精霊のこどもたち
 〜 帰宅騒動 〜

「うー、なんか俺…肩こった…」
「えー、面白かったよー。」
「…興味深かったですけれど…なれないうちは苦労しそうですわね…」
 相談の結果、一度ルーラでザハンに帰り、そこから巫女頭の案内で、近隣にある、ローレシア直通の旅の扉を 使い、三人は無事に帰国した。
 中庭の一角。あまり人が踏み入れないところから、旅の扉に吐き出された三人は、そのまま王の間に向かった。
「…親父か…」
 ものすごく気が重そうな、レオンに、ルーンは笑う。
「きっと心配してるよー。」
「んなかわいげのある親父じゃねえよ…」
「…それでも…」
(会えるだけでもすばらしいことではなくて?)
 そう言おうとして、リィンは口を閉ざす。それは、とても卑怯なことだと思ったからだ。
 だが。そんなリィンの頭をレオンは乱暴になでる。
「何しますの!?」
「んじゃま、とっとと行くか!」
 レオンの呼び声に答えて、ルーンがリィンの背中を押しながら、元気良く返事した。
「うん!」
 リィンはその二人の行動に、苦笑して…それから破顔した。
「ええ!」


「おお!帰ったか、レオン!そなたの各地の活躍は、わしの耳にも入っておるぞ!おぬしのような息子を 持ったのはわしの誇り!いや、ローレシア全体の誇りじゃ!!」
 王の間に入った三人を、ローレシア王は仰々しい仕草で歓迎した。
(…よく言うよ…行きにはあんなに反対しておいて…)
 げんなりとしたレオンであったが、どうやらこの旅は父にとってもプラスになるらしい。どうやら 反対されることはなさそうだ。
「ありがとうございます。父上。」
 あからさまに嫌な顔をしながらも、一応顔をたてておく。その様子に満足して、王は リィンに目を向けた。

「ムーンブルクのリィンディア王女ではないか!心配しておったのだぞ!神の様に美しい女性がわしの息子と 居るという噂を聞いて、もしやとは思ったが…良かったことじゃ。」
 顔のことが言われるのが嫌いなリィンは、少し顔をしかめるが、それでも礼儀正しく頷いた。
「それも、王の善良なるご子息のおかげです。彼は血筋の縁に従い、わたくしを呪いから救ってくださいました。」
「我が愚息がそなたの役に立ったのならば、嬉しいことはない。お父上や城の者たちは残念だったが、そなただけでも 無事で、本当に良かった。」
「ええ、ありがたいお言葉ですわ、ローレシア王。」
 リィンはにこやかに礼を言っているが、目線がどこか冷たいことに、レオンは気がついていた。笑顔なだけに むしろ恐ろしい。
 父王はそのことに気づいてか気づかずにか、にこやかに話を続ける。
「これからはわしがリィン…おぬしの父親代わりじゃ!困ったことがあるならば、いつでもわしに言うのだぞ!! なにせ、レオンは」
「親父!!」
 レオンは言葉を強くさえぎって叫ぶ。
「なんじゃ?わしはリィン姫と話しておるのだ。さえぎるなどと無礼ではないか。」
 レオンがどうしてさえぎったか、即座に理解したリィンは、先ほどの冷たい目線はどこへやら、最上級の笑顔を 王に向ける。
「ありがとうございます。ローレシア王。そのお心、本当に嬉しく思います。そのお言葉に甘えたいのですが、 つきましてはレオンの方からお願いがありますので、お聞き届けいただきますか?」
「もちろんだとも。」
 ローレシア王の快諾の言葉に、リィンはほっと息をつき…ルーンのほうを見た。
 ローレシア王が続けようとした言葉。…それはおそらく『レオンはリィンの婚約者なのだから』と言うことだったのだろう。
 あの砂漠の夜のレオンの言葉を受けるまでもなく、それがばれるのは嫌だと、極め付けにまずいと、リィンは感じていた。レオンも それを感じているのだろう。
 だが、ルーンの様子はいつもと変わりなく、にこにこと笑っていた。気づいた様子も動揺もまったく感じられない。 二人は息をついた。


