〜 甘言の宴 〜 「活力」と「協力することの大切さ」を太陽の紋章に教えられた三人は、そのままテパへと向かった。 テパは山奥にある村だった。明らかに世界と隔絶された村。…それは、テパの村の近くにあるという「満月の塔」と 関係しているのか、それとも、月の紋章が…。 逆に言えば、そんな期待がなければ、三人は決してこの村に行こうとは思わなかったのではないだろうか。それくらい、 テパは辺鄙な場所にあったのだ。 昼過ぎに起きて来たルーンが地図を広げる。 「えっとねぇ…ここから一番近くの河口まで、二日、それから、そこからテパに行く道に着くのに一日、それから テパの村に着くのが…うんと、一日くらいかなぁ?」 その言葉にうんざりとしながらも、レオンは船を進めた。三人で周囲に気を配り、ささくれのように分かれた 細い川にぶつからないように慎重に船を進め…太陽の祠からほぼ三日後の昼、ようやく三人はテパのある大陸の 地に降り立った。 「うえー、此処から1日かよ…」 「思ったより道が狭く、険しそうですわね。」 リィンの言葉のとおり、それは道とも呼べないほどの小さな山道だった。 「本当に、外の人、あんまり来ないんだねー。」 「…敵が襲ってきたら足場の確保が大変だな。気ぃつけねーとな。」 レオンの言葉に、心が引き締まった。 「…おそらく一回野宿ですわね。早く出ましょう。早く無事野宿できる場所を探したいですわ。」 「そうだねー。行こうかー」 「ああ。」 三人は荷物を持って、山道を歩く。出てくるモンスターは、ロンダルキアが近くにあるせいか、少々手ごわかった。しかしすでに ベホマを覚えていたリィンのおかげで、順調に進むことが出来た。 「ねー、此処なんかどうかなー?」 そして、太陽が地平線に隠れる直前だった。道から少しだけ視線をずらした林の中に、乾いた平地を見つけた。他の 旅人も同じように野営地にしているのだろう、地面にほんのりこげた後がある。耳を澄ませば離れたところに川の せせらぎ。理想的な野営地だった。 「おお、いいんじゃねえか?つか、さすがに疲れた。休もうぜ。」 「その意見には賛成ですわ。火をおこしましょう。」 「あ、僕やるから。休んでてー。」 その言葉に、リィンは座り込んだ。歩くことには慣れたとはいえ、半日敵と会わないか緊張しながら悪路を登り、 あまつさえ戦闘をしたのだ。疲れで足が震えていた。 「はー。なんだってこんなところに村作ったんだよ…」 「やはり妥当なところでは何かを守るためなのではありません?アレフがロトの装備や伝説の虹のしずくを授かるさい、 ずいぶんと山奥にある祠まで足を運んだと言われておりますし。」 その言葉に、レオンはがばっと身を起こす。 「そういや、城の宝物庫、金の扉だったよなぁ…もしロトのしるしがあれば、なんか役に立たねえか?」 レオンの目はきらきら輝いていた。それを見て、微笑しながらわざとらしくため息をつく。 「…そんなことを言って、結局もう一度手にしたいだけではありません?」 「あはは、だったらうちのロトの盾、持っていったらいいよー。きっとレオンなら装備できるよー。」 薪を集めて火をつけ終えたルーンがそう笑う。 「まじか!」 「ちゃんと返してくれなきゃ困っちゃうけどねー。」 明るく笑うルーンに、リィンが冷たくコメントを加える。 「持ち逃げしたら国際問題ですわね。」 「分かってるよ!!うし!テパの村に行ったら、うちにいこうぜ!!」 嬉しそうに言うレオンは、まさしく夢見る少年だった。食事を取りながらも目にわかるようにうきうきしていて、 ルーンとリィンは顔をあわせて笑った。 興奮して眠れない、と言わんばかりにレオンが最初の火の晩を申し出たので、二人は横になり…疲れが 出たのか、すぐ眠りについた。 そして、さすがに山道が堪えたか、興奮して更に疲れたのか。火を見ているうちにレオンも……ゆっくりと眠りに入って いった。 「…あれー?」 きょろきょろとルーンは周りを見渡す。周りには誰も居なかった。果てしなく、白くにごった世界に、なぜか ルーンは一人で立っていた。 何故此処にいるのだろう。回らない頭でぼんやりと考えながら、ルーンはとりあえずぼんやりと歩く。果てが見えない 世界を、ただ根拠もなしに、歩いた。ぼんやりと…ぼんやりと… そうしてしばらく歩いていくと、向こう側に何かが見えた。ルーンは立ち止まる。 