身支度はすぐに整った。このご時世ではめずらしく、アルフは旅慣れている。 とある香草を細かくちぎり、体に振りまく。 「大地の子よ、風となり我を護りたまえ。」 そう呪を唱えると、香草はそのままくすぶり煙を発する。 この煙はモンスターから気配を感じさせにくくなる。あくまでも感じにくくなるだけで、 見られてしまったり、音を発してしまえば意味がないのだが、慎重に旅をするには十分ではある。 旅の道具も一通り持ち、アルフは町を出た。 ロトの御世のように、世界から太陽が消えたわけではない。ただ、どんよりと薄雲りな日々が続いているのは たしかで、人々はどんよりとした気分になりつつある。 (あれが呪いか……。) おそらく完成すれば世界は闇に沈み、今より強力なモンスターが闊歩するようになるのだろう。 しかしだからといって『世界は俺が守る!!』なんて使命感に燃える気にはまったくならない。とりあえず 竜王が呪術を使うならばそれを解析し、竜王を弱体化できるのならば、その後は兵士たちに城に攻め込んでもらってもいい。 (うん、自分は弱体化するために、ある場所から離れられない儀式をするとか言っとけば、そこそこ勇者らしく 戦わない理由になるんじゃないか?) 呪術師は戦うことが仕事ではない。身を守るため、材料を集めるために戦うことはあるが、傷つけるため、殺すために戦うことは しない。それはアルフの呪術師としての誇りだった。 その誇りが臆病者の言い訳だと言われれば、アルフはうなずいてこう言うだろう。「臆病で悪いか」と。 アルフは身をかがめる。目の前にドラキーがいたからだ。木の陰にじっと身をひそめると、ドラキーは気がつかずにそのまま とびだって行く。息を吐いて立ち上がろうとすると、その近くにいたゴーストと目が合う。 アルフはためらわず跳ねるように立ち上がり、そのままゴーストに剣を振り下ろした。 ためらってはいけない。時間が長引けば長引くほど、仲間を呼ばれる可能性があるのだから。 ゴーストを倒したことを確認すると、周りを見渡し、他にモンスターがいないことを確認すると、モンスターなら必ず あるという心臓部となる結晶を拾い上げた。路銀はいくらあっても困らない。 そうこうしているうちに、やがてガライの町が姿を現した。 町に入ると、入り口で竪琴を引いている男が、顔を上げた。 「よぅ、アルフじゃん。どうした?なんか足りないもんでも出てきたか?またリューダの貝殻とか?」 「えー、あー、いや。」 外海に近いガライの町は、内海の側にあるラダトームとは違い、いくつか媒介にふさわしいものが流れてきたり しているので、アルフは町の人間に顔を知られている、そんななじみの町だった。 「いや、ちょっと、じーさんの野暮用。それよりお前、歌の方はどうだよ?」 アルフは捨て身で話をごまかすことにした。ロトだと知られるのは致命的にまずい。それくらいならば。 「ああ、聞いてくれるか?そりゃあもう、傑作ができたんだぜ!!」 彼はこの町の創始者かつ、伝説の吟遊詩人ガライに憧れ、吟遊詩人の修行をしている身。そして、 「#$ΞΠΨξ∽◆〜♪」 才能がないと誰もが太鼓判を押す、知名的な音痴でもあった。 どれほどの時が流れたかわからないが、気がつくと、その破壊的な音楽は終わり、くらくらする頭を抱え、アルフは苦笑いする。 「……声量、あがったな……。」 「そりゃ、修行してるからな。俺もガライみたいに伝説を語る吟遊詩人になってみせる!、と、そういえば知ってるか?」 「ん?」 「ガライの墓がなんかおかしいんだってよ。どうやらモンスターが入り込んだらしいぜ。」 アルフの頭が覚醒する。 「この町にか?でもなんともなさそうだけどな?」 「いや、別のところから入り込んだ、らしい。なんせ墓は、元々立ち入り禁止だしな。ラダトームが襲われて、今度は この町かと思ったんだが、モンスターは墓から出ないらしい。」 そういわれ、少し考える。何か関係はあるだろうか。 「へぇー、そりゃ残念だな。ま、修行がんばれ。」 「おう、モンスターも強くなってきてるらしいから、気をつけろよ。」 結局アルフは言ってみることにした。強くて大変そうなら引き返せばいい。 それはおそらく、ただ逃げているだけではないという、自分への言い訳だったのだけれど。 平和だった頃、ガライの墓は観光名所だった。巨大な墓に、祭壇のようなものがあり、 花が供えられるようになっているのだ。 だが、その内部は人に触れぬように巨大な地下迷宮となっている、という噂は聞いたことがあった。 その墓の周りをぐるりと周り、裏手に向かう。すると案の定、なにやら不自然に立っている男がいた。 「ちょっといいですか?」 「ん?」 「俺、ラダトームの呪術師なんですが、最近モンスターが増えたって言うこの墓の調査をしたいんですが。」 「な、なにを、いきなり突然……。」 男はあせったように周りを見る。アルフは小さな声で囁いた。 「大きな声では言えませんが、王様からのご依頼なんです。このままではこの町もドムドーラの二の舞に なるのでは、と。」 これくらい利用させてもらってもいいだろう。それを聞いて男はそわそわし始める。 「な、いや、だがしかし、ガライの墓は神聖なる墓所で……何よりモンスターが相当いて、危険だぞ?」 そう言われると、そこまでして入るのもな、という気になってきた。呪いがあると決まったわけでもなく、 それが竜王と関係しているとも限らない。 「そうですか……、じゃあ、」 「いやでもだ!!その、積極的に入れるわけにはいかないが、その、そなたが入り口を見つけて入っていく 分には、だな……、」 アルフの心変わりを読み取ったのだろう。男はそう言ってアルフを呼び止めた。入れてはいけないという違反を するのも怖いが、モンスターが町の側に巣くっているのも怖いのだろう。 帰りそびれてしまったアルフは、そのままその男の側を離れる。 人間の心理として、物を隠す時にはやはり目に付きにくいところ、暗いところに隠してしまう。見渡せば、妙に薄暗い ところに荷物が積まれている。 そこへ向かうと、先ほどの男がなにやら動揺しているのが分かった。 荷物の影になっている横側の壁を押すと、音もなく、その壁は反転し、アルフは壁の中側に入り込んだ。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||