 レオンはわざとにこやかに笑い、儀にのっとって華麗に礼をした。
「私がリィンディア王女、ルーンバルト王子を伴ってのハーゴン討伐を応援してくださる心、真に感謝しております。 その広き御心、まさに真の王者といえるでしょう。まさに勇者の末裔、私は我が父を、誇りに思います。」
「む、ううむ。そうだな。」
 今までどんな時でもここまで息子にこそばゆいことを言われたことはなかった。レオンにしても、背筋に這い上がる 寒気を必死で我慢しているのだ。
 あれほど偉そうなことを言っておいて、いまさら反対することはあるまいが、念を入れておくことに越したことはない。
 あの父親のことだ。『しばらくは療養を』などとほざき、旅を延期させその間に兵を挙げ、ハーゴンを討つ可能性 も多分にある。そこまでいかなくとも、大勢の兵を共に付けさせることは、十分にありえた。
 旅のためならば、たとえプライドだろうが、浮き上がりそうな歯だろうが、無視してしまうつもりだった。 今、旅をやめるわけにはいかないのだから。
「父の名誉に添えるよう、そして、脈絡と続いてきたロトの血筋に恥じぬように、我ら三人はハーゴンを討ち、 必ずや世界に平和を取り戻すことをお約束いたします。」
「うむ、そなたがハーゴンを倒してくる日を楽しみにしておるぞ!我が息子よ!!」
 王もこの猿芝居に付き合う覚悟を決めたようで、威厳をもってそう答えた。むしろやけくそなのかもしれないが、 そんなことはレオンの知ったことではなかった。レオンはロトの剣を抜く。
「おお…それは…」
「ロトの剣です。かの暗黒の城より我らが見出し、その心に剣は答えてくださったのです。そして その剣の心のより、かのロトの防具を探し出すことにいたしました。盾は盟友サマルトリアの城にあると聞きますが、 王はその他行方をご存知でしょうか?」
 我ながら頬に肉がそろそろ引きつりそうだった。ルーンあたりに残りの説明を押し付けようかと思ったが、 そんなことには気がつかず、ルーンはにこにこと、リィンにいたっては苦笑いでその演技を眺めていた。
(ちくしょう…)
「ふむ…残念だがレオン。ロトの鎧はすでに失われておる。今から三代前の王の従妹姫がラダトームに嫁ぐさい、持参品へと 送った中に入っておったと報告されておる。だが、その船旅の途中、凶暴化したモンスターに襲われ、船は 全滅。それ以来行方が知れぬのだ。」


 思い巡らすと、歴史の一部にそんな話題があったような気がした。
「では、父上、ロトの兜は?」
「ロトの末裔が三国に分かれた際、ロトの兜の所有権を巡って家臣たちが争った時、 ラダトームの南東、聖なる祠の管理人に、その所有権を一時移動させた。その後正当な所有者が 決まることはなく、今もそこで管理されているはずだ。」
「了解いたしました。それを私が手にすることを、父上は許可していただけますか?」
 ローレシア王は、しばらく止まっていた。下手なことをすると国際問題になる。
「私はかのアレフ王はこのときのために、ロトの装備を我らが子孫に託したと、確信しております。 ロトの直系の王としてどうか英断をお願いいたします。」
 いっそ無視して王の間を去りたい衝動を必死で抑える。
「うむ、許そう。」
(かかった!)
「では、その証として、ロトの印を持ち出させていただいてもよろしいでしょうか?」
 これには、国王は難色を示した。まともに表情を変える。なにせ国宝であり、 もしレオンがのたれ死ねば永遠に失われることにもなりかねない。
 これが、レオン一人ならば断っただろう。ルーンと一緒でも考えただろう。だが、リィンが居る。 ムーンブルク王家最後の一人にして、実質は女王。(もちろん、やがてレオンと婚姻させるならば、 女王と言う立場を認めないほうがよいのだが)『味方』であると示す必要があるし、 恩を売っておかねばならない。
「…許そう。兵士には連絡しておく。」
「父上の温情、感謝いたします。」
 ぺこん、と礼をして立ち上がる。やっと猿芝居が終われること、ロトの印を持つことができる喜びに満ち溢れていた。
「リィン姫。…またここに再訪されることを願う。」
「はい、もちろんです。暖かなお言葉、わたくし決して忘れませんわ。」
「ルーン王子も気をつけて行かれよ。三人が無事で帰ってくることを、我は此処で祈っておる。」
「はい!ありがとうございます!!」

 一通り挨拶を終え、出ようとした間際、レオンはもうひとつ聞くことがあったことを思い出した。
「そういや親父、紋章って知らねえか?」
「レオン!!」
 まったく今までの芝居が無駄になるレオンの言葉だったが、あんなことばゆいこと、あと半年はしたくない。
 その気持ちが伝わったのだろう、リィンとルーンがフォローをする。
「とある方の導きで、ハーゴンの元にたどり着くのには、紋章と言うものが不可欠だと聞いたんです。」
 にっこりと笑いながら、ルーンは太陽の紋章を取り出す。
「紋章も伝説の品。歴史に詳しいローレシア王ならご存知ではないのかと思いましたのですけれど…」
「ふむ…知らぬが、これから調べておこう。また来るがいい。」
 そんな言葉に見送られ、ようやく王の間を出た。


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