精霊のこどもたち
 〜 この手に神の炎を 〜



 暖かな風が吹いていた。
 この国は、古くて、歴史があって…暗い思いを抱えているはずなのに、それでもどうして、 こんなにも気持ちがいいのだろうか。
 …わかっている。何故両親があれほどに自分を囲い込もうとしているのか。どうして あの狭い塔の中で軟禁されていなければならないのか。
 それは、両親の愛情であることも…自分は良くわかっている。

 …それでも、駄目だ。初めて聖書を読んだ時から。初めてルビス神を真近に感じた時から心の 指針がたった一点を指し示す。

 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。小さな自分の友人。…自分を理解してくれる人間が いることは、こうも嬉しいことなのだろうか。顔がほころんだ。
「…ようやく抜け出せた…」
 八つになったローレシアの王子レオンが、にっこりと笑った。
 勇者アレフに瓜二つと言われ、年をとるごとに、絵姿を似てくる。そして、伝承の勇者のようにこの少年は あまりにも真っ直ぐで…まぶしかった。
「…レオン。レオンには今、一番大切なものはあるかい?」
「いきなりどうしたんだ?」
「いや、聞いてみたかっただけだよ。」
 自分がそう笑うと、少年はしばらく考えて言った。
「わからねえ。親父は国とか言うんだろうけど…母上のことは守りたいと思うけど…でも…俺は…。」
 迷うレオンに、手を置いた。
「いいんだ。レオンにもいずれ…大切なものができるよ。それが物か、人かは知らないけどね。」
 自分のその言葉に、レオンは頬を膨らませた。
「知らないよ!父上がいつもそんなこと言うけど…俺はリィンなんて!!」
 そう言って、口を閉じた。
「わりぃ…別に俺、リィンのこと、嫌いじゃないんだ…けど、俺、婚約者とか言われても…」
「わかってるよ。でも、いずれレオンが選ぶ女性がどんなのか楽しみにしているよ。それがリィンなら 嬉しいけどね。レオンなら安心してまかせられるから。レオンは、どんな女性がいいんだい?」
 その言葉に、真面目に考え込むレオン。そして顔を上げる。
「どうしたんだ?なんか変だぞ?いつもはそんな話しないじゃないか?」
 その言葉に、苦笑する。言いづらくてごまかしていたのが伝わったのだ。

「…レオン、聞いてくれるか?」
「なんだ?」
「…城を出ようと思う。」
 その言葉に、小さな友人は目を見開いた。さぞ、驚いただろう。
「…やっぱり嫌なのか?」
「…嫌じゃない。駄目なんだ、自分はどうしても、親の望むとおりに生きられなかった。自分の 大切な物は…国じゃないんだ。」
 レオンは、涙をこらえているように見えた。やはり、親戚が家を出るのが嫌なのだろうか。自分の方が強いからだろうか、 レオンは自分を尊敬しているきらいがある。
「…レオン…ごめんな。」
 レオンは、袖で強引に涙をぬぐった。
「…もう、会えないのか?」
 その言葉に、もう一度嬉しくなった。
「いいや、しばらくはローレシアの近くにいるよ。」
 自分の言葉に、顔がぱっと明るくなるレオンが嬉しかった。
「ほんとうか!ほんとうに、また会えるのか?」
「ああ、会いに来るよ。そんな頻繁じゃないだろうけど、きっと会いに来るよ。いい子にして待ってて。」
 そう言って、レオンの頭をくしゃくしゃとなでた。
「俺は子供じゃないぞ!!」
 そういいながら笑う、レオンの顔がいつまでも心地よかった。



 なぜか、ローレシア城の前に立っていた。
「…なんでだよ…」
 つぶやかずとも、理由は良くわかっている。ロトの紋章を受け取りに来た時に、国王に6つの紋章についてのことを調べてもらう ように頼んでおいたからだ。
 そもそも、次の目的地はテパだったのだ。ならば、聖なる織り機を取りに行こうと言うことになり、ザハンに向かった。そうすると 近くの旅の扉が目に入り、ついでだから寄ろうと、ルーンが言い出したのだ。
「どうしたのー?レオンー?」
 頭をかしげるルーン。思わず足元に落ちていた石をルーンに向かって蹴飛ばす。
「うわぁ、ひどいよー」
 そう言いながらルーンは笑ってよける。リィンはレオンの心情がわかっていたのだろう、苦笑しながら言った。
「まぁ、とりあえず紋章の情報は必要ですわ。月の紋章は満月の塔にあるとしても、水の紋章と命の紋章のありかを ご存知かもしれないのですから。ここはこらえてくださいませ」
「…わぁったよ。」
 そういうと、レオンは一気に城まで駆けた。二人は何も言わずにその後を追った。
 レオンはそのまま見張り番をなぎ倒すような勢いで城に入り、王の間には向かわずに横にそれた。
「レオン、どこに行きますの?」
「そっちでいいの?お父さんに聞いたんでしょう?」
「いーんだよ!どーせ親父が調べてるんじゃねえんだから。」
 会いたくねーんだよ、とぼやきながらレオンはそのまま小さな部屋を訪れた。


「お帰りなさい、レオンクルス王子。」
 そこにいた老人は、にこやかにレオンを出迎えた。
 小さな部屋には所狭しと本が積まれ、なにやら良くわからない石などが置かれていた。おそらく この老人がローレシア付きの学者なのだろう。
「よう。親父に頼まれてること、わかったか??」
「紋章のことでございますね?その情報でしたら国王様から聞いてございます。」
「…あ?紋章の情報を親父が知ってたのか?」
 レオンの言葉に、学者が首を振った。
「正確には大臣の方からの情報と聞いております。ともあれ、私の専門からは、紋章の情報は出ませんでしたので…」
「で、なんなんだ?」
「はい、月の紋章は、どうやらデルコンダルにあるとのことです。」
 その言葉に、後ろに居たリィンが顔を乗り出した。
「なんですって!わたくしたち、てっきり月の紋章は満月の塔にあると思っておりましたのに…」
「その満月の塔なのですが。まず私はそちらの方から探っておりましたら、そこには『月のかけら』というものが 納められていると伝承でわかりました。」
「月のかけら…ってなんだ?」
 レオンの言葉に、ルーンが叫ぶ。
「ほら、巫女頭様が言ってたよ!『月のかけらが星空を照らす時、海の水がみちる。』って!!」
 ルーンの言葉に、学者は満足げに頷いた。
「それはザハンの伝承ですね、ルーンバルト王子。その月のかけらは、この海のどこかにある珊瑚で囲まれた洞窟に入るための 物だと伝承には記されておりました。そこは、神と魔にもっとも近い力のある場所で、かつては神官の修行場として 使われていたそうでございます。おそらく今はハーゴンの配下がいるでしょう。」
「…では、行ってみる価値はあるのですわね?」
「はい、リィンディア姫。」
 学者は真面目に頷いた。そして、レオンの方を振り向く。
「レオン王子。国王様からの伝言がございます。」


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