〜 呪術師の冒険 〜


 アルフは入ってすぐ、困惑した。
 洞窟に入ったことなら何度もある。材料を求めにきのこやコケ、時には鉱石を採りに行くこと 日常茶飯事だった。
 だが、それはおおむね中の事情を、冒険家たちから情報を買ってのことだった。
 おそらく迷宮と言われているところに、地図もなく入るのは初めてだった。
 とはいえ、アルフには一応迷宮脱出の呪文が使える。まして元々人を迷わすために作られたわけでも、 天然の洞窟でもないのだから、それほどはややこしくないはずだった。
 再び気配除けの呪術を施し、アルフは慎重に足を運んだ。


 身を低くして壁に張り付くように歩き、こちらに気づきそうな敵を、そのまま下から切りつけていく。 周りの敵に気がつかれないように、一瞬で。だが、ここに集った敵も一筋縄ではいかない。 しりょうの騎士はアルフが切った逆の手を人ではありえぬ角度で振り上げ、肩に切りつけてきた。 なんとか斜め後ろに飛びよけるも、腕を軽く切られる。その痛みを無視して、アルフはしりょうの騎士の 頭を叩き割った。
 終わったあとは速やかにその場を離れ、周りにモンスターの気配がないことを確認すると、その場に座り込んだ。
(なんで……俺、こんなこと、やってんだろ……。)
 つい先日までただの平凡な呪術師だったはずなのに。いや、今だってそうだ。すでに傷だらけになった体を 呪文で癒しながら、切れてきたスタミナ感じながら息を吐く。
 思ったよりはモンスターはいなかったのが救いだったが、思ったよりこの墓は迷宮めいていた。
(誰がこんな墓見舞うんだよ、ちくしょう……。)
 もういっそ引き返したいくらいだが、アルフがそうしない理由は二つあった。
 一つは、迷宮の奥から聞こえてくる音。
 ポロンポロン……ポロンポロンポロン……
 途切れ途切れに聞こえてくる音は、どうやらモンスターを魅了するらしく、おかげでアルフもそれほど敵と戦わずにここまで こられた……それでも、ここにいる敵は中々手ごわく、だいぶ苦戦させられたが。
(……これで、呪いくさくなけりゃ帰るんだけどな……。)
 もう一つは、その音から聞こえてくる、猛烈な呪いの気配。それも感じたことのない強烈な呪い。しかし それにしては、効力が弱すぎる。モンスターが凶暴化している気配はまだないし、むしろ音のおかげで 散漫になっている。おそらく効力はモンスターを呼ぶ、ということではなく、これはあくまで副次的な 効果なのだろう。
 解けるかどうかはわからないが、二度手間になる前に、一度見ておかなくては。
(俺って呪術師の鑑だよな!)
 アルフは頭の中で自画自賛を叫ぶと、再び歩き始めた。


 リカントマムルの爪が閃いたのを、アルフはなんとか剣で受け止め、押し返してから思いっきりけりつける。
「ギラ!」
 アルフの呪文と共に発せられた炎が、モンスターを焼き去った。
「ようやく、ついた……。」
 あっちこっち迷いつくし、ようやくたどり着いた最下層。目当ての鳴り響く竪琴を見ると、アルフは顔をしかめた。
 その周りに、真っ赤な血で描かれた魔法陣があったからだ。


 アルフは座りこんで、魔法陣の文様を読み解く。自らのメモを取り出して、一つ一つ書き写した。
 そうして読み取った結果、アルフは舌打ちした。
(……四の陣かよ……。)
 四の陣は、もっとも単純かつ基礎的な陣で、対象を囲むように四つの場所に呪を刻み、力を蓄える、というものだ。 いわゆる結界の基礎的なもの。だからこそ応用も利く。
 もっとも強力なのは、その四つの場所に力ある者を配置することだが、この術者、おそらく竜王は部下を配置せず、 力ある魔法陣と、力あるアイテムを置くことで呪の力を強めたらしい。
(この魔法陣、文様はそう複雑じゃねーのに、力が尋常じゃねーぞ?なんで書かれてる?竜王自身の血、か?)
 もしそうならば、相当強い力を持っているということが再認識されるわけで、アルフは息を吐く。
 陣を踏み消すということは避け、アルフは聖水と月桂樹、そしていくつかのスパイスを取り出すと、それを振りまく。
「空に大地に水に火に、移る映る代わる変わる、聖なる力よ、歪みを正し、あるべき姿に。」
 アルフの呪文に、魔法陣はぱん、と弾ける音を立て、消えた。

 とりあえず竪琴を手に取ると、その竪琴の音はやんだ。
(なるほど、竪琴は元々、ガライの血縁以外は弾くと魔物を呼び寄せるのか。)
 だが、それを利用してモンスターを呼び、魔の力邪の力、そして人の不安なる思いや気持ちを 重ねようと、竜王はこれを配置したのだろう。
 そしてそれに対抗するべく、竪琴は弦を切り、結果音は途切れがちになり、町へは被害は出なかった。
 竪琴自体は呪われてはいないのだが、魔法陣によって邪悪なる意思にさらされた時間が長く、取り扱いが 面倒くさい代物になっている。置いておいてモンスターが利用することになればやっかいだ。
 清めることはできるのだが、間違いなく壊れてしまう。
(さすがにこれ、壊したらまずいだろうしな……。弁償じゃすまんだろうし。)
 荷物の中から教会で清め、かつ文様が記してある袋を取り出すと、そこにしまいこむ。これで、邪の 波動は封じ込められるはずだった。
 そこまですると、アルフは地上に出るために呪文を唱えた。


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