〜 巡る、歴史 〜 扉の先も、暗い廊下だった。あまり人が入らないのだろう、少々埃っぽかった。 「…同じか?」 「…けれど、肖像画がかかっておりませんわね。」 周りをきょろきょろと見回す二人に対して、ルーンはただひたすら、奥に歩く。何かに導かれるように。 「この奥に、何かがあるんだ。…僕、確かに見た。見たのに…思い出せないんだ…」 そうつぶやくルーンの横に、二人が並び立つ。 「気にすんなよ、実物見りゃ分かるんだ。」 「そうですわ。行きましょう。」 足音が、廊下に響き渡る。終点は、そう遠くはなかった。 手前に、大きな肖像ががあった。 神の金属を身にまとい、勇者の証を持った見慣れた顔の青年が、赤金色の髪をした見慣れた顔の美少女と 寄り添っている様の肖像がだった。 もちろん三人は、これが誰だか知っていた。 「…アレフ様と、ローラ姫?」 リィンのつぶやき。 「うちに飾ってある肖像画より若いな、二人とも。」 「多分、旅立ちの直前の姿なんじゃないかな?僕んちと比べても、あちこち表情とか違うのは… もしかしたらはっきりと目の前でモデルをしてもらったせいじゃないかもしれないね。」 「つまり…旅立ったあと、画家が空想で描いた…と、いうこと?」 リィンの言葉に、ルーンが首を振る。 「想像じゃなくて、画家は見てたんじゃないかな、この二人を。その後その記憶を元にして書いたのかもしれないね。」 幸せそうに笑うアレフとローラ姫。それは旅立ちの瞬間なのだろうか。 「かもな。にしても、若い分だけ姫に似てるよな、この絵。」 レオンに言葉に、リィンが冷たく言葉を投げる。 「…自分の事を棚に上げてよく言うわね。」 「でもそうだねー。レオン、本当にアレフ様にそっくりなんだねー。」 三人の城に飾ってある肖像画は建国時のものだった。当然芸術としてそこからロトの鎧などを着せた絵はたくさんあるが、 それと比べても、この絵は若々しかった。 「そうだな。」 自分に良く似た他人。正確には先祖だが、それでも自分でない自分。 こうなりたいと、ずっとこだわっていた。同じ勇者になるのだと。たった一人で世界を救うような、勇者に。 その気持ちに、今も変わりはない。…けれど。 「もっと奥があるみたいですわ、行きましょう。」 リィンのその言葉に、レオンは気持ちを切り替えた。灯りを持っているのは自分なので、ぼんやりとしているわけにはいかない。 「ああ、そうだな。」 終点は、そう、遠くなかった。 壁に一番違い場所。そこにある、一枚の絵が、この廊下の終わりだった。 レオンの持つ光に照らし出された瞬間、三人は棒立ちになる。 その絵に描かれていたのは二人。 黒い髪と青い瞳を持ち、神々しい鎧に包まれながらも場違いなほど優しい笑顔で微笑む少年と、 先がカールがかった青い髪と青い目を持ち、額に『賢き証』と呼ばれる冠をつけた、この世のものとも思えないほど 美しい少女。 そしてその顔は、目の前にいるルーンとリィンに他ならなかった。 「ルーン…?リィン…?」 レオンは絵と二人を見比べる。二人は声も出ないようで、ただ食い入るように絵を見ていた。 もう一度、絵を凝視する。顔は、間違いなくルーンとリィンだったが、目の色が違う。そして、 絵のルーンが着ている鎧を見ると、答えはひとつだ。 「ロト…?」 ロトの肖像画は本家のローレシアにも存在しない。モチーフとしてかかれた絵は多数存在するが、正確な姿を映したものは ないはずだった。ロトはアレフと違い、伝説となった直後、姿を消しているからだ。 生まれた時から見ていたレオンとの違いだろうか。二人はまだ口も利けないようだった。 (誰かの…こんな姿を見るのは…二回目だな。) その時とはずいぶん違う。その人のその時の姿は、今も胸に焼き付いて…決して離れてくれない。 ルーンとリィンは唖然として見つめていたが、あの人は、まるで目の前の絵を仇のようににらみつけて… そして泣いていた。 その姿が。今も。 「…僕が、見たのは、これだった…うん、思い出した…」 ルーンがようやくそう言って、息を吐いた。 「僕は、あの時も図書室にこもって、あの本を見つけて。真っ暗だったけど、本を見るために灯りを持ってたから 奥まで入っていったんだ・・・」 絵をいまだ見つめながら、ルーンはそう語り始めた。 「あの時は…なんでだか分からないんだけどね、取っ手が隠されてなかったんだ。だから僕、一生懸命ひっぱって… ようやく開いて、中に入って…これを見た。」 「時空の扉って、これか!!?」 レオンが思い出したように叫んだ。たしかにそんなことを、ルーンから聞いたことがある。 ”あのね、ぼく、時空の扉を見つけだんだよー” ”あー、そうか、そりゃ良かったな。” ”うん、あのね、未来のすがたが見えるんだよー、すごいねー。” ”おーそりゃすげえな。” 昔の自分達の会話が頭に蘇る。 「うん、僕、これが未来の僕たちの姿なんだってそう思ったよ。あの不思議な扉を超えたから見られたんだって。 …けど、いつの間にか忘れてた。えへへー、僕、馬鹿だねー。」 リィンも、思い出していた。こわばった口をほぐすように、ゆっくりと言う。 「ルーンが風の塔で、わたくしは大きくなったら青い髪になる、と言ってらっしゃいましたけど… これのことですの?」 「うん、これを見て、人間も大人になったら髪の色が変わるんだって思った。僕、この方が リィンの未来の姿だって、信じて疑わなかったから。」 「お前は黒い髪…か。アレフ様とローラ様の髪の色は、俺と姫と同じだから、ますますそう思ったのかもな。」 肖像画がかかっている反対側の壁に、ぺたりと張り付くと、二つの絵が同時に見える。見比べながら、 レオンは微笑する。 「”私”は…この、隣にいる、女性は…一体どなたなのかしら…?」 その言葉にリィンの方を見る。硬い表情。…声は少し震えて見えた。 「…勇者ロトの仲間じゃねえの?」 リィンの様子をあえて気にしないようにレオンが言う。ルーンも頷いた。 「うん、勇者ロトは仲間と一緒に大魔王ゾーマを倒したらしいから。」 「勇者ロトの仲間は…通説では三人だと聞いておりましたけれど…どうして、この方だけ?」 「実は、二人で倒したってことか?」 肖像画からは推測しかできない。だが、その時ルーンは、預言めいた口調でこういった。 「この人…ロトの勇者の恋人だったんじゃないかな…」 二人は、ルーンを見る。ルーンは先ほどの食い入るような目ではない、優しい目で絵を見ていた。 「…勇者様、とても嬉しそうな顔をしてこの人を見ているもの。…特別大切な人なんじゃないかな…?」 その顔は、まるっきり絵の中の勇者と同じ、優しい柔らかな表情だった。 |
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