精霊のこどもたち
 〜 謎を求めて 〜

 不思議な音色を響かせながら、レオンとリィンはラダトーム城下町を歩いていた。
「もう、レオン、いつまでも笛を吹くの、やめてくださる?」
「いや、なんか変な音だよなーと思って。」
 レオンが手に持っているのは、ルプガナの商人から譲り受けた「やまびこの笛」と呼ばれるものだった。
「けどなぁ、なんか知らないけど役に立つかも知れねーって…ほとんど詐欺だよな…」
 笛をもてあそびながら、レオンがぼやく。
「でも、魔力を感じることは事実ですわ。ルーンはそのあたりも調べてくださるそうですし、わたくしたちは 予定通り、ラダトーム王を探しましょう。」

 あのあと、三人はルプガナに行き、商人に積荷を渡した後、ラダトームの王弟に目通りして報告を済ませた。 ルーンが嬉々として図書室にこもっている間、二人は王弟の頼みでラダトーム王の行方を捜すことにしたのだ。
「多分、町ん中にいると思うんだけどな…」
「魔物を恐れる王が、魔物がはびこる大地を一人で逃げられるわけはありませんものね。」
 町は不思議なほどの活気だった。まだ王が逃げ出したことが伝わっていないのだろう。ロトの血筋を導く、 清められた城の守りを、疑っている国民はいなかった。
 商人が声を張り上げ、商品を売っている。子供たちが楽しそうに鬼ごっこをしている。どうやら子供の一人が こけたようで、泣き声が響き渡った。主婦が何人か集まって井戸端会議をしている。
「…こんなに、楽しそうな国民がいるのに…」
 ぼそりと悔しそうにつぶやいた、リィンの声。楽しそうな声に掻き消えたその言葉は、今のリィンの原動力だった。

「お兄さんたち、雨つゆの糸、いらない?」
 それはレオンの耳元で響いた。反射的にレオンは声の反対方向へと飛び去る。

「雨つゆの糸?」
 リィンが聞き返す。聞き覚えのない言葉だった。
「ええ、雨つゆの糸は空の恵み。天上の雨粒の結晶。その糸で織り上げた衣服はどんな炎からも身を 守ると言われております。もっとも扱いが難しいですから、雨つゆの糸だけで衣服を作り上げるのは よほどの名人が特別の織り機で作らないと無理でしょうね。」
「では、あなた方は何のために?」
「刺繍を縫うんです。きらきら光って綺麗ですから。あとはお守りに買っていかれる方や、お土産代わりに 買われる方もいらっしゃいますわ。丈夫ですからほつれや破れの修復にもいいんですよ。えっと…」
 そう言って商人はごそごそと棚をあさって。
「あら?ごめんなさい。品切れだったみたいですわ。」
「んだよ、それは…」
 遠巻きにつぶやくレオン。
「しばらく品切れになりそうですね。ドラゴンの塔の三階までたどり着ける人間は、そうそういないでしょうし…」
「ドラゴンの塔?」
 聞き返したリィンに、商人が頷く。
「ええ、いつもドラゴンの塔の3階に落ちているんですよ。」
「ずいぶんと、不思議なところに落ちているのですわね。」
「けど、あったっけ?んなの?」
 レオンの言葉に、リィンがあきれたようにため息ひとつ。
「何を今まで聞いていらっしゃいましたの?ドラゴンの塔は双子の塔。わたくしたちは片方にしか 訪れておりません。」
 二人のその様に、女はくすくすと笑う。
「かわいらしいカップルね。」
 二人の顔が一気に朱に染まる。
「「違う!!」」
 ほぼ同時に、発せられた言葉は、女には聞こえていなかった。女は笑いながら店内へと戻っていく。
 ほてった顔を戻りながら、二人は同じことを考えていた。それは根拠のない安堵。
(ルーンがいなくて、良かった。)
 何故だか分からないまでも、なんとなくそんなことを思って、二人は息を吐く。
「…行こうぜ。とっとと町を回ろう。」
「そうですわね。」
 その言葉だけで、お互いが先ほどのことを忘れた。
 お互いが、強く気高くいられる関係。自らを一瞬で取り戻せる相手。
 お互いが側にいられることを、深く感謝しながら、町の散策を再開した。


「王様、見つかったー?」
 机の上に積み上げた、膨大な本の森の中からルーンが顔を出す。
「お前…この本、全部読んだのか…?」
「知ってるところは飛ばし読みだから、全部は読んでないよー。」
 のんきに笑うルーンを余所に、レオンは自らのの身長ほども積み上げられた本の柱たちにうんざりとした。
 そして、それに介さずリィンはルーンの現状の報告をする。
「銀の鍵をもって見られるところはすべて見たつもりよ。とりあえず発見はできなかったわ。ただ、怪しいと思うところは あったの。けれどそこは金の鍵で封鎖されていて、わたくしたちには見ることは出来なかったわ。」
「そっかー。じゃあ、金の鍵、探しに行かなくちゃねー。」
「そうね、ルーンには何か発見はありまして?」
 ルーンの隣に腰掛けながら、リィンがそう聞くと、嬉々として語り始める。
(…これが始まるとなげぇからな…)
 レオンはあくびをひとつすると、いつ睡眠に入り込んでも良いように近くの椅子を手繰りよせて背もたれに体重をかけた。

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