精霊のこどもたち
 〜 それは、君に吹く風。 〜

 暗がりの中、三人はひたすら地下に潜っていく。もう、どれくらい潜ったか忘れそうなほどの 深い階段。三人は敵を払いながらもくもくと下っていた。
 最初、リィンはルーンのことが気になって仕方がなかった。先ほどの涙のこと。ルーンの気持ち。 そんなことが頭から離れなかった。
 だが、今はそのことを頭の端に追いやっていた。なぜなら。
「…やっぱり、なんかおかしな気配がするぜ…」
 おそらく最後の階段。それを下り始めたときから、ずっとしたから気配がしたのだ。波動… ともいえるだろうか。今まで感じたことのない存在感が、体中にまとわりつく。
 ああ見えてもリィンとて次期女王の資格をもちながら育った人間だ。重要なときに私事にいつまでも とらわれる人間ではなかった。
「うん…ずっと感じるね…。なんだろう…」
 恐ろしい、と言う感情はなかった。ただ、圧倒的な違和感…ゆらゆらと、違う空気が体にまとわりつくのを 感じていた。
「…光が、見えるわ…」
 今まで暗かった空間。にもかかわらずあふれる光。…何かがいる。それは間違いないようだった。
 階段は、気がつくと残りわずかになっていた。レオンが先頭を、リィンが真ん中を、そしてルーンが しんがりを勤めて、最下層についた。


 そこは、今までの無骨な洞窟が嘘のように華麗な部屋だった。まさに玉座の間と言えるだろうか。 白い大理石の柱にはちゃんと彫刻が彫り込まれてあるし、壁にも装飾が施してある。松明台も なんとも美しい花の形だった。
「なんだぁ?」
 むしろおどろおどろしい姿を想像していたため、拍子抜けするレオン。
「綺麗だねー。」
「ですが、ここには何かがいるということですわ。…それもおそらく位の高い。」
「ああ、感じるな。…行こうぜ。」
 レオンの言葉に頷き、一行は足を進める。迷う心配はなかった。不思議な空気は、 一方から流れていた。それを追えばいい。
 少し入り組んだ道を進み、いくつかの部屋を越えた。そうして、終点。
 最後の部屋だった。そこには大きな松明と、立派なじゅうたん。そして重厚な玉座があった。
 そして、その玉座には、人ならざるもの。
「竜王…」
 レオンの乾いた声が、もれた。


「ほう、おぬしらは…ロトの、末裔…」
 どこかくぐもった響き。それは、人ならざる声。
「…だれだ、お前は!!」
 ロトの剣の柄をしっかりと握りながら、レオンは竜王に怒鳴る。
 気が高揚していた。それ以上に、恐怖も感じていた。
 誰だと聞いたものの、レオンも他の二人も『竜王』だと確信していた。
 黒い肌の色。頭にある大きな二つのこぶ。つりあがった目。
 それはモンスターとは違う、未知の生き物。そして、そこに秘めた強大な力を思い、手が震えた。
「よく来たな、レオン、ルーン、リィン。わしは王の中の王、竜王のひ孫だ。」
 その言葉に、三人の体がびくっと震えた。
「どうして、僕たちの名前を、知っているのですか?」
 ルーンが恐る恐る聞く。
「わしはこの場にいて、望むものを見通すことができる。…ただひとつのものをのぞいて。 お前たちに何も言わなかったのは、用があったからだ。」
「用?」
 ルーンが首をかしげる。竜王は抑揚に頷く。
「うむ。最近ハーゴンとか言うやつがえらそうな顔をして幅を利かせているという。実に不愉快じゃ!」
 ハーゴンの名を聞き、リィンの顔がゆがんだ。
「そなたら、ロトの勇者の末裔じゃろう。わしに代わってハーゴンを倒してはくれんか?」
 三人は一瞬絶句した。
 レオンはあっけに取られて。ルーンは思案するために。そして、リィンは…怒りのためだった。
「そんな、そんなこと、言われなくとも…」
 押し殺した声で、そういった。握ったこぶしが震えている。
 誰がなんと言おうと、ハーゴンと対面し…国の仇を討つのだから。それが、自分自身で決めた事なのだ。
 …それだけが、今の自分に残っている…最後の…
「リィン、落ち着いて、ね?」
 ルーンの言葉に、リィンの思考が中断される。
 にっこりと笑うルーンの顔を見ていると、徐々に落ち着いてきた。
「大丈夫だよ。ちゃんとリィンの気持ちわかってるから。レオンだってきっとそう言うよ。」
「…ごめんなさい。…らしくないですわね。少し気弱になっておりましたわ。」
 そう言って不敵に笑った。

「なんでお前はハーゴンを倒して欲しいんだ?」
 レオンが、率直に聞く。
「あのような者にでかい顔をされるのは不愉快じゃ。」
「それだけか?…そのあと、お前はどうするんだ?…もし、おまえのじーさんとやらと同じことを 考えているなら・・・俺は、俺の先祖と同じことを、今ここでする。」
 そう言って、ロトの剣を抜いた。だが、それを見て、竜王のひ孫は笑う。
「はっはっは、レオンよ。おぬしが勇者にあこがれているのは知っとる。が、わしはその気はない。 安心せい。わしは、おぬしらを歓迎しておるのだ。」


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