〜 Armchair Detective 〜 宿に帰っての夕飯は険悪なムードだった。レオンとリィンはお互いにらみ合いながら口も利かなかったし、ルーンはあえて 何も言わなかった。宿の女将が心配していたが、ルーンがにっこり笑って適当な説明をすると、 いぶかしげに思いながらもそっとしておいてくれた。 そうして、一通り体を洗い、部屋に戻ってきた。今日は三人別々の部屋を取っていたので、ルーンは 部屋のベッドに一人、腰をおろしていた。 時折ころんとベッドで転がってみたり。また起き上がってひじをついたり。そうやってルーンは今日の 事を必死で考えていた。 自分には、二人の会話の半分もわからなかった。それが悲しかった。 でも、だからこそ―――――――――。 乱暴なノックの音がする。ノックだけで相手がわかることがおかしくて、ルーンは笑った。 「レオン？開いてるよ――。」 「おう、入るぜ。」 扉を開けて入ってきたのはやはりレオンだった。 「どうしたのー？」 「いや、まぁな…」 レオンは頭を掻きながら苦笑していた。 「やっぱ考えるのは俺には性に合わねえわ。ルーン頼むわ。」 その言葉が嬉しくて、ルーンは笑った。 「いいよー、僕レオンのこと大好きだから、レオンの助けになれるの、嬉しいよ。」 「…お前、よくそんなこと普通に言えるよなー。」 「だって本当のことだもん。」 「だからこそだろうがよ…」 ルーンの笑顔にレオンは頭をか抱えるが、ルーンはまったく気にしてなかった。 「それより、僕、なんにも分からないんだー。何にも知らないから、教えてくれる？フェオさんのこと。」 「あー、そういやそうだったな。」 「禁忌って…フェオさんが国を出て行っちゃったからだよね。…一から教えて欲しいな。」 「ああ、いいぜ。長くなるから覚悟しろよ。」 その場にどかっと腰を下ろし、ルーンと向き合った。 「フェオはフェオストラス・ルミナ・ロト・ムーンブルク。多分３０歳越えたくらいだったと思うぜ。 魔法と剣を兼ね備えた魔法剣士で、特に癒しの術が得意なやつだった。」 そう話すレオンは、とても楽しそうだった。 「俺がフェオと会ったのは、３つの頃だった。その時俺は、チャンバラに夢中でさ。しかも皆負けてくれっからさ、 俺、目茶目茶強いと思ってたんだ。で、こてんぱにされたってわけだ。」 「…フェオさんて、大人気ない人ー？」 「いや、そりゃちゃんと手加減してくれたぜ。けどな、駄々こねる 俺に、剣を持ったら相手が油断してくれると思うほうが間違いだって言ってたぜ。 …多分俺のためだろうな、あの時負けさせてくれたのはさ。そういうやつだった。優しくて、ぼんやりしてるところも あるくせに、どっか筋が通ってて、自分の考えを決して曲げないやつだった。」 目の前にいる、薄い色の髪の少年を眺める。…とても似ていて、やっぱりどこか違う。 「それから二年だ。…フェオが幽閉されたのは。ちょうど…姫が生まれて二ヶ月後くらいだから、ちょうど１３年 前かな？」 「姫ってセラのことー？」 「ああ、そうだ。幽閉って言っても、国の公式行事や、フェオがいないとおかしい時は外に出てた。」 「…どうして、幽閉されちゃったの？」 ルーンは確信に触れた。だが、レオンはあっさりと答えた。 「フェオは、国を継ぎたくなかったんだ。フェオは…神官になりたかったんだよ、ずっと。でもムーンブルク王はそれを 許さなかった。だから言うことを聞くまで、城の尖塔に閉じ込めたんだ。」 「王様になるのが、嫌だったの？」 目を丸くして言うルーンに、レオンは頷く。 「あいつは…性に合わないって言ってた。王様は国民を守るために他のものを切り捨てなきゃいけない。でも あいつは、それは嫌だったんだ。全部助けるのは無理でも全てを助ける努力をする、努力をしてもいい事をしたかったんだって 言ってたよ。」 「王様だと、駄目なのかな？」 「駄目だろうな。ほら、チェスだってそうだろ。キングを守るために兵士を見捨てたりしなきゃいけねえだろうが。」 「うん、そうだねー。」 頷いて、ルーンは立ち上がった。戸口まで出て、扉をあける。 「リィン、入っておいでよ。」 そこにはリィンが立っていた。 「お前、いつからいたんだよ！」 レオンが顔を赤くして叫ぶ。 「ほとんど最初からですわね。」 「王女様ともあろう者が、立ち聞きなんていい行儀だよな？」 「あら、わたくしは貴方と尊敬する兄と同じ行儀作法を学んでおりましたわよ？」 つんとして言うリィンに、レオンは食って掛かる。 「そりゃ、本人の素質だろうな！」 「そうですわね、私は間違っても兄のような愚かな行動をとるつもりはありませんから。」 その言葉に、レオンはにらみをきかせる。 「んだと！」 「なんですの？」 「落ち着いてよー、レオン、リィンー。リィンはなんの御用？」 ルーンの言葉に、リィンは適当な椅子に腰をおろしながら言う。 「わたくしも、レオンと同じですわね。一人で考えていても埒があかなくて。他者に客観的な意見を求めようと 思いましたの。」 「っは！偉そうなこといっておいて、それかよ。」 「レオンに言われたくはありませんわ。」 またもやにらみ合いがはじまるが、 「二人とも、僕に会いに来てくれて、とっても嬉しいよーありがとう。」 ルーンの言葉に戦闘態勢を解いた。 |
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