最初はぼんやりとした塊だった。だが、ゆっくりとゆっくりと姿を変え…それは、人の形になった。 董色の美しい髪をなびかせ、ルビーの瞳でこちらに微笑みかける…魂が抜かれるほどの美しさ。ぼやけた頭にも、 それが誰かはすぐに分かった。 「リィン…」 ルーンの呼びかけに、リィンはにっこりと美しく笑う。そして、こう語りかけた。 ”…欲しいものは、なに?” 「え?」 ルーンが首をかしげる。リィンは優しくルーンに問いかける。 ”ルーンが欲しいものは、なぁに?なんでも言って。今のわたくしなら、何でも叶えて差し上げるわ…” そう言うリィンの表情は、蠱惑的でさえあった。男なら誰もがひきつけられる。 ”ねえ、ルーン。ルーンが欲しいものってなぁに?わたくし、ルーンに願い事を叶えて差し上げたいの。 何でも言って欲しいの。…ねぇ、ルーン…?” それは、抗いがたい魅力に…いや、抗おうとすら思えないほどの魅力的な言葉と、魅力的な人物。きらきらと 世界が輝く言葉。 ”欲しいものはなぁに?全てを打ち倒す力…?何よりも強い魔力…?何でも良くてよ、何でも貴方に差し上げるわ…。” 体全体で、リィンは微笑む。本当に幸せそうに。 ”それとも、欲しいのはわたくし…?…もしそうなら、本当に嬉しいわ。…わたくし、ルーンにもらっていただきたいもの… ねぇ、ルーン、欲しいものはなぁに?” ルーンは何も言わなかった。ぼけた頭ではなにも考えられなかった。言えば良いのか。自分の望みを。言ってしまっても、 良いのだろうか…? ずっと黙っているルーンに、リィンは怒らなかった。にっこりと微笑えんで、手を差し伸べる。 ”こちらに、来て、ルーン。そうすれば、貴方の望みは何でも叶うわ。レオンよりもすごい剣の腕と力も、わたくしよりも 勝る魔力と魔法の知識も…なんでも叶えてあげられるの。…お願い、ルーン…” 「…いらないよ」 リィンの言葉に、ルーンはほとんど反射的にそう言っていた。 ”…どうして…?欲しくないの…?貴方は全てを手に入れることができてよ…勇者と言う地位と名誉も、世界の全てすらも…” 「そんなもの、いらない。」 きつくそう言って、ルーンはリィンを…リィンの姿をしたものをにらみつけた。 「だって、レオンよりすごい力と、リィンよりすごい魔力を手に入れたら、三人で旅する理由がなくなっちゃう もの。もし僕がそんなに凄くなったら、二人は何をすればいいの?僕、そんなのちっとも嬉しくないよ。三人で旅が出来ないもの。 一人で旅をしても、楽しくないもの。」 ”…そんなの…” 「だからいらないよ。何にもいらない。僕は、…欲しいもの、本当はたくさんあるよ。でも、偽者なんかにもらう物なんて、 何一ついらない。僕は、僕のままで。今のままでいいよ。」 迷いなど、なかった。たとえそれが、世界を救う勇者としては失格だとしても、ルーンにとってはそれは本心だった。 ”ねえ、こちらにいらして…ルーン…?” リィンの形をしたものの呼びかけにはもう答えなかった。剣を抜き放つ。 「こんなことしてる場合じゃないよね。これがただの夢ならいいけど、呪いだったらきっと僕だけじゃないもの。 二人を助けに行かなくっちゃ。」 ルーンは剣を構えて、もう一度にらみつける。そして、ルーンは悟った。その正体が、うごめく化け物だと言うことに。 それは、赤黒い色をした、樹のような姿をしていた。そして、それはこちらに無数の枝を伸ばし、 まさにルーンを取り込まんと迫っていた。 くねりながら伸びた枝は蛇のように蠢いていた。もしルーンがあの言葉に応えていれば、とっくに取り込まれていただろう。 ルーンは剣を振るい、枝の全てを切り、なぎ払った。払われた枝はぼとぼとと地面に落ちていく。ルーンは 剣をもう一度しっかりと握り締めた。 「や―――――――――――――――!!!!」 気合の声を入れると、ルーンは一直線に樹の幹まで走った。 枝の動きは複雑ではなく、触れさせないで払うことは簡単だった。 ルーンは樹の幹まで近づく。幹は樹の幹ではなく、枝のような触手が凝り固まり、 小さくうごめいていた。ルーンは幹を力一杯切り、そこに空間を開ける。 (…レオンの所へ!!) 強くそう念じると、ルーンは開けた空間から、幹へもぐりこんだ。 |
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