえぎるようにいう国王に、アルフは頭をたれた。
「いえ、国王や姫を初め、さまざまな方の尽力あってこそでございます。城に寄贈されていたロトの 鎧もこうして拝借してしまいました。どうぞ、お返しいたします。」
 アルフが袋を前に出すと、国王は目で合図をし、兵士が袋を持っていった。
「ほほう、ロトの鎧を取り戻してくれたのだな。すなわちそなたこそは真のロトの勇者の血を引く後継者! ……そして、そなたこそこの世界を治めるにふさわしいお方なのじゃ!!」

「……は?」
 あまりの理論の飛躍に、アルフは思わず固まった。
「……なんと、おっしゃられましたか?」
 同じことを言ったことがあるなと、呆けた頭でそう考えた。
「世界が光を取り戻した今でさえ、国は疲弊しており、人々は力強き王を求めておる。わしのように 老いた者ではなくな。わしに代わってこの国をおさめてくれるな?」
「……恐れながら、王様、人間違いではございませんか?」
 アルフはそう言葉を返す。旅立ちの時と同じように。
「私はアルフ=コールフィールド。ラダトーム建国以来より続く、呪術師の一人息子です。勇者でもなければ、国王でも ありません。」
 アルフはまっすぐに国王と、そしてローラを見た。
「かねてからのご依頼、いまだ果たせておりません。私はそれを果たす日が来るまで、二度と呪術師をやめる気はないのです。 ですから、私は、これから旅に出ます。ご依頼を果たす呪術を探す旅に出ることをお許しください。」
 そう言ってアルフは頭を下げ、立ち上がる。だが、そこに声がかかった。
「待って!その貴方の旅にローラもご一緒させてください!」


「はぁぁ?!!お前何考えてんだ!せっかく王様にも会えて……!!」
 思わず叫んだところで我に返る。あろうことか、国王の前で、その娘をお前呼ばわりし無礼な口を聞いてしまった。
「……、せっかく、城に帰れたんです、姫様。必ず呪いを解く術を見つけて戻ってきます、それまで お待ちください。」
 なんとか取り繕うが、ローラは首を振った。
「……もう待っているだけなんて嫌なんです、アルフ。」
「姫様、私が信じられませんか?」
 アルフはまっすぐにローラを見る。このままでは押し切られる。卑怯だと分かっていながらも、 アルフはじっとローラの目をみつめて力強く言った。
「……俺を信じて待っていてくれないか。」
「信じているから、一緒に行くのです、アルフ。」
 その言葉を、ローラはそのまま打ち返した。
「必ずアルフは呪いを解いてくれると信じています。呪いを解けたら一番に見せると約束したでしょう?」
 アルフは助けを求めて国王を見る。国王はこほん、とわざとらしく咳払いをした。
「アルフ、そなたが助け出してくれた我が娘は、17歳という花の時期でありながら、呪いのために病弱で、 自室から一歩も外に出ることができぬ。どうか、アルフよ、依頼どおり、その娘の呪いを解き、わしに麗しく 元気な娘の姿を見せてくれぬか。……頼む。」
 遠まわしに言われたその言葉に、アルフははぁ、と深いため息をついた。
 とっくの昔に罠にはまっていたのだと、アルフは遅まきながら気がつく。 だが、すでに手遅れで、ローラはにっこりとそれはそれは可愛らしく笑った。
「このローラも連れて行って下さいますわね?」
「……降参だ!……一緒に来い!必ず元に戻してやる。」
 アルフがそう言うと、ローラは国王にぺこりと頭を下げ、アルフの元に走った。
 そうして二人は、そのまま城を出て行ったのだった。

「まずは、アルフのおじいさまに挨拶しなければ。」
「ああ、じーちゃんにはまた苦労かけるけど、しかたねーよな。まぁ、時々は顔出すか。」
 ぱぁっと輝いたローラの笑みを見ながら、アルフは思う。
 長く、あての見えない旅になるだろう。
 けれど、それは決して辛くない旅のはずだ。
 この旅の果てには、きっと常若の乙女より、もっと美しい乙女の笑顔が見られるはずなのだから。


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