精霊のこどもたち
 〜 偽王の玉座 〜

 それは寒い雪の夜だったと聞いた。

 凍るような空の下。教会の前に、籠にくるまれて捨てられていたそうだ。

 何故僕が捨てられていたのかは、今でも分からない。

 ”…ろ…”

 それを見つけたのは、その教会の主であった、そこの神父とその妻だった。

   二人が見つけたとき、僕は泣きもせず、ただ一点を見つめていたそうだ。

”…きろ…”

 まだ年若い夫婦には子供がおらず、夫婦が僕を拾い、自らのの子供として育てることにしたそうだ。

 そして、夫婦は僕に、こう、名前を付けてくれた。

 その、名前は…

「ルーン!!てめえいい加減起きろ!!!」



 その声に、ルーンは目を覚ました。ぼんやりと前を見ると、レオンが自分を揺さぶっていた。
「ルーン、とっとと起きねえと朝飯お前の分も食うぞ!!」
「…ルーン…」
「あ?」
 寝ぼけきったルーンの言葉に、レオンが首をかしげる。
「僕の名前…ルーン…?」
 その言葉を聞くやいなや、レオンはルーンの頭を押さえ込み、耳元で叫ぶ。
「いい加減寝ぼけてんな!!お前はルーン!ルーンバルト・サルン・ロト・サマルトリアだよ!!他に 何だって言うんだ!!!!」
 頭の中にレオンの言葉が響き渡り、ようやくルーンが夢の世界から覚めた。
「おはよー。レオン。今日もいい天気だねー。」
「…お前、一発殴っていいか?」
 そういいながら、レオンはルーンに頭を握りこぶしで叩く。
「痛いよー、ひどいよー。耳もまだじんじんしてるよー。」
「おめーが寝ぼけてるのが悪い!!」
 レオンがそういったとき、ノックの音がした。
「おはよう。入ってもいいかしら?」
 誰の声かは聞くまでもない。
「うんおはよー、リィンー。入っても良いよー。」
 扉が開き、身支度を済ませたリィンが入ってくる。
「おはよう、ルーン。レオン。…レオンの声、わたくしの部屋まで響きましてよ。他のお客様にも迷惑ではなくって?」
「なら、お前がルーンを起こすの変わってくれよ。」
「…ルーンは本当に朝に弱いですわね。でも、今日は仕方ありませんわ。昨日は遅くまで雨つゆの糸を捜してくださったのですもの。」
「あははー。」

 昨日はローレシアの旅の扉からザハンの旅の泉へと戻り、そこから東へひたすら進んだのだ。
 なぜそんな遠回りなルートを通ったかと言えば、リィンがラダトームの町で聞いた雨つゆの糸の情報を 思い出したからだった。
 ”ドラゴンの塔の3階にある雨つゆの糸は、不思議な力を持った糸。”
 それを探しにルプガナ側のドラゴンの塔へ向かったのだが…三階は広く、糸は見当たらなかったのだ。
 結局三人がはいつくばって探したが、見つけたのは例のごとく、ルーンだった。
「ルーンは本当に探し物が上手ですわね。なにかコツとかありますの?」
「んー?絶対そこにあるって信じて、あきらめないで探すこと…かなぁ?僕もよくわかんないけど。」
「それはともかく、何しに来たんだ?リィン?」
 レオンの言葉に、リィンはポン、と手を打つ。

「そうですわ。朝食が冷めますわよ。ルーンも早く準備して、食堂に下りてきてくださいませね?」
「うん、ごめんねー。レオンとリィンは先に行っててー。」
「おう、分かった。」
 二人が扉を出て行くのを見届け、ルーンは勢い良く起き上がって身支度を整えた。
 パジャマを脱いで、服を着て。…そして手を止めて、窓から外を仰いだ。
 冬はまだまだ遠く、気候は暖かかった。


 朝食を済ませ、三人が船に乗って向かった先は、かつて「聖なる祠」と呼ばれた場所だった。レオンがどうしても 先に行きたいと主張したのだ。
「まったくレオンはわがままですわね…」
「見つかるかわかんねー王様よりはロトの兜だろう?」
「でも、僕、レオンがロトの兜つけるの、楽しみだよー。」
 船は悠々と進み、目指す祠がゆっくりと見えてきた。
 そこはかつて、一人の老賢者が二つの聖具…雨雲の杖と太陽の玉から虹の雫を生み出したと 伝えられる場所、聖なる祠。そこには、その聖なる血を受け継いだ一人の賢者が今もなお、ロトの命を 守った兜を保管しているはずだった。

 それは伝説のかけらの場所とは思えないほど古びた埃のにおいがした。もう、何年も 誰も訪れていないのだろう。灯火もなく、ただ、階段に積もった埃が、三人の足跡を移していた。
 三人は、無言で階段を進む。…すると、暗闇に対抗するにはあまりにもささやかな灯りが、見えた。
「…誰だ…?」
 そう尋ねたのは、中年の神父だった。おそらく此処の守り手だろう。
「お前が、此処を守るものか?」
 レオンがそう口を開くが、神父はその言葉を聞いていなかった。ただ、ぽかんとこちらを見ていた。
「…アレフ…さ、ま…?」
 その言葉に、レオンは複雑な表情を浮かべる。
「いいや、俺はローレシアの王子、レオンだ。後ろはサマルトリアの王子、ルーンと、ムーンブルクの王女、 リィン。ローレシア王の許可をもらって、ロトの兜を受け取りに来た。これが、証拠だ。」
 そういうと、レオンはロトの印を神父の目の前に突き出す。
 その光景が、あまりにも父に聞かされた伝説じみていて、神父は涙を一粒落とす。
「おお…私は待っていた!勇者ロトの子孫が現れる、その時を…」
 そう言って、後ろにあった宝箱を開ける。…それは、儀式用ではなく、ひどく質素で丈夫そうな 宝箱だった。
「そなたたちにロトの兜をさずけよう!さぁ、その身に付けるがよい!!」
 取り出したのは、大きなロトの紋章を額に付けた、蒼き兜だった。
 それを神父の手から受け取り、レオンは二人を見た。二人は、深い優しさを込めた顔で、ゆっくりと頷いた。
 そっと自らの頭にかぶせる。4つのロトの装備のうち、三つがそろった瞬間だった。
「…おお…」
 神父がうめく。兜はうまく、レオンの幼さを隠し…その姿はまさにアレフの絵姿に見えた。
「三人でハーゴンを、討ってくる。…その日まで、これは借りとくぜ。」
 神父が頷いた。そして厳かにこう告げた。
「立ち止まらず、どうか限りなく前へと立ち向かうがいい、ロトの末裔たちよ…英雄のお帰りを私は待っておるぞ。」